セクシーセクレタリーの流行を受け、「ベヨネッタ」メガネが人気に。

Fashion 2024.02.17

以前は「古臭い」と言われたメガネが、いまや女の子たちの間でオシャレなアイテムとしてもてはやされている。ランウェイやTikTok、女性インフルエンサーたちの影響で人気となっているのはどんなメガネなのか、詳しく見てみよう。

Z世代に人気なのは「ベヨネッタ」メガネだ。いかにも真面目そうな雰囲気を漂わせる小物が数ヶ月前からカムバックし、2024年も人気が継続しそうな勢いだ。どんなメガネかと言えばスクエアな長方形タイプでレンズは透明、フレームの素材はブラック、べっこう風あるいは金属製だ。いかにも2000年代のオタク風メガネだが、これが一転、セクシーと感じさせるのが、流行を優しく形作る"時"という要素なのだ。長い間片隅に追いやられていたバレエシューズやレッグウォーマー、UGGシューズのように、古臭いとされたメガネが今では注目のファッションアイテムとなっている。

TikTokでは、#bayonettaglassesというハッシュタグだけで5,500万回近くのビューがある。「ベヨネッタ」のネーミングは一体どこから来たのだろうと不思議に思う人もいるだろう。これは同名のビデオゲームに由来しており、主人公は超自然的な生物と戦う豊満なメガネ魔女だ。バーチャルな世界で超セクシーかつパワフルな女性として描かれるベヨネッタは、妄想の対象であると同時に憧れの存在でもある。

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モデル兼歌手のガブリエットは、ベヨネッタメガネを流行らせたインフルエンサーのひとり。photograhy : Gilbert Flores / WWD via Getty Images

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メガネの社会学

メガネをかける女性はオフィスで長い間、ジェンダーバイアスの対象だった。その一方でポルノ画像に触発された男性たちは、お団子ヘアにキリッとしたスーツを着た女性たちが自分の魅力にメロメロになり、解き放たれる姿を妄想した。2013年のある調査によると、男性の36%は秘書(セクレタリー)という存在に一番、想像力をかきたてられるそうだ。ロラン・バルトの『記号論の原理』によれば、あらゆる慣用はその慣用の記号となる傾向がある。だからこうした男性の想像力はメガネ女性の概念を変容させ、彼女たちはもはや単なる近眼の女性ではなく、魅惑的な女性とみなされる。作家でもあった大学教授のフランク・エヴラールが2003年に執筆した『L'Érotique des lunettes(原題訳:メガネのエロティシズム)』で説いているように、(たとえば学校の校庭で体験した)「屈辱的な現実」を逆転させ、「魅力的でモダンな存在」となることが可能なのだ。女性たちは自らトレンドの鍵を握り、古臭さを新しさに書き換えた。

3つのマイクロトレンド

「ベヨネッタ」メガネの流行は、ファッションの荒波を越えていく数々のトレンドのひとつに位置付けられるだろう。集合的無意識の中でこれはとてもインテリっぽい小物であり、その慎ましさが最近のトレンドとマッチしている。とりわけSNSでの3つのマイクロトレンドと相性がいいようだ。ひとつは"office sirens(オフィスサイレン)"というスタイル。"サイレン"とは魅惑的な女性を指し、要するにフェミニンなオフィススタイルのことだ。マストアイテムはペンシルスカートにジャストフィットのシャツの襟ボタンを開けて着こなし、革のハイブーツやパンプスを履くこと。カラーパレットはグレー、ブルー、ブラックのニュートラルカラーだ。ドラマ「SUITS/スーツ」のメーガン・マークル、映画『プラダを着た悪魔』のジゼル・ブンチェン、ドラマ「ザ・プラクティス ボストン弁護士ファイル」のララ・フリン・ボイルら、1990年代から2000年代にかけてアメリカの企業で働いていた女性たちを思い浮かべてほしい。

メガネはまた、"secrétaire core(セクレタリーコア)"の秘書スタイルに不可欠なアイテムだ。これは前述のオフィスサイレンと似たようなスピリッツとカラーパレットを持つが、ワードローブはもう少し緩やかで、キトンヒールパンプスやボタンカーディガン、オーバーサイズのブレザーもありだ。これを"librarian core(ライブラリアンコア)"の司書スタイルと関連づける人もいる。この3つめのスタイルは同様に野暮ったいとされる服を好ましいものとしてみなすものだが、アカデミックな雰囲気に重点を置いている。ローファーに白いソックス、タータンチェックのスカート、ウールやツイード製品が主体となる。

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それにしてもなぜ流行った?

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ミュウミュウ2023年秋冬コレクションでは、上記のセクレタリーコア、ライブラリアンコア、オフィスサイレンのマイクロトレンドがすべて揃っている。photography : Imaxtree

ファッションに周期性があることは言うまでもないが、時にはちょっとしたひと押しによって、これまでファッションの世界で傍に追いやられていたアイテムが復活する。ラグジュアリーブランドは今回の復活を予測もしくは予見していたのか、2023年3月に発表された秋冬コレクションではメガネが偏在していた。ルイ・ヴィトン、ボッテガ・ヴェネタ、フェンディ、メゾン マルジェラ、バレンシアガで、このシーズンの小物として取り入れられている。特にミュウミュウの2023年秋冬コレクションは、今から振り返るとまるで予言のようだった。カーディガンを重ね着したくずし髪のモデルたちはバッグを手に、グレー、ベージュ、ブラックの単色の服を纏い、次々と登場した。地味なルックにひねりを加えているのは、同じく流行中の"ノーパンツ"のスタイルだったことだ。

ブランドだけでなく、もちろんSNSの存在も大きい。モデルのベラ・ハディッド(インスタグラムのフォロワー数は6,000万人)が15~30代の嗜好に与えた影響は否定できない。いくつかの雑誌によると、「ベヨネッタ」メガネが流行ったのは彼女がきっかけだそうだ。もちろん、モデルのガブリエットのように、他にも寄与している人はいる。ただ、SNSがなければベヨネッタメガネはこれほどの成功を収めただろうか。他にもZ世代が就職しはじめたとか、ミニマリストの美学が復権して長年のストリートウェアの隆盛に少し穏やかさをもたらしたといった事情もあるだろう。いずれにせよ、メガネもファッションアイテムとして、いよいよ見過ごせない領域に入りつつある。

text : Sarah Renard (madame.lefigaro.fr)

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