2024 SS コレクション座談会 おしゃれ猛者たちのトレンド本音トーク。【2024年春夏リポート】

Fashion 2024.02.18

スタイリスト、エディター、ジャーナリストと立場は違えど、いずれも筋金入りのおしゃれのプロたちが徹底トーク。今シーズンの全体ムードから注目ブランド、私的ベストアイテムまで、話題は尽きることなし。ベーシック派もアヴァンギャルド派も納得のリアルな春夏トレンドをお届けします。

飯田珠緒
Tamao Iida/独自の審美眼と時流を解したスタイリングで、モード誌を中心にカタログから広告まで、幅広いジャンルで活躍。音楽をこよなく愛する。@tamaoiida

栗山愛以
Itoi Kuriyama/ファッションへの鋭い視点と知識を持つライター、エディター。madameFIGARO.jpでは、ユーモラスなイラストとともに「栗山愛以の勝手にファッション談義。」を連載中。@itoikuriyama

森田華代
Kayori Morita/フィガロジャポンをはじめ、数多くのモード誌でフリーランスエディターとして活躍。マニッシュなスタイルを好む。今シーズンのパリコレでは、久しぶりに現地を取材。

塚本 香
Kaori Tsukamoto/元フィガロジャポン編集長。現在はファッションジャーナリスト&エディトリアルディレクターとして活動する。3シーズン続けて、小誌のトレンドリポートを編集。@kaorinokarami

塚本 香(以下、塚本) ここ数シーズン継続の「ベーシックの再解釈」がキーワードの筆頭でもある24春夏ですが、久しぶりにパリコレ取材に復帰した森田さんと飯田さんはどう感じました?

森田華代(以下、森田) トレンドというより全体のムードとしては「原点回帰」かなあ。言葉としては仰々しいけれど、それぞれのブランドが自分らしさを能動的に打ち出していたという印象。パリではないのですが、グッチの新クリエイティブディレクター、サバト・デ・サルノの初コレクション(1)がいちばんわかりやすい例。Ancora(再び)というテーマは、グッチというブランドのそもそものイメージ、グラマラスなイタリアンモードに立ち返ることを意味していると思うし、パリでいうとブランドを象徴するサファリルックにフォーカスしたサンローラン(2)洗練されているけどノンシャランな女性像を表現したシャネル(3)もそうでした

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1 Gucci

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2 Saint Laurent

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3 Chanel

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飯田珠緒(以下、飯田) 3年半ぶりでしたが、自分としては大興奮とはならなくて、淡々と見た感じです。素敵なショーもたくさんあったことはあった。ジョナサン・アンダーソンがロエベで見せた極端なハイウエストのプロポーション(4)ミュウミュウのスイムパンツやスイングトップのスタイリング(5)アンソニー・ヴァカレロのサンローラン(2)も大好きでした。スタンダードなアイテムをそれぞれのデザイナーのセンスでいまの時代にアップデートしている。どれも気が利いていまっぽいけれど、なんだか隙間産業みたいで(笑)、うぉー!というような気持ちにはならなかったです。

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4 Loewe

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5 Miu Miu

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栗山愛以(以下、栗山) ここ数シーズンずっとそうですよね。知っているものをアレンジしているから衝撃的というわけではない。グッチはヘアメイクもナチュラルでとてもリアルな服でしたね。驚きがあったのはルイ・ヴィトン(6)。これまでずっと構築的な服を作っていたニコラ・ジェスキエールが真逆のふんわりした服を打ち出してきた。エアリーとか軽やかというのが、ルイ・ヴィトンだけでなくパリコレ全体のムードだった気がします。みんな肩の力を抜いている感じ。

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6 Louis Vuitton

塚本 栗山さんは肩の力、抜かないでしょう(笑)? エアリーとは無縁な栗山さんがいいと思ったブランドは?

栗山 私だって抜きます!(笑)。いいと思ったのはバレンシアガです。デムナのクリエイションにはユーモアがあるし、やっぱり楽しい。今回のショーでもファッションの楽しさがキャスティングから小物までいたるところで表現されていました。だってファーストルックは母親がモデルで、ラストは自分の夫にウエディングドレス(7)を着せて登場させたんですよ。ああ、デムナはいま幸せなんだなあとつくづく思っちゃいました。

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7 Balenciaga

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塚本 私も栗山さんに一票。今回のバレンシアガはデムナのパーソナルなストーリーが凝縮されていてそういう意味でとてもよかったと思う。ベーシック回帰になればなるほど、それぞれのデザイナーがクリエイション力を発揮しないとただの着やすい服になってしまうけれど、バレンシアガには彼のエッセンスがちゃんと注入されていたから。

森田 こういうストーリーが込められているコレクションはやっぱりショーで発表する意味がある。

栗山 あと、グッときたのはやっぱりフィービー・ファイロ(8)です。

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8 Phoebe Philo ©Courtesy of Phoebe Philo

塚本 いきなりそこに行っちゃいます? では、フィービーの作る服が大好きという顔ぶれなので、10月30日にブランドの公式サイトで販売開始となった彼女自身のコレクションについて、ひと言ずつお願いします。6年半ぶりの待ちに待った復帰となりました。

森田 そもそも日本へのデリバリーはないし。買えないから負け惜しみに聞こえるかもしれないけど、少し期待しすぎたのかなというのが正直なところ。

飯田 私も。Tシャツもパンツもニットも好きだったし、値段は高いけどクロンビー風のコートもいいなあとは思ったけれど、昔ながらのフィービーだったし、もっと裏切ってほしかった。

塚本 栗山さんは何か買いました?

栗山 何も買っていないんです。でも、ひとつひとつのアイテムがどうというより、あの世界観に心奪われてしまって。それこそ肩の力抜いて、でも攻めてるアイテムを年を重ねた女性が着ている。そういう姿勢がカッコいい。

森田 それはわかります。

塚本 フィービーはクワイエットラグジュアリーの文脈で語られることも多いけれど、すごく攻めてる服ですよね。シンプルに見えつつ、シルエットにしてもディテールにしてもちょっとだけ変なところがあって、そこが魅力だった。

飯田 こっちが期待しすぎちゃったのかもしれない。でも、次の春夏はフィービーが提案していたカーゴパンツみたいなものがたくさん出てきますよ。フィービー・ニセロだけど(笑)

塚本 それぞれにフィービー愛が強すぎてこの話はきりがないので、無理やりコレクションに戻って──ニセロじゃなく春夏を攻めるとしたら、どんなスタイルやアイテムが気になります?

森田 キラキラしたものが多かったし、肌見せは街を歩いていてももう昔とはマインドが違うんだなというくらい浸透していて、次の春夏も継続のトレンドだし、そういうキャッチーなアイテムはひとつのキーになると思う。

飯田 キラキラといえばプラダのすだれみたいなフリンジスカート!(9)

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9 Prada

森田 肌見せアイテムとして新しいのは金太郎みたいなトップ。シャネル(10)にもミュウミュウ(11)にもあった。

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10 Chanel

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11 Miu Miu

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飯田 秋冬のミュウミュウの影響でパンツ一丁もとにかく多かった。私は大好物でよく撮影のコーディネートでも使っていたけれど、あまりのブームの過熱ぶりに、自分にはしばらくブルマー禁止を課そうと思ってます。

栗山 ドリスヴァンノッテンにもありましたよね。あのスタイリング(12)は可愛かった。

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12 Dries Van Noten

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飯田 さっきも話したのですが、私はムッシュの遺産をリスペクトしながら現代のサンローランを提案している、ヴァカレロをずっと応援していて。でも、これまではカッコいいけれど、自分のリアルとは違う服と思っていたら、この春夏はものすごく寄ってきてくれた(笑)。

塚本 ユーティリティも春夏のキーワードのひとつだから、ワークウエア好きの飯田さんに寄ったシーズンです。

飯田 サンローランのジャンプスーツやカバーオールとパンツのセットアップ(13)プラダにもカバーオール(14)が登場していたし、そういう機能的アイテムをエレガントにコーディネートするのがいいと思う。ミュウミュウのスイングトップ(5)も買いたいもののひとつ。

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13 Saint Laurent

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14 Prada

栗山 普段着っぽいものが多いから、何も買わなくても自分の持っているアイテムをスタイリングで新しく見せることができるかもと思ってしまいました。ドリスヴァンノッテンのドローストリング使いのラガーシャツ(15)ロエベの超ハイウエストのパンツ(16)のようにそれさえ着れば完成というほかにはないデザインのものもありましたが。個人的にはもちろんロエベのパンツは買います。メンズのショーですでにあのハイウエストは登場していたので、すごい驚きがあったわけではないのですが、ずっと気になっていたので。

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15 Dries Van Noten

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16 Loewe

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森田 個人的にということでは、私が好きだったのはルイーズ・トロッターがクリエイティブディレクターに就任したカルヴェン(17)

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17 Carven

飯田 私も好きでした。すごく新しい何かを提案しているわけではないけれど、スタイリングのバランスや色のトーン、小物使いなど全体のセンスがいい。

森田 ショールームでのプレゼンテーションの方法も素敵でした。置いてある家具やケータリングまでちゃんとブランドの世界観が表現されていた。

飯田 前のラコステと同じで、スザンヌ・コラーがショーのスタイリングをしているのも大きいと思う。

塚本 カルヴェンはいまパトゥを手がけているギョーム・アンリがアーティスティックディレクターだった2010年代に大人気でしたね。彼が去ってビジネス的に苦戦していた時期もあり、今回のランウェイで本格復活。この春夏は日本での展開はないけれど、私も好きでした。

栗山 飯田さんや森田さんがスザンヌ・コラーに惹かれるように、私はロッタ・ヴォルコヴァのやることが好きで、彼女がスタイリングをしていると聞いてオールイン(18)という夜中のオフスケジュールのショーに行ったんですが、勢いを感じました。ロッタがコンサルタントとして関わっていることが現在のミュウミュウのスタイルに大きな影響を与えていると思うし、デザイナーだけでなく誰が関わっているのかも重要な気がする。

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塚本 カリスマデザイナーがいた時代とは違ってきているということですよね。そういう背景もあって、トレンドもみんな右に倣えじゃなく、多様化していてわかりにくくもなっている。

栗山 でも、トレンドはやっぱり無視できないです。ただ、それに思いっきり合わせるのでなく、自分のスタイルに時代の空気感を取り入れるということ。私の場合、好きなテイストは変わらないけれど、それを貫き通すと変な人になっちゃうから(笑)、その着地のさせ方、素敵にアレンジする方法としていまのムードを入れるのは重要。今回だとやっぱり軽やか、ちょっと肩の力を抜いておこうかなと。

塚本 肩の力抜いて、でもバレンシアガのパスポート(19)ハイヒールのクラッチ(20)は買うんでしょ?

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19 Balenciaga

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20 Balenciaga

栗山 この間、24年フォールのランウェイを見ていたら、コーヒーカップのクラッチが出ていて、それとどっちにしようか悩んでます。

飯田 私も自分の好きなものは決まりきっていて、あまりにオルタナティブすぎるからそこは認めつつ、自分のスタイルに合った要素をトレンドからピックアップして取り入れる。今回はそれがワークウエア的なもの。

森田 好きなものは変わらないから私もずっと同じようなスタイルをしていることになるけれど、だからといってそのシーズンの新しいものを買わないでいると急に古ぼけた人になってしまうような気がして。トレンドにはいまの空気感が反映されているから、それを取り入れないとどこかで止まっちゃった人になってしまう。じゃあ、具体的に春夏どういうものを買うかと聞かれると、まだそこまで追いついてない。さっきから私たちばかりに聞いてますけど、塚本さんはどうするんですか?

塚本 私ですか? この座談会の司会進行としてはやっぱり最初に戻って「ベーシックの再解釈」でいきます。そうでないと話が終わらないから。

>>2024春夏コレクションリポート。

*「フィガロジャポン」2024年3月号より抜粋

photography: Spotlight editing: Kaori Tsukamoto

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