9月24日~10月1日、2025年春夏パリコレクションを訪れた編集長KIMが、パリの街を駆け巡った日記です。
せっかくパリコレに来たなら、いままで知らなかった才能と出会いたいと願うのは当然。新しい時代を創るデザイナーのショーは客層も異なっておもしろい。
ニッコロ パスカレッティはザ・ロウやロエベでも経験を積んだ若手デザイナーが作るブランド。シャツドレスやジャケットは品のあるオーバーサイズ、クロップト丈もしくはフルレングスのワイドパンツなど、肩の力を抜いたエレガントな服たちは、大人シックな日常着。ルメールのような心地よさも感じる。フィナーレに登場したブロンド長髪のデザイナーも気取りなくシャイなムードで、なんだかとても愛らしい。
デュラン ランティンクは、MVなどに起用されて話題を呼んでいるオランダ人デザイナー。身体の丸み、ふくらみを強調する服作りで、ユーモラスだけれど、人体への深い興味を感じる。バストを強調したり、ヒップはボディや肌そのものを見せるように服を設計。けれどプリントは愛らしい小花柄をセレクトしたり、軽快なボーダーで飾ったり、陰陽が強く同居するような発信がユニーク。
ヴァレンティノは、アレッサンドロ・ミケーレが就任して初のプレタポルテで、今回のパリコレで最も注目されていることのひとつ。ショー会場は住人が不在の館のように、家具に薄布が掛けられたような設え。アンニュイな雰囲気でウォーキングするモデルたちが纏うのは、精工な刺繍が施され、フリル、レース、プリーツで装飾された繊細な服。タッセル、リボンなどがたくさんのルックに見られた。ファーストルックからリボンのドレスが登場。限りなくロマンティックでメランコリック、そしてインティメイトなものが真髄にあるコレクション。30年代、ハリウッド黄金期の女優のルームウエアのような趣があった。
イザベル・マランは、ファンを裏切らない、ファンとともに好きなものを育んできたイザベル・マランだからこそできるショー。パレロワイヤルの中庭でアフリカのリズムを刻んだ。ミニドレス、レザーブルゾン、グラディエーターサンダルなど、ヘルシーに足や肌を見せるルックの数々。フリンジ、エスニックプリント、アースカラーなど、大地のエネルギーを感じる。ロングのモデルが風に髪をたなびかせる様もGOOD!
ReSeeやプレゼンテーションスタイルの展示会も期待のブランドばかりが揃った9月29日。アンダーカバー、バーバリー、ロエベ、エルメス、マーガレットハウエルを訪れた。
アンダーカバーは新しくオープンしたマレのボナパルト通り沿いのドーバーストリートの地下で行われた。入るなり、トルソーに飾られたルックのアクセサリーに釘付け。ヘッドドレスも究極的にキレイ。クラシックなフォルムなのにクールに見せる色や素材の選びに唸る。スタイリングもめちゃカッコいい。足元のソックスとパンプスも。ジップが洋服のシルエットを構築するという研ぎ澄まされたデザインなのに、果実プリントもある。対照的な要素が共存。ロエベは間近で見るのをすごく楽しみにしていた。ファーストルックはなんとマザーオブパールで羽をかたどったトップ! 羽ごとTシャツは印象派の絵画や音楽家のバッハの肖像が描かれている。水彩画のようなイラストのプリントをワイヤーに載せたドレスの足元はスニーカーで、ロエベで人気のバレエランナーのリモデルだそう。今回、「動きを留める」意図をもって作られたワイヤーのユニークなピースを近くで見られたのはラッキー。レザーを贅沢に使ったマドリードバッグは、機能性も担保された新作。日本への入荷も待ち遠しい! エルメスの展示会はいつも楽しみ。ルックのほかに、小物ではサックドゥジュールという新作バッグやホースヘアを用いたランウェイでも登場したアクセサリーなどが推し。メゾンの展示会も同時開催で、色彩豊かな絵皿やお弁当箱(?)らしきおもしろい容器などが展示されていて、エルメスの遊び心がよく理解できる時間に。そして、ヴァンドーム広場の奥に構えるショップで展示会を行ったのはマーガレット ハウエル。マーガレットさんご本人も在店していて、本当に「気」の澄みきった美しさを感じる女性だった。いくつかのアイテムは80年代や90年代に発表された服をリモデルして現代に合わせて発表。何気ないシャツでも、どこかディテールが異なる。微差に心を尽くすブランドの美学を、創業者を目の前にして感じられた。