トルコ生まれの姉妹の記憶と想像が織りなす、「ナキエ」のクラシックスタイルとは?

Fashion 2025.10.08

トルコ・イスタンブールを拠点に活動する姉妹デザイナーデュオ「Nackiyé(ナキエ)」。彼女たちの服には、記憶、感覚、観察、そして想像が静かに織り込まれている。トレンドに流されることなく、自分たちの"クラシック"を信じて歩むふたりに、クリエーションの哲学を聞いた。

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左から姉のバサック・コジャビイコール、妹のデフネ・コジャビイコール。ともにトルコ・イスタンブール出身。バサックはロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で政治学を学んだ後、セレクトショップ「ブラウンズ」のバイヤーに。デフネはロンドン大学ゴールドスミスカレッジで建築を学び、ファッションブランドでキャリアをスタート。姉妹ともにイスタンブールに戻り、2019年に「ナキエ」を設立。

──「ナキエ」というブランドの出発点を教えてください。

バサック:ナキエの根底にあるのは、私たち姉妹の個人的な物語。とてもパーソナルなところからスタートしました。私たちがどこから来て、どこに属しているのかを見つめ直す旅のようなもの。幼い頃やティーンエイジャーの頃に感じた記憶や感覚、そして私たちのルーツをファッションに落とし込んでみたいと思ったんです。ブランドを始めたいと思ったのは、妹のデフネの方が先でした。私はその頃、ロンドンのセレクトショップでバイヤーとして忙しく働いていたから。

──"トルコらしさ"とは、あなたたちにとってどんなものですか?

バサック:トルコらしさというのは、感覚そのものです。東地中海のあたたかい光と、西洋のモダンなエッジが自然に交差していて、装いの上でも、"静けさ"と"カオス"が同居している。ゆるやかなフォルム、丸みのあるライン、そして幾重にも重ねたレイヤードスタイル......。どれもが私たち、トルコ人の文化的感性の延長です。それはルールに縛られない即興性が生み出す産物でもある。私たちは完璧さよりも、少しの"ズレ"や"偶然"を大切にしています。

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プレシャスカーゴジャケット(カーキ)  ¥242,000

──アンカラでの子ども時代も、創作に影響を与えていますか?

バサック:アンカラは刺激の少ないとても静かな街で、空想する時間がたっぷりありました。自分たちで遊びを生み出し、世界を想像していました。そこでの日々、そして環境は私たちのクリエーションに大きく影響していると思う。絵を描いたりスケッチをしたり......。それがいまの感性の原点です。大学進学のためロンドンに渡った後、トルコ・イスタンブールへ戻ってブランドを立ち上げました。ブランドビジネスを始めるあたり、ロンドンは競争が激しかったのもありますが、ナキエの物語の大部分はトルコが占めている、ということも大きな理由でした。さらにトルコには優れた職人や工房が多く、手仕事のリズムを肌で感じられる。静かな場所で集中して手を動かし、語り合う時間を持てることが、私たちにとって何より大切なのです。もちろんPR的には不利かもしれませんが、その静けさが創造に必要な"余白"を与えてくれるのです。

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──コレクションはどんなテーマから生まれますか?2025年秋冬については?

バサック:いつも、とても個人的な感情から始まります。幼少期の記憶や旅先の風景、ふとした香り、あるいは過去に触れた質感のような抽象的なものまで。今年の秋冬は90年代が着想源。私と妹のデフネがティーンエイジャーだった頃、恵まれていた自由な時間をのびのびと過ごしていたときの素晴らしい日々の記憶です。たとえば「色」。グレーや淡いトーン、パステルカラー、そして口紅のような発色の良い赤。それは私たちの瑞々しい記憶と結日ついています。カシミヤのツインセットやテイラードジャケット、クリーンなカットのパンツなど、懐かしさと新しさが溶け合ったシーズンになっています。

──制作のプロセスで好きな部分は?

デフネ:私たちはいつも素材選びから始めます。色や質感に触れ、布に手を滑らせながら想像を広げていく。私はリサーチと構想の初期段階が好きです。姉とは違うリズムで動きながらも、絶えず対話しています。お互いアイデアが交錯することで新しい発想が生まれるから。

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ニット(ブラウン、ブラック)¥143,000(11月発売予定)

バサック:私は、コレクションが完成に近づき、スタイリングを考え始める段階が好き。重ね着のアイデアを練るのも大好きです。あとはビジュアル撮影もワクワクします。服作りって、閃きから始まり、どんどんアイデアが溢れてきて、私たちは一体、どこに着地するんだろう? と自分たちでも旅を楽しむ感覚で仕事に取り組める。そして最後には服という形になって、お客様の元に届く。そんなデザイナーという仕事を私たち姉妹はとても楽しんでいます。

──姉妹でブランドを続ける強みは?

バサック:チームはありますが、メインの"エンジン"は私たち姉妹。迷った時に、相手が投げ返してくれる言葉が、お互いの思考を整理してくれます。私たち姉妹は、日々、同じオフィスで働き、自宅も近所で、常に会話をしています。永遠に終わりのない対話が続く中で、コレクションが少しずつ輪郭を持ちはじめ、形になっていく。その過程こそがナキエの心臓部、そして強みだと思います。最初からふたりでやってきたからこそ、このリズムが生まれたのだと思う。

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シャツ(ブルー)¥110,000、シャツ(ラベンダー)¥121,000(11月発売予定)

──現代を生きる女性にどんな服を届けたいですか?

デフネ:働く人であり、母であり、時に起業家でもある。家で過ごす時間を大切にしながら、旅をし、世界と繋がっていく。そんな女性たちが抱える"たくさんの顔"を包み込むような服でありたいと思っています。忙しい毎日を駆け抜ける中で、女性は多くの役割を同時にこなしている。そのどの瞬間も、美しく、自分らしくいられるように。目を引く存在でありながら、決して"やりすぎ"にならない。そんな絶妙なバランスこそが、ナキエのデザインの根底にある考え方です。

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──ナキエというブランドのキーワードは?

バサック:ナキエの服には、さりげない"刻印"のような要素が散りばめられていて、少しだけ"ユーモア"も忍ばせてあります。あまり深刻になり過ぎず、軽やかに生きること。人生は思い通りにいかない出来事の連続なのだから。少し笑えるくらいが、ちょうどいいんです。それからもうひとつ、"ユニフォーム"という考え方。それは、さまざまな役割を生きる女性たちのための装いに最適です。たとえば、きりりとしたシャープな日にも、リラックスしたカジュアルな時間にも。「今日は目立ちたくない」日もあれば、「今日は覚えていてほしい」日もある。そのどちらの気分にも寄り添う"日常のユニフォーム"を、私たちはデザインしたいのです

──デザイナーという仕事の魅力は?

バサック:私にとって、この仕事でいちばんの喜びは"人と出会うこと"。ファッションの世界は、素晴らしいクリエイター、バイヤー、そしてクライアントたちと出会わせてくれます。その出会いが、ナキエの旅を豊かにしてくれました。日々、美しい素材やボタン、生地に囲まれて過ごせることも幸せ。まるでおもちゃ箱の中にいるように──触れて、見て、想像して。そこから、お客様の姿を思い描く時間もまた、インスピレーションに満ちています。私たちの創作は、子どもの頃の記憶から、旅の途中で出会った人々、街で見かけた誰かの仕草まで、あらゆるものから生まれます。とにかく私たちは"観察する"ことが大好き。子どもの頃は、レストランで知らない人たちをじっと観察していて、両親が恥ずかしがるほどでした。でもいま思えば、その"人を見つめる癖"こそが、私たちのいちばん大切なインスピレーション源になっています。

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シーシェルカシミアカーディガン (レッド) ¥132,000、パールカシミアショートスリーブクルーネック (レッド) ¥110,000

──仕事以外で大切にしている時間は?

デフネ:絵を描くこと。その時間は私にとっては瞑想のようなもので、その延長線上にあるのが、建築やインテリア、ガーデンへの興味です。どれも形ある美しさを通じて、心を鎮め、想像を巡らせる行為で、忙しい日々の中でもほんの少しだけ、心がほぐれる気がします。

バサック:私はガーデニング。まだ憧れの域を出ないけど、トルコではあまり一般的ではない庭いじりにとても惹かれます。いつか自分の庭を持って、想像の中で作り上げた風景が現実になったら・・・そんな夢を描いています。

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シュガーマンニットロングスリーブポロ (チャコールグレー) ¥108,900
問い合わせ先:
ロンハーマン
0120-983-781(フリーダイヤル)
https://ronherman.jp/

interview & text:Tomoko Kawakami

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