【フィガロジャポン35周年企画】 パトゥのデザイナー、ギョーム・アンリ語る、退屈が想像力の原点とは。

Fashion 2025.11.23

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アールドゥヴィーヴルへの招待 vol.4
2025年、創刊35周年を迎えたフィガロジャポン。モード、カルチャー、ライフスタイルを軸に、豊かに自由に人生を謳歌するパリジェンヌたちの知恵と工夫を伝え続けてきました。その結晶ともいえるフランスの美学を、さまざまな視点からお届けします。

どんな環境で育ち、母親はどんなスタイルの持ち主で、父親からはどんな影響を受けたのか──。2009年、カルヴェンでブランドイメージを一新し話題となったファッションデザイナー・ギョーム・アンリが、家族写真と共に、芸術性が育まれた子ども時代を語る。


生まれた農村地帯の退屈が、私の想像力を刺激した。

Guillaume Henry/ギョーム・アンリ
パトゥ アーティスティック・ディレクター

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1978年生まれ。美術学校卒業後、モード大学院で学び、ジバンシィ、ポールカで経験を積む。2009年、カルヴェンでブランドイメージを一新し話題に。15年にニナリッチ、18年より現職。

ニコラ・マチューの『Leurs Enfantsaprès Eux』(『最果ての子供たち』8月、早川書房刊)を読んで、これは1990年代の自分そのものだと思いました。自分もフランス東部に育ったのです。チーズで有名な町、ラングル近くにある人口約300人のユームという小さな村です。農村地帯だったので子どもの頃は退屈な日々でした。兄ふたりは自分が7歳の時に家を出ました。でも、この環境で育ったことが想像力を育み、いまの自分を形成したのでしょう。祖母ふたりはいつも作業着を着ていて、洋服を繕うのが当たり前の世代でした。祖母たちが箱に溜めていたボタンは、ずっと眺めていても飽きることがありませんでした。

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出会う前の両親。父は兵士で母は学生だった。感動的なのは、これから生涯の相手と出会うことをふたりともまだ知らないこと。

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母マリー=ジャンヌと父ジャンの結婚式。

両親は実力主義という言葉がまさしくふさわしい、素晴らしい人たちでした。母のマリー=ジャンヌは教師でした。とてもエレガントで、興味があることは父同様フランスの歴史、文化、政治でした。身だしなみにはいつも気を遣っていて、とりわけ日曜日の家族での食事や村の祭りにはおめかししていました。クローゼットには買い物用のコートとレストランでのディナー用のコートが並んでいて、私は洋服にも種類があることを学んだのです。母は肩のラインを重視し、構築的なジャケットが好みでした。私もそうです。ビビッドカラーは決して着ようとせず、ある意味実用的で自分らしいおしゃれを楽しんでいました。母のイヤリングの輝き、愛用していたパロマ・ピカソの香水の匂い、漆黒の美しい髪、そして、パンツであろうと前ボタンのスカートであろうと無頓着に手をポケットに突っ込む癖を覚えています。年に一度、トロワのファクトリーアウトレットに行く母のお供をしました。どの店も好きでしたが、とりわけストラップのネグリジェを売っていたクリスティーヌ・ロールというブランドにワクワクしました。ブランド名がフランス人っぽい名前でいいな、と思っていたのです。

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母といえばボブカット。黒のスーツも完璧でとてもおしゃれ。いまでも笑顔が最高です。

父のジャンは銀行員でユーム村の村長でもありました。父が特別な機会に着ていた黒いシャツを思い出します。とても格好良く見えました。父がよく着ていたスーツはシンプルで、白かオックスフォードブルーのワイシャツにペイズリー模様のタイを合わせていました。こうしたディテールからも父のこだわりが感じられます。

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両親はとても仲が良く、服装まで似ている。

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10年ほど前の父と私。写真ではわからないけれど、実は父のほうが背が高い。

ラクロワやサンローランのファッションショーのニュースがテレビで流れるたびに私が夢中になっていたので、ファッションに興味があるのだと両親はすぐに気付きました。14歳の誕生日に父からマネキン人形をプレゼントされたこともあります。いま、ふたりは私のファッションショーに必ず顔を出してくれます。でも両親にとってはファッションデザイナーも単に職業のひとつであり、息子は職人なのです。両親からは、服は人となりを真に反映するものという感覚を受け継ぎました。

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2025AWのキーカラーは黒、白、赤の大胆な組み合わせ。都会的でエッジの効いたライフスタイルを表現。

*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋

text: Marion Dupuis (Madame Figaro)

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