【フィガロジャポン35周年企画】 田舎暮らしからファッション界へ、マリーン・セル誕生の歴史をたどる。

Fashion 2025.11.26

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アールドゥヴィーヴルへの招待 vol.4
2025年、創刊35周年を迎えたフィガロジャポン。モード、カルチャー、ライフスタイルを軸に、豊かに自由に人生を謳歌するパリジェンヌたちの知恵と工夫を伝え続けてきました。その結晶ともいえるフランスの美学を、さまざまな視点からお届けします。

どんな環境で育ち、母親はどんなスタイルの持ち主で、父親からはどんな影響を受けたのか──。デザイナー・マリーン・セルが、自身のブランドの誕生秘話とともに、芸術性が育まれた子ども時代を語る。


エレガントな母と、スポーティな父との田舎暮らし。

Marine Serre/マリーン・セル
マリーン・セル デザイナー

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1991年生まれ。ベルギーのラ・カンブル国立美術学校在学中からメゾン マルジェラなどで経験を積み、2016年にバレンシアガのデザインチームに参加。自身のブランドも立ち上げる。写真は愛犬ソマと。

フランス南西部コレーズ県で育ちました。森に囲まれた小さな村で、古い納屋を改築した家からは谷を一望できました。両親は、その家に姉妹それぞれの個室を持たせてくれました。昼は学校のあるブリーヴ=ラ=ガイヤルの町で過ごし、夜になると大自然に戻る、という暮らしです。

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我が家の基盤は大自然。

リムーザン地域圏整備局で建築許可を担当していた母のシルヴィはおしゃれで、まさに田舎のダイアナ妃のような雰囲気の人。ラ・シティという、1990年代に人気だったブランドがお気に入りでした。私は母の着こなしが好きで、スーツからカラフルなアンダーシャツ、千鳥格子柄の服、ストレッチシャツ、フェイクレザーのジャケットまで、母の服をしょっちゅう拝借したものです。とりわけ記憶に残っているのはパープルとグリーン、ライラックのチェックのスカートで、いま思えばとてもプラダっぽいデザインでした。

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子どもの頃は、ジャングルの動物を救う人になりたいと思っていた。

父のエリックは、フランス国有鉄道(SNCF)の車掌でした。朝、仕事に行く時は制服のスーツにローファータイプの安全靴姿。でも帰宅後の格好は全然違ったんです。スポーツマンの父は完璧主義者で、自分の体形にも持ち物にもこだわりが強い。キャメルバックのランニング用ハイドレーションパック、お買い得価格で手に入れたハイスペックスニーカー、モトクロスにも熱中していたのでプロテクターも持っていました。私も少女の頃はテニスに夢中でしたが、16歳で全仏オープン予選に敗退して熱が冷めました。父のおかげでスポーツウエアの良さに目覚めたので、私が作る服はハイブリッド素材を使って快適性を追求し、どんなにエレガントな服でも動きやすさを重視しています。

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父は1989年にサッカーのナショナルリーグディビジョン4でプレイしていた。スポーツ好きなのは父親譲り。

母がとてもフェミニンだったことも覚えています。毎朝メイクをし、髪をセットし、車を運転する時もスカートにハイヒールでした。母の佇まいからも、脚を組む、お茶を淹れるといった所作からも、自然なエレガンスが感じられました。そんな両親のおかげで昼間はコケティッシュに、夜はスポーツで闘争心をむき出しにするような多面性のある人間に育ったと思います。

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いまの私と同じ30代の頃の母。まるで女優のように自然なエレガンス。

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家族はいつも私を支えてくれ、ファッションショーには必ず来てくれる。

小さい頃から絵を描くのも大好きでした。芸術志向の私を両親は常に応援してくれました。進路に口を挟まず、14歳でリモージュ近郊の全寮制学校で応用美術を学びたいと言った時も、マルセイユの職業高校に進学した時も、ブリュッセルのラ・カンブル国立美術学校に進んだ時も自由にさせてくれました。

ファッションにも10代の頃から興味を持っていました。私のワードローブは古着をカスタマイズした服であふれていました。ラグジュアリーな話題が出ないような田舎の環境で育ったことで、逆に初々しさや新鮮味を得られたと思っています。アップサイクルをベースにしたブランドを立ち上げた時、過激と評する人もいましたが、自分にとっては全然アヴァンギャルドではなく、単に良識の問題だったのです。

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古いコインやメダル、アンティーク時計、レザーなどのアップサイクル素材を使用した2025AWコレクション。

*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋

text: Marion Dupuis (Madame Figaro)

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