パリのトランクメーカー「モワナ」、ラメッシュ・ナイールが語る現在と未来。

特集

1849年創設の、パリのトランクメーカー「MOYNAT(モワナ)」。フランスならではの職人の技(サヴォワフェール)を受け継ぐメゾンは、いまなおパリのアトリエでエレガンスなバッグを次々と世に送り出している。
2011年にアーティスティックディレクターとしてラメッシュ・ナイールが就任し、ブランドが再生。メゾンが持つ美学を受け継ぎ、同時に現代的でユーモアあふれるレザーのバッグや小物が話題を呼んでいる。
今年で170年という節目を迎え、ラメッシュ・ナイールが来日。変わりゆく東京について、歴史あるモワナの未来について、話を聞いた。

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2011年より、モワナのアーティスティックディレクターとして活躍する、ラメッシュ・ナイール。インドのデリー、NY、パリでファッションを学び、ヨウジヤマモト、マルタン・マルジェラ、エルメスなどで豊富な経験を積んだデザイナー。

━━━━頻繁に来日されているそうですが、ここ数年の東京の変化についてどう感じていますか?

この5年ほどは毎年11月に来日をしていて、誕生日を日本で過ごすことにしているんです。去年は京都で過ごしたし、その前は秋葉原。そして今年は、明治神宮や豪徳寺を訪れて誕生日を楽しみました。東京は訪れる度に交通網が発達して、鉄道でも車でも移動がスムーズになったと感じています。オリンピックに向けて、街全体が快適になっていますね。次はパリなので、ワクワクします! オリンピックは、映画のように決まったシナリオに向けて準備されるわけではなく、その時、肉体、心、すべてがその瞬間に向けて準備されていくわけですから、特別な感覚があります。何千年も記録を更新しつづけることですから、どの国にとっても誇らしいことなんですよね。

━━━━モワナというブランドも、170年という長い歴史の上にありますよね。

モワナというブランドは、オリンピックの種目にたとえると、マラソンランナーだと思っています。長い歴史の中で、ゆっくりと歩みを進めながら、着実に前に進んでいますから。

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「Réjane Mercure」バッグ(伊勢丹新宿店にて国内限定発売)¥781,000

━━━━モワナは現在、バッグが主流となっていますが、元々はトランクメーカーだったのですね。現在のデザインにもその名残はありますか。

トランクメーカーとしてのオリジンは、常に意識しているというより、呼吸のように身体の中にあると思います。トランクメーカーが縮小していった背景には、時代の流れが大きく関係しているんです。170年前と現在とでは、旅の仕方、しいては生活環境までもが大きく変化しています。1920年代以前は、女性はバッグを持つことはしませんでしたから。変化していく時代に合わせて、使い方も素材も変えていかなければなりません。だけど、メゾンが持つフィロソフィーは同じなんです。

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1911年のモワナの広告。

━━━━日本の女性がモワナを持つことに対して、どう思いますか?

わたしの友人に、着物を着てモワナのバッグを持つ女性がいました。それを見た時、素晴らしい!と思ったんです。時代も文化も超えて、モワナが生きていると感じた瞬間です。日本には、どの国とも違う日本ならではの魅力があります。だからこそ、私たちにとってもチャレンジであるし、楽しみでもある、日本女性に似合うバッグを作ろうと思ったのです。

━━━━インドで生まれ、アメリカやフランスでファッションを学び、日本にも頻繁に訪れている。そのワールドワイドな活動は、どのように身に付いたのでしょうか。

私の父親はミリタリーにいたので、幼少期から3年以上同じ場所に暮らすことはありませんでした。3年ごとに文化も言葉も異なる場所へと移動していましたから、幼い頃から自然に人生をサバイブしていく術を身に付けたのかもしれません。インド出身ですが、他国でどこかのコミュニティに属する必要性を感じたことはありません。どの国に住んでも、簡単に溶け込むことができるんです。現在はパリに住んでいますが、フランス人の友人も、日本人の友人も、アメリカ人の友人もたくさんいますよ。

━━━━パリの魅力は、どんなところですか。

パリは特別な場所。特に建物において感じることが多く、街中のどこを切り取っても、歴史的な側面を感じることができるのです。初めて住んだ家の隣は、かつてシューベルトが住んでいたと分かった時には、興奮しましたね。調べると、ちゃんと歴史が残っているんです。私は、自分の足で歩いて出かけて、新しいものに出合い、調べることが大好きなんです。そのようにして、日本人の絵本作家、三浦太郎さんの本にも出合いました。

━━━━そうだったのですね。この秋冬シーズンで、三浦太郎さんとのコラボレーションを発表されていますね。初めて三浦さんの絵本を見た時、どのように感じましたか?

たくさんの絵本が並んだ本屋の子どもコーナーで、三浦太郎さんの絵本を見つけました。そこで見たのは、イタリア語に翻訳されたものでした。作家名を見るとTaro Miuraと書かれています。パリの本屋さんで、イタリア語の絵本で、作家は日本人。不思議な気持ちにさせられました。

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左:「カードホルダー フレッド」¥63,470、右:「パスポートホルダー ダブルフェイス・リリー」¥66,440

━━━━三浦太郎さんとのコラボレーションのように、歴史あるモワナが見せる、ポップな遊び心を楽しんでいるのですね。クラシックなブランドの背景と、相反する現代のポップな絵柄が見事にマッチしていますね。

はい、あえてポップな要素を取り入れるようにしています。三浦さんのイラストは、モワナが蘇らせた伝統技術であるレザーの寄木細工で表現するのに、ぴったりでした。私は真面目な人間ではなく、いつでも遊ぼう、楽しもうという気持ちがあります。たとえば、石のバッグを作ってみよう、とかね(笑)
歴史のあるブランドと、三浦さんの現代らしい作品は、まるでインアンドヤンのように、かみ合うと感じました。当時のモワナトランクが、真四角ではなくカーブを描いているように。何かとしっかりかみ合うことは、とても大事なことなんです。

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ヴィンテージのモワナ・トランク。

━━━━これからの未来に向けて、作り手として思うことはどんなことですか。

モノ作りにおいて、これからやって来る未来に、自分がどう順応していくかが鍵だと思っているんです。予想できないほどに時代は進んでいますから。たとえば、小さなバッグを作ること。携帯電話のためだけのバッグとか、リップスティックのためのバッグとか。でも、10年後には携帯もなくなっているかもしれないし、女性はバッグを持たないかもしれない(笑)。
ただ、いつ何時も、伝統のクラフトマンシップを失わないことです。人間であることを忘れてはならないと、感じています。特に人間の指先には、ものすごい神経が集中しています。それは人間しか持たない繊細さ。これだけは絶対に残っていくし、大切にしたいと思っているんです。

●問い合わせ先:
モワナ
www.moynat.com/ja

texte:Miki Suka

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