本店、そこは物語が詰まった場所。 パリ本店ブティックで、マドモアゼル シャネルの人生を辿る。
Jewelry 2024.02.12
歴史と物語が詰まった老舗ジュエラーの本店を訪れて! インテリアの意匠、本店でしか見られない美術品レベルのアーカイブ、メゾンを愛し訪れたセレブリティや文化人の残り香など、甘美な世界を堪能できる。
CHANEL
マドモアゼル シャネルが暮らし、息をひきとったホテル、リッツ パリが面するヴァンドーム広場。生前彼女はホテルの部屋から広場を見下ろして、幾たび眼下に並ぶ優美な個人邸宅群を目にしたことだろうか。1997年、シャネルのファインジュエリーの本店の移転先に選ばれたのはホテルのお向かいである18番地だった。その屋根とファサードは歴史建築物に指定されているので、いまも彼女の目に映ったままの姿である。
1937年に撮影された写真。晩年、中央にナポレオン像をいただく円柱が立つヴァンドーム広場に面したリッツ・ホテルにガブリエル・シャネルは暮らしていた。©Collection Schall
昨年の夏、大改装が行われた。16年前の改装同様に室内建築はピーター・マリノが担当した。全3フロアからなるブティックに施されたのは、マドモアゼル シャネルの私的な世界の現代的解釈だ。さまざまなテクスチャーで展開されるベージュ、黒、ゴールドの色調、シャネルでおなじみのツイードを想起させるカーペットや家具の布......そこに洗練と形容するにふさわしいアートピースや家具調度品が配置された空間には、リュクスとモダニティが薫る。カンボン通り31番地のクチュールメゾン内のアパルトマンにガブリエルが創り上げていた世界のエスプリが21世紀の店内に蘇り、ジュエリーを求めて入ってくる人々をガブリエルの人生の旅へと誘うのだ。
1階、ゴールドの壁に囲まれてヨハン クレテンのブロンズ塔がそびえる吹き抜けの売り場。ツイードタッチの絨毯、クリスタル・シャンデリアにシャネルらしさが光る。
ガブリエル・シャネルのアパルトマン同様、ゴッサンスによるクリスタルとゴールドメタルの装飾が施された店内。
黒白のツイードのカーペットが覆う階段。階下にはジョエル・モリソン作『Coco Chandelier』が。
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シャネルのジュエリーの歴史は彼女がダイヤモンドコレクションを創作した1932年に遡る。これは彼女の唯一のハイジュエリーコレクションで、発表はフォーブル・サントノーレ通り29番地の邸宅で行われ、その入場料は慈善団体に寄付された。女性が自由に身体を動かすことができ、女性自身を引き立てるものであるべきというクチュールのクリエイションの基本が、眩く輝くダイヤモンドジュエリーにも表現され、このコレクションのモダニティが現在のシャネルのジュエリークリエイションの大いなるインスピレーション源となっている。この時、約50点が発表された中から買い戻されたのはコメット。本店の地下1階にはパトリモニーフロアがあり、パリに大きな話題を提供したこのイベントを取り上げた300以上もの世界中のメディアの記事とともに、ブローチは発表当時の青い宝石箱に納められて大切に護られている。
1937年にガブリエル シャネルが発表した"Bijoux de Diamants"の「コメット」ブローチを、シャネル社がオークションで買い戻した。ガブリエル・シャネルは星のフォルムを「これ以上に永遠でモダン、シックな形はない」と称えている。中央のダイヤモンドは3.1カラット。
明治時代に製作された木製のハスの花のブーケ。本店の装飾は骨董とコンテンポラリーのオブジェが混じり合う。
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本店内で一般に公開されていないのはパトリモニーフロア、そして3階の広場に面して広がるヴァンドームサロン。その次の間は地下に所蔵するジュエリーからの展示を行っているが、カスタムカットされた55.55カラットのダイヤモンドをセンターに配した「55.55」ネックレスが暗い空間に燦然と浮かび上がる姿は神々しいほどだ。ヴァンドームサロンでゲストをもてなすのは、広場の見事な眺望と20世紀を代表する抽象画家ニコラ・ドゥ・スタールの油彩画『コンポジション』である。先鋭的で贅沢なモダニズムを表しつつも古代的な永遠主義を有する点、シャネルというメゾンの価値と通じ合うものがあることから選ばれた傑作だ。
3階、ブラックラッカーの間、展示された「55.55」のネックレスの55.55カラットのダイヤモンドが輝く。
18番地の建物内に、ハイジュエリーと時計のアトリエ、クリエイションスタジオ、パトリモニーのフロアがまとめられている。
シンプルな内装のヴァンドームサロンの主役は窓からの広場の眺め、そしてニコラ・ドゥ・スタールの『Composition』(1950年)。
18, place Vendôme 75001 Paris France
33-(0)1-40-98-55-55
営)10:30〜19:00(月〜土) 12:00〜19:00(日)
無休
www.chanel.com
*「フィガロジャポン」2024年1月号より抜粋
text: Mariko Omura