本店、そこは物語が詰まった場所。 生まれ変わったカルティエ、伝説の旗艦店へ。
Jewelry 2024.02.13
歴史と物語が詰まった老舗ジュエラーの本店を訪れて! インテリアの意匠、本店でしか見られない美術品レベルのアーカイブ、メゾンを愛し訪れたセレブリティや文化人の残り香など、甘美な世界を堪能できる。
Cartier
黄鉄鉱のゴールドが脈打つ黒い大理石のファサードを構える、ラペ通り13番地のカルティエのパリ本店。2年以上かかった改修工事を終え、昨秋リニューアルオープンした。王侯貴族、ハイソサエティ、ジェットセット、セレブリティ......1899年の開店以来、ジュエリーの歴史に名を残す人々を迎え続けている店内には新たに6フロアを貫くパティオが設けられ、ガラス天井から降り注ぐ光がダイヤモンドの白い輝きのように来店者を幻惑させている。この歴史ある本店は、三代目でメゾンを国際的に発展させたルイ・カルティエ、ルイの傍らでメゾンの創作に関わり、彼の後継者として1933年から1970年までクリエイティブディレクターを務めたジャンヌ・トゥーサンの聖域と表現される場所だ。現在、かつての彼らの執務室はそれぞれの名を冠したサロンに改装されている。2階の「ジャンヌ トゥーサン」サロンは、イエローゴールドと官能的曲線を愛した彼女の嗜好をリスペクトした空間。豊富な高級素材、大胆なカラーコンビネーション、しなやかさ、立体感などを特徴とする"トゥーサン テイスト"がその昔生まれた場所に、我々は身を置くことができるのだ。
クリエイティブディレクターを務めたジャンヌ・トゥーサン。パンテールと呼ばれた彼女は、セシル・ビートン卿によるこの撮影時75歳だった。
本店の最上階を占めるレジデンスは特別ゲストのためのスペース。
動物と植物。レジデンスの屏風はアトリエ ゴアールが描写し、リューシー・トゥーレが刺繍を施した。
2階のサロン「ジャンヌ トゥーサン」。中央に彼女のポートレートが掲げられ、その左右の小サロンの壁はパンテールモチーフのトワル・ドゥ・ジュイが覆う。
女優マリア・フェリックスの注文で1975年に制作されたクロコダイルのネックレス。カルティエによる動物の表現力に惹かれた彼女がオーダーに際し、飼っているクロコダイルのベビーをアトリエに連れてきたという有名なエピソードが残されている。
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カルティエ スタイルを打ち立てるために、早い時期にデザインスタジオを創設したルイ。そんな彼にとって生き方も装いもアンチ画一主義のジャンヌが持つファッションセンス、女性としての視点は頼るべきものだった。後に友人でクチュリエ、ユベール・ドゥ・ジバンシィが、"若返りと現代化によりハイジュエリーに革命を起こした"と彼女の類稀なる創造性を称えたように、彼女の創作は活気に満ち、前衛的でありながらエレガンスが備わっていた。異国文化からインスパイアされた創作も彼女が得意とするものだったが、自然主義様式を復興させた彼女による生命力、躍動感があふれる動植物の優美なジュエリーは、まさに"トゥーサン テイスト"。若い頃から動物的性格と官能的な魅力ゆえにパンテール(豹)と呼ばれていた彼女ゆえか、とりわけ獰猛ながらも優美な豹をモチーフとして好み、デザイナーとともに彫刻的なシルエットを与えたのだ。いまにも動きだしそう!と感じさせる創作はパンテールに限らず、彼女が去った後もメゾンで継承されている。
輝き、垂直性、現代性をキーワードに行われたリニューアル。地上階奥に設けられたアトリウムは6フロアに渡る縦長の吹き抜けで、ジュエリーのインスピレーション源となる植物が浮き彫りされた白い壁が天井から入る自然光を拡散させている。
1階に置かれた装飾ガラスを嵌め込んだストローマルケトリーに、抽象的に表現されたパンテールの斑点模様。
ハイジュエリーフロアのファウナ&フローラ(動植物相)サロン。
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それはメゾンにとって財産である熟練の職人たちがいるからこそ可能なこと。アトリウムからの自然光が差し込む5階のアトリエで彼らは卓越の技を駆使している。それと呼応するように、昨秋のリノベーションにより、店内にはモザイク、ストローマルケトリー、レリーフ、刺繍、セラミックなどフランス装飾芸術が守るメティエダール(伝統工芸)の粋が改修時に贅沢に散りばめられた。3階のハイジュエリーのサロンはインド、アールデコ、ファウナ&フローラといった名称にふさわしい装飾スタイルが選ばれ、カルティエのジュエリーのインスピレーションの変遷を体感できる。この地で生まれたメゾンの象徴であるパンテールは、さまざまな手法で抽象あるいは具象で店内のあちこちに顔を覗かせる。まるでジャンヌが店内を鋭い視線で見守っているかのように。
ルイとジャンヌの時代の創造も含め、メゾンのアーカイブは6階に。
高度な職人技とカルティエ スタイルにインスピレーションを与え続ける動植物が凝縮されているのは、ローラ・ゴンザレスに内装が任された最上階の「レジデンス」だろう。手作業が生きた動物が遊ぶ、ジャングルの屏風や緑鮮やかに植物が描かれた壁......カルティエの世界がポエティックに表現されたフロアで過ごすことが許された特別なゲストたちの記憶に、メゾンが大切にするホスピタリティとヘリテージが刻まれる。
ブローチ「パンテール ドゥ カルティエ」。ジャンヌがトゥーサン テイストとして挙げる立体感のセンスは、現代のクリエイションにも継承され、動物のしなやかさ、躍動感の表現を可能にしている。
13, rue de la Paix 75002 Paris France
tel:33-(0)1-70-65-34-00
営)11:00〜19:00(月〜土) 12:00〜19:00(日)
不定休
www.cartier.jp
*「フィガロジャポン」2024年1月号より抜粋
text: Mariko Omura photography: Cecil Beaton Archive © Condé Nast, Vincent De La Faille © Cartier, Lucie et Simon © Cartier, Fabrice Fouillet © Cartier, Laziz Hamani © Cartier, Vincent Wulveryck, Collection Cartier © Cartier