本店、そこは物語が詰まった場所。 マリー・アントワネットが愛したジュエラー、メレリオ・ディ・メレーの本店へ。

Jewelry 2024.02.16

歴史と物語が詰まった老舗ジュエラーの本店を訪れて! インテリアの意匠、本店でしか見られない美術品レベルのアーカイブ、メゾンを愛し訪れたセレブリティや文化人の残り香など、甘美な世界を堪能できる。


MELLERIO

ラペ通りにあるメレリオのブティックの地下には顧客台帳、デッサン帳などが並ぶガラス張りのアーカイブルームがある。そこで護られているメゾンの歴史。その中で最も古いのは、フランス人に限られる国内での商業権をイタリア移民のメレリオ家に王妃マリー・ドゥ・メディシスが許可した1613年の勅許状だ。マリーの息子であるルイ13世暗殺計画の阻止に貢献したメレリオに感謝を表す特権だった。これがメレリオのフランスでの歴史の出発点。最初は金銀細工品、カットクリスタルをあしらったベルトや靴のバックルといった小さなジュエリー......時が流れ、18世紀に入ってから貴石の仕事を始める。その初期のマリー・アントワネット妃の手首を飾ったメレリオのブレスレットは、地下のミニミュージアムに展示されている。19世紀にナポオレオン皇妃ジョゼフィーヌとの出会いがあり、「王妃の宝石商」として大きく華麗な飛躍へと繋がった。

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デッサンや顧客台帳などメゾンの400年にわたる資料がアーカイブルームで護られている。

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アーカイブ最古の資料は、夫アンリ4世亡き後、息子ルイ13世の摂政を務めていたマリー・ドゥ・メディシスが、外国人ゆえ仏国内では商売ができなかったメレリオに1613年に与えた勅許状。イタリアのルネサンス文化を愛するフランソワ1世統治下の16世紀初頭、大勢のイタリア人職人たちがフランスに移ってきた。メレリオ家もそのひとつだった。

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400年以上の歴史の驚くべき長さに加え、世界のジュエリー界においてユニークなのは、メレリオが唯一の家族経営による宝石商であることだ。アーティスティク・ディレクターのロール=イザベル・メレリオは夫が亡くなった5年前から、14代目当主として経営のトップも兼務している。15代目となる息子コームも営業に参加。400年以上続く家族経営のメゾンを未来に継承するという大任を背負う彼女は、歴史の上にあぐらをかくことなく、継承を大切にしつつも宝石商としての活性化を図っている。

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14代目当主ロール=イザベル・メレリオ。メゾンの歴史を未来に継承すべく、モダニティの追求を怠らない。

2005年には"伝説のダイヤモンド型"をメレリオ・カットとして登録した。この卵型はマリー・ドゥ・メディシスが夫アンリ4世から贈られた有名なダイヤモンドのボー・サンシーのフォルムで、過去のメレリオの創作においても愛されていたものである。彼女はジュエリー、時計、ファインジュエリーにさまざまな方法でこの"伝説のダイヤモンド型"フォルムを取り入れ、メゾンの視覚的アイデンティティの確立に成功した。デザインのインスピレーションとして彼女はアーカイブの資料を積極的に活用している。

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現代のクリエイションに見られる、イタリア的な鮮やかな色彩とゴールドの装飾的扱いと控えめなフレンチエレガンスの絶妙な組み合わせ。

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コピー機がなかった時代、創作を石膏で型取りしていた。これらも現在のクリエイションのインスピレーション源として役立たせている。

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「モチーフなり技術、あるいは特殊な石など何かしらメゾンの歴史を語るもの、そして時代の空気。このふたつの要素をクリエイションに合わせ込んでいます。いまを感じるためにはストリートで起きていることの観察がいちばんですね。またイタリアに起源を持つフランスのメゾンなので、ひとつのジュエリーに両国のテイストが感じられるようにしています」

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19世紀前半に開店。その建物は1930年代に建て直され、ファサードおよび店内の優美なボワズリーはその当時のものだ。 

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左:地下のアーカイブルーム。緑色の壁紙はコレクション「ジャルディーノ」のモチーフを生かしたオリジナル。右:ラペ通りに店を構える前、アトリエで製作したジュエリーを背負子"マーモット"に納めて王家や顧客の元へと通った。

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イタリア的というのは陽気な遊び心あふれる貴石の多彩な色使いだったり、メレリオのサヴォワールフェールのひとつともいえるゴールドの扱い方だ。ゴールドを地金として隠すのではなく、仕事を施して装飾的にデザイン。また石をセットするのも小さな粒状のゴールドで、というように。

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1860年製作のエメラルドとダイヤモンドのドゥヴァン・ ドゥ・コルサージュ。

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アーカイブより。1850年に製作されたドレスの胸元を飾るルビーとエメラルドが色鮮やかなドゥヴァン・ドゥ・コルサージュ。

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高級宝石商として大きな挑戦だったのは、ファインジュエリーコレクションの発表だったとロール=イザベルは振り返る。

「英断でした。高いクオリティと確かな仕事があり、デザインがメゾンの歴史を語る手頃な価格のジュエリーです。若い層も手を出しやすく、これによってメレリオというメゾンの価値を世間により広く知らしめました。メレリオはいまなお歴史的価値を守り続けている存在。でも常にいまを感じ取っているから、とても若い感性を持っているのよ」

1800年代の始め、メレリオは開通間もないラペ通りにジュエラーとしていちばん乗りして店を開いた。宝石商たちがパレ・ロワイヤルに集中している時代、この通りの未来を感じとった先見の明である。室内装飾家でもあるロール=イザベルは、昨年地下を改装。ダイニングルームも設け、よりファミリー的印象の強いブティックとなった。

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新作から。太陽をイメージした輝きが眩いメダルに、メレリオ・カットの造形が感じられる。

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1868年にナポレオン3世皇妃ウジェニーから注文を受けたピーコックブローチ。伝説のダイヤモンド型メレリオ・カットのフォルムを見いだせる。

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9, rue de la Paix 75001 Paris, France
営)10:30〜19:00(月〜水、金、土) 11:30〜20:00(木) 休)日
tel:33-(0)1-42-61-57-53
www.mellerio.fr

 
*「フィガロジャポン」2024年1月号より抜粋

text: Mariko Omura photography: ©Mellerio

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