ヴァン クリーフ&アーペルから、メゾンの歴史とその時代背景を網羅する大書籍、第1巻が刊行に。

Jewelry 2024.07.12

ヴァンドーム広場にメゾンを構えた1906年を出発点に、ヴァン クリーフ&アーペルは、メゾンの歴史をその時代背景とともに横断的に語る書籍を編纂、その第1巻が刊行された。メゾンの歴史を総括する壮大なプロジェクトについて、前プレジデントでリシュモン・グループCEOのニコラ・ボスに話を聞いた。

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『ザ ヴァン クリーフ&アーペル コレクション(1906年〜1953年)』アトリエEXB刊。フランス語、英語、中国語版の3カ国語で刊行される。

表紙にはヴァン クリーフ&アーペルを象徴するルビーのミステリーセットのブローチが配されている。678ページ、21x28cmの外函入りの『ザ ヴァン クリーフ&アーペル コレクション(1906年〜1953年)』は、メゾンの歴史的ピースを所蔵するパトリモニー コレクションの総合的な目録として、いわば百科事典のような学術的な側面を持つ。シンプルで美しい装丁の中に、アカデミックな雰囲気を称えた存在感のある書籍だ。

創業1906年から出発し、1953年までの期間をカバーする第1巻には、700点ものジュエリー、装飾オブジェ、タイムピースが紹介され、さらに200点ものアーカイブ資料が添えられている。

クリエイティブの沸騰期(1906年〜1925年)、独自のアイデンティティの確立(1926年〜1937年)、パリからニューヨークへ(1938年〜1953年)の3章からなり、時代背景とともに科学的な視点で作品を検証するという、これまでにない試みだ。

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ヴァン クリーフ&アーペル前プレジデントで現在は同社を傘下に置くリシュモン・グループのCEOを務めるニコラ・ボス。

――この書籍の企画はどのように始まったのでしょうか?

メゾンがパトリモニー コレクションを始めたのは1980年代のこと。ファミリーがイニシアティブを取り、ほかに先駆けてヘリテージの重要性を理解し、古いピースの買い戻しを始めました。これはデザイナーや職人たちのリファレンスになるとともに、コミュニケーションツールとして、メゾンの歴史を具体的に示すもの。コレクションは次第に充実し、国内外での展覧会でも紹介されましたが、我々は特定の展覧会やプロジェクトから離れた総合的な資料集を作りたいと考えたのです。

――科学的なアプローチによる総作品目録ということですが、具体的にはどんなことを目指されましたか?

それぞれの作品を、メゾンとジュエリー界だけでなく、装飾アート、社会背景、ライフスタイルの歴史の中において再訪することです。それによって、どのような影響がどのようなクリエイションに結晶したかがわかります。現在コレクションにある2700ほどのピースのすべてを見せることが目的ではありませんが、すべての時代とテクニック、スタイルを網羅しています。メゾンの歴史を非常に完全な形で語ることのできる総カタログです。

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第3章、パリからニューヨークへ(1938年〜1953年)より。1945年ごろのバードクリップとそのデザイン画。1940年代以来、さまざまに登場した動物のモチーフの中でも、小鳥は特にバリエーション豊かに展開された。

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第3章、パリからニューヨークへ(1938年〜1953年)より。1940年代終わりにクリエイトされた「バガテル・プルーズ」は、ビーズのように丸くカットされたターコイズのパヴェにルビーとダイヤモンドの花が特徴のデザイン。このシリーズが50年代にさまざまなバリエーションで展開されたことを解説。

――あまり紹介されてこなかったジュエリー以外のピースも掲載されています。掲載作品はどのように選ばれたのでしょうか。

目指したのは、この総カタログが、時系列的にできる限り完璧であることでした。そのためには、欠けている時代や基本要素があってはならない。まずタイムラインを設定し、コレクションにある作品を当てはめます。すると、ピースが少ない年、作品の少ないスタイルなどが見えてきます。弱い部分を徐々に補強して買い戻しました。大事にしたのは中立的な立場です。たとえばジュエラーにとって、アールデコの時代はほかより重要視される傾向がある。

だがリファレンスは時代によって変化するものです。我々はそのような特定の時代や個人的な嗜好から離れることにしました。この仕事の意味はすべてを同じレベルに置き直すこと。歴史を扱うとはそういうことです。すべてに興味を持たざるをえないので、過去のいいデザイナーや職人を発見することもある。また、たとえばどうしてこの作品は小さいのか?といえば、そこには経済恐慌や、アートのトレンドが関わっている。どの作品にも必ず理由があり、中立的な目を持った作業だからこそ発見できるのです。

――この本はどのような人に向けたものですか?

ジュエリーに興味を持つ人、知識を深めたい人など、広い層に向けたものです。愛好家、研究者やキュレーター、ジャーナリスト、専門家のためのリファレンスであり、最初はそうした人向けを想定していましたが、次第に、このように分厚く学術的な書籍にも興味を持つ人がいると気付いたのです。

――書籍だけでなく、無料のオンラインサイトも公開されていますが、それはなぜですか。

この本は科学的な資料であり、辞典のような側面があります。オンラインなら学生や研究者がアクセスでき、新しいピースや情報も簡単にアップデートできます。根底には、大きな美術館や大学のサイトのように、研究者や学生のための資料だという考えがあります。

――ジュエリーの学校であるレコールの活動など、メゾンに直接関わりのない活動も行っていらっしゃいます。この書籍をオンラインで無料公開する、そのオープンな考え方も同じ論理が根底にあるのですか?

レコールもこれまでの数々の展覧会も、ジュエリーと広い意味での装飾アートの世界をより身近にし、発見してもらうための活動です。メゾンの価値を高めることを超えて、複雑で近寄りがたく見えるジュエリーの世界に人々を招き入れ、広い意味でのジュエリーという分野の豊かさを発見してもらいたいのです。年を経るごとに、これらの活動がより多くの人に興味をもたれ、成功を収めていることがモチベーションになっています。

――ヴァン クリーフ&アーペルは、ジュエリー界、アート界でどのような役割を果たしたいとお考えですか?

クリエイションやスタイルの面でのリファレンスであるだけでなく、ジュエリー界のビジビリティを広げるための先駆者的な存在でありたいと思っています。決して教育ではなく、ジュエリーの世界は多様であることを伝えたい。ビッグネームもあるが、独立した職人やアーティストジュエラーが存在し、演劇のために作られるジュエリーがあれば、男性の指輪もある。多様であることがおもしろい。そこで何を好み、何を買うか買わないかは別の話なのです。

オンライン版はこちらから

問い合わせ先:
ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク
0120-10-1906(フリーダイヤル)
https://www.vancleefarpels.com/

text: Masae Takata (Paris Office)

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