ジュエリーウォッチの先駆者ならでは。ショパールの新作ザ・プレシャス アワーズ セット。
Jewelry 2025.08.04
宝石商広場と称されるヴァンドーム広場とその周囲に軒を連ねる高級ジュエラーたち。その中のひとつであるショパールは1番地に、プライベートメゾンとうたうホテルを有している。メゾンのオーナーであるショイフレ家に招かれるようにゲストが滞在する15室だけのリュクスなホテルは、日頃、宿泊者以外に堅く門を閉ざしている。7月、パリのオートクチュールウィークに際して、ホテルの2階を占めるアパルトマン形式の客室でL'Heure du Diamant(ルール・ドゥ・ディアマン)の展覧会とハイジュエリー・コレクション「Red Carpet(レッド カーペット)」の展示が行われた。
2012年にクリエイトされたダイヤモンドウォッチコレクション「ルール・ドゥ・ディアマン」には、マニュファクチュールの時計製造の伝統と金細工の芸術性というショパールが誇る二重のサヴォワールフェールが凝縮されている。ジュネーヴに始まり世界各地を巡回するという展覧会は、メゾンの歴史を語り、1960~70年代の希少なジュエリーウォッチを展示して、"ジュエリーウォッチの巨匠"と呼ばれるショパールのユニークなポイントを解き明かすものだ。
左:1964年のブレスレットウオッチ。ショイフレ家のショパール買収の翌年、「ジュエリーウォッチの巨匠」というスローガンとともにこの時計が広告に掲載された。 右:1965年のブレスレットウォッチ。ミラネーズメッシュのブレスレットだ。
1860年、ショパールがスイスに時計工房を創業。1904年、ドイツにカール・ショイフレが金銀細工に関わる会社を設立。両者はそれぞれ別に活動を続けていたのだが、60年代に入りショパールが経営不振に陥ってしまった。そこで63年にカールの孫にあたるショイフレ家の三代目がショパールを買収したのだ。その頃既にショイフレ社はジュエリーウオッチのマスター的地位を確立していて、この買収によってショイフレ家に代々継承されてきたサヴォワールフェールのすべてがショパールにもたらされることになったのだ。「ルール・ドゥ・ディアマン」に秘められているショパールとショイフレ家が共有する"時を告げるジュエリー"制作へのヘリテージ。これはまさにシナジーのなせる技である。なおショパールの現オーナーはこの3代目の子にあたるキャロライン&カール-フリードリッヒ・ショイフレで、いまの時代にあって100パーセントのファミリー企業というのはなかなか珍しい。
左:1970年のブレスレットウォッチ「Bonaire」。文字盤はネフライトジェイド。当時のベストセラーのひとつだ。 右:1972年の腕時計。イエローゴールドにタイガーズアイの文字盤、そしてクロスステッチフィニッシュ・カフブレスレット。
左:1972年の腕時計。ケースとブレスレットはバーク(樹皮)フィニッシュ。 右:1972年の腕時計。ダイヤルはオニキス、ブレスレットはバークタイプ。
左:1978年の腕時計。オニキス、ダイヤモンド、ホワイトゴールド。 右:1970年の腕時計。ネフライトジェイドとミラネーズメッシュブレスレット
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会場で1960~70年代の当時の広告ビジュアルなどと合わせて展示されている時計は、時代を象徴するようなスペースエイジのデザインがすごくおしゃれで楽しく美しい。それらに混じって展示されているのは、後で紹介する「ルール・ドゥ・ディアマン」のザ・プレシャス アワーズ セットのインスピレーション源となった1970年のブレスレットウォッチだ。イエローゴールドのケースにシャンパンカラーの文字盤、ミラネーゼメッシュのブレスレット、ダイヤモンドセットのベゼル、そして機械式ムーブメントを搭載したヴィンテージの傑作である。メゾンのクリエイティビティ、モダニティ。こうしたヘリテージが受け継がれていまに続く、という流れが見えてくる展覧会である。
2025年発表のザ・プレシャス アワーズ セットのインスピレーション源となった1970年のブレスレット・ウォッチ。
ここでは「ルール・ドゥ・ディアマン・コレクション」を特徴付ける点にも目を向けさせていた。たとえば、そのひとつは独自の技術であるクラウンセッティング。V字型の爪を用いて光の反射を最大限に引き出しすことで、ダイヤモンドの輝きを究極まで高めることができるセッティングだ。1960年代にショイフレ家が開発し、シグネチャーとなっている樹皮のようなバークテクスチャーブレスレットも挙げられる。ブレスレットの独特な質感とタッチを生み出す手作業によるエングレービングは、ミラネーゼメッシュ編みなどと同様に、ドイツのフォルツハイムに所在するメゾンのアトリエで継承されるクラフトマンシップへのオマージュだ。
時計の回顧展会場には、1970年代の広告やクラウンセッティングの解説なども展示。photography: Mariko Omura
ショパールでは1970年ごろに生まれたビジョンに則り、時計製造の95パーセントをインハウスで行なっている。 時計のブレスレットづくりまで行う、というのは珍しいそうだ。ちなみにバルクテクスチャーブレスレットは、250ピースを組み合わせるという職人仕事である。なお、「ルール・ドゥ・ディアマン」のケース&ブレスレットはすべて、2018年以降100%エシカルゴールドで製造。photography: Mariko Omura
ラウンド、オーバル、オクタゴン、ハートシェイプといったさまざまなフォルムの「ルール・ドゥ・ディアマン」も会場に展示。最新のフォルムはひし形で、洗練の造形美がここでも輝いている。18K エシカルローズゴールド製でマラカイトの文字盤、その周囲を囲むダイヤモンドに施されたのは、もちろんクラウンセッティング!
ハーモニー&シンメトリーの美学を映す「ルール・ドゥ・ディアマン」に新たに加わったフォルムはひし形。18K エシカルローズゴールド製モデルで、マラカイトの文字盤の周囲にクラウンセッティングされたダイヤモンドは合計6.85ct。
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こうしてショパールにおけるジュエリーウォッチの歴史と技術に触れた後、今春ジュネーヴのウォッチズ&ワンダーズで発表された「ルール・ドゥ・ディアマン」の新作であるザ・プレシャス アワーズ セットの展示へと誘われる。1960年代に始まる芸術性とエレガンスにあふれた新時代のジュエリーウォッチというショパールのスピリットが込められた、いとも壮麗な12種の時計セットである。1年の12カ月、あるいは1日の12時間のサイクルを表しているセットは、回転式トレイが設けられたブラックラッカーのボックスに納められての販売だ。
12種が並ぶザ・プレシャス アワーズ セット。オーナメンタルストーンの文字盤は無限に広がる色彩の世界だ。
26mm径の時計の文字盤には、シンボリズムとエネルギーに満ちた自然美の物語を持つ12の異なる装飾用ハードストーン。真っ赤なカーネリアンは勇気の石、色が変容するオパールは夢と直感の石、タイガーズアイは自信と明晰をもたらす石......というように。なお新素材としてピンクオパール、ヒスイ、ブルーアゲートが加わっている。ダイヤモンドに施されているのがV字のクラウンセッティングであることは、もやは特筆する必要もないだろう。ショパールのシグネチャーなのだから。なおムーブメントは時計市場屈指のコンパクトなサイズと薄さを誇る機械式手巻きムーブメントのChopard 10 .01-Cを搭載。技術、造形、素材が完璧に調和した錬金術の結晶をザ・プレシャス アワーズ セットに見ることができる。
マザーオブパール、ダイヤモンド、カーネリアン、タイガーズアイ、オニキス、マラカイト、ターコイズ、オパール、ヒスイ、ブルーアゲートなど12種の文字盤。
さて、ジュエリーウォッチ製造のヘリテージを称えるショパールから、「ルール・ドゥ・ディアマン」初のムーンフェイズ機構搭載モデルも登場している。時計製造において、ムーンフェイズは最も詩情豊かな複雑構造として知られるもので、これはコレクションの技術革新の新章の始まりと言えるだろう。アンバサダーを務めるベラ・ハディッドがこの時計をつけたキャンペーンビジュアルも発表された。
ベラ・ハディッドの腕に「ルール・ドゥ・ディアマン ムーンフェイズ」。ブルーのアヴェンチュリンガラス、クラウンセッティングのダイヤモンドの輝きが月例表示に煌めく彩りを与える。 Photography by Ethan James Green
editing: Mariko Omura