東京で食べるフランス郷土料理。#02 【東京でフランス郷土料理を】滋味深い、本場のカスレ。
Gourmet 2020.08.17
豊かな恵みをもたらす海と山を擁する、美食の国フランス。日本でも知られている名物料理から、味わったことのない逸品まで、フランスには地域ごとの個性あふれる郷土料理がある。旬の食材を用いて、代々受け継がれてきたそんな郷土料理の数々を、フランスの6つのエリアから紹介します。今回はフランス南部のオクシタニー地方から、代表的な料理カスレと、カスレにも使用されるフランス料理の定番、鴨のコンフィを紹介。
Occitanie
カスレの大原則は、肉の旨味が染み込んだ白インゲン豆。
レストラン・パッション(代官山)
カスレはコースのメイン料理として供されるほか、アラカルトでも注文できる。「カスレ“オード・ペイ・カタール”アンドレ・パッションのスペシャリテ」S¥4,400、M¥8,800、L¥13,200(写真)
「オクシタニー地方」という、あまり耳慣れぬこの地方名に、いったいどのあたり?と戸惑う方もきっと多いことだろう。2016年、フランスでは地方を再編成。それまで22あった地域を13に編み直した。そして、それによって生まれたのがこのオクシタニー地方。フランス南西部のラングドック=ルシヨン地方とミディ=ピレネー地方とを合併させた、フランスで最も広いエリアだ。
「オクシタニー地方の内陸部では、豚、仔羊、野菜を組み合わせて風味の強いボリュームのある料理に仕上げることが多い。それが特徴でしょうか。ソーセージなどを使う煮込み料理もけっこうありますね」とは、代官山「レストラン・パッション」のアンドレ・パッションシェフ。
1970年、大阪万国博覧会で来日して以来、半世紀の長きにわたり、本物のフランス料理を日本に伝えてきた味の伝道師だ。そのパッションシェフの故郷が、オクシタニー(以前はラングドック=ルシヨン)地方のカルカッソンヌ。オクシタニー地方を代表する伝統料理カスレでおなじみの街だ。
カスレという名前は、オクシタニー地方で作られる厚手の煮込み用土鍋「カソール(cassole)」に由来しているという。
「本来、カスレは家庭料理。私が子どもの頃は、母親が仕込んでおいたカスレをパンを買うついでにパン屋に持参し、パンを焼いた後の竃(かまど)の余熱で焼いてもらっていました。家族の集まる日曜日にふるまう料理だったんです」
そう懐かしげに語るパッションシェフ。ちなみにカスレを名物としているのは、カルカッソンヌ、トゥールーズ、カステルノダリーの3都市。いずれもオクシタニー地方に位置し、中に入れる具の肉や調理法は各々異なるものの、共通しているのは白インゲン豆が入ること。そう、カスレの大原則、それは白インゲン豆なのだ。
ここ「レストラン・パッション」のカスレは、パッションシェフの恩師であり、彼の地で“カスレの神様”とまでいわれたシェフ、マルセル・エムリックのレシピをベースに、パッションシェフのアレンジを加えたもの。具は、豚肉と鴨のコンフィに豚肉100%で作ったトゥールーズ風のソーセージ。そして肝心の白インゲン豆は、パッションシェフお気に入りのタルブ種を使用。いわく「もっちりとした食感で、煮込んでも皮が破れず、それでいて皮が口に残らない。形崩れせず、綺麗に仕上がるところも気に入っている」そうだ。
光沢のある焦げ目も香ばしく焼き上げられたカスレは、肉の旨味がじんわりと染み込んだ白インゲン豆が秀逸。とろりとなめらかな食感が舌に優しい余韻を残す。決して派手ではないが、長い年月をかけ、人々に愛され食べ継がれてきた料理なればこそのたくましいおいしさがある。
鴨の脂で煮込んだ鴨肉は塩味がしっかり利いてジューシー。鴨脂で揚げたジャガイモとともに。「鴨モモ肉のコンフィ ジャガイモのソテー ガーリック風味添え」¥3,300
パッションシェフによれば、カスレに入れる鴨のコンフィも、フランス南西部では古くから食べられているそうで、低温の鴨(またはガチョウ)の脂で煮込んだ鴨の腿肉をその脂ごと器に入れ保存したもの。また、「アリゴ」もオクシタニーのオーブラック地方ならではの味。マッシュポテトにトム・フレッシュというチーズを合わせ、生クリームやバター、ニンニク、塩とともに練り上げた名物料理だ。同店のメニューにはないが、パッションシェフが今年上梓した『フランス郷土料理』ではオクシタニー地方を含む広い地域にわたってのスペシャリテとして紹介されている。
店内の暖炉は、フランスからスペインへ続く巡礼街道途中の修道院で使用されていたもの。暖かな光と音でゲストを迎えるとともに、カスレを温めたり、肉料理を焼いたりと活躍している。
パッションシェフがフランス全地方の郷土料理を紹介する豪華な一冊が今年2月に刊行された。なかでも自身の出身地であり、世界三大チーズのひとつロックフォールや、トリュフ、フォアグラの産地でもあるオクシタニー地方には多くのページが割かれている。秘伝のレシピも惜しみなく披露された永久保存版。
アンドレ・パッション著『フランス郷土料理』河出書房新社刊 ¥9,680
Restaurant Pachon
東京都渋谷区猿楽町29-18 ヒルサイドテラスB棟1号
tel:03-3476-5025
営)11時30分~13時30分L.O.、18時~21時L.O.
不定休
www.pachon.co.jp
※この記事に記載している価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の税込価格です。
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photos : KAYOKO UEDA, texte : KEIKO MORIWAKI