自然派ワインの造り手を訪ねて。Vol.9

オーヴェルニュの生きた畑から生まれる自然派ワイン。

いまワインの世界で大きな潮流となりつつある自然派ワイン。フランスでその自然派ワイン造りに真摯に取り組む造り手たちと、彼らが生み出すワインに魅了されたアタッシェ・ドゥ・プレスの鈴⽊純⼦が、ワイン造りの現場からレポート。

特集

February 25, 2021

アタッシェ・ドゥ・プレスとして活躍する鈴木純子が、ライフワークとして続けている自然派ワインの造り手訪問。彼らの言葉、そして愛情をかけて造るワインを紹介する連載「自然派ワインの造り手を訪ねて」。今回はフランス・オーヴェルニュへ、バイクのメカニック職人を経て自然派ワインを手がけるようになったフレデリック・グナンの畑を訪問。

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Profile #09
○名前:フレデリック・グナン Frédéric Gounan
○地方:オーヴェルニュ
○ドメーヌ名:ヴィノーブル・デュ・ラルブル・ブラン Vignoble de l’Arbre Blanc

ワインの造り手とメカニック職人、ふたつの顔を持つフレデリック。

自然派ワインは、手仕事のワインともいえる。その土地のブドウを使い、自然酵母のペースに合わせ、まるでその年の光景を“スケッチ”するように手仕事から生まれる。つまり数に限りがある、ということだ。
自然派ワインは、旬の素材のように“出合いもの”。必要以上に特定のワインを追いかけず、日々、折々にリリースされるワインを楽しむのがよいと思っている。

とはいえ、極端に生産量が少ないとわかっていても、魅入られてしまう造り手はいる。オーヴェルニュ地方の「ラルブル・ブラン」のフレデリック・グナンもそのひとり。

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左から、赤「レ・プティット・ゾルグ」(ピノ・ノワール)、白「レ・フェス」(ピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン)。

フレデリックはピュイ=ド=ドーム県の首都クレルモン=フェランの南30kmにある小さな町、サン=サンドゥー生まれ。フランスのバイクブランド「ヴォクサン」で優れたメカニックデザイナーとしてキャリアを積んでいた彼は、ある時から自身の“農民のルーツ”に立ち返り、自然と調和できる仕事に就きたいと思うようになった。ブルゴーニュのティエリー・ギュイヨ、ドミニク・ドュランなどで研修の後、生まれ故郷のサン=サンドゥーで自身のドメーヌ「ラルブル・ブラン」を2000年よりスタートさせた。

ピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールを植えた畑の面積はわずか1.6ha、年間3,000~7,000本の生産量である。幸運にも彼のワインを味わう機会に恵まれた際、そのピュアな味わいの虜になった。

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16年に開催されたアルザスでのサロンで、フレデリック(中央)と奥様のキャホリーヌ(左)。購入可能なサロンにもかかわらず、生産量の少なさゆえ試飲のみだった……。

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北向きの強い風が吹く、フレデリックの畑へ。

19年5月半ば、彼のドメーヌを訪問する機会に恵まれた。道で到着を出迎えてくれた優しきフレデリック、「よしジュンコ、まず畑に行くぞ!」と、車ですぐ近くのピノ・ノワールの畑に連れていってくれた。

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火山岩の一種、黒い玄武岩主体の、オーヴェルニュらしいピノ・ノワールの畑。北向きの風は強く、帽子を持っていかれるほどだった。

雨が少なく気温も上がらない19年、オーヴェルニュ地方のほかの造り手と比較して、フレデリックの畑はブドウの生育が遅い。そんな畑の特性に合わせて彼が考案したのは、ブドウの枝を添わせるV字型の特製の鉄線! 初めて見た光景だ。
「たくさんの光と空気をブドウに当てて、糖度を上げるために開発したんだ」。メカニック職だったフレデリックらしい試みだ。

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フランス革命の時代から、この地に長いルーツを持つグナン家。父親の土地にブドウ畑を開墾した。

「柔らかな土だろう。香りを嗅いでごらん」とフレデリック。土の表面を掘ると、湿り気が感じられる。鼻を近づけるとシャンピニオン香やハーブの湿った香り。有機物の循環を感じる、生きた香りだ。

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フレデリックが手にしているのは、ようやくブドウの葉が出てきたソーヴィニヨン・ブランとビノ・グリの畑の土。粘土石灰岩土壌の花崗岩と玄武岩が混ざった土壌。

隣は農薬を使っている、いわゆる一般的な畑。「ジュンコ、土の香りを嗅いでみろ。どうだ、何の香りもしないだろう? c'est complètement mort(完全に死んでいる)」。生きものの気配がない土は固く小さな石の粒状。ここで命が育まれるとは誰も思わないだろう。造り手の思想は、畑で体感できるのだ。

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フレデリックの隣の畑は、“死んだ”土地が続いている。次世代に生きた大地を繋げるために、フレデリックは循環型の農法を行う。

カーヴに移動し、アトリエを見せてもらう。そう、彼の前職はオートバイなどのメカニック職人。だからV字型の鉄線や耕転作業に必要なパーツなど、道具まですべてがオリジナル。彼のキャリアが成せる強みだ。

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工具類が整然と並ぶアトリエ。

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60年代のロータスセブンを自身の手でフルレストア。装飾的な機能美を愛する彼らしい愛車。

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畑で嗅いだ土の香りのする、“生きたワイン”。

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温度調節のため、シートが巻かれたタンクから試飲。

お待ちかねの試飲は、タンクにいまだ眠る最新ヴィンテージの2018年。
まずは白ワイン、キュヴェ「レ・フェス」。9月半ばからマセラシオン(*)中のオレンジワインで、ブドウがまだタンクに入っているそう! 長い期間を感じさせない心地よいタンニンで綺麗な味わい。17年からはほんの少しピノ・ノワールを加え、minéralité(酸度)を足しているそう。

*マセラシオン:ブドウの破砕後、しばらく果肉・種子などを果汁に浸漬しておくこと。それを長期間行うことで色味や渋味などがより抽出される。

「うん、いい調子! まさに“Vin Vivent(生きているワイン)”だね」とフレデリックも満足げ。おいしさにふたりでしばし唸る。

「こういうワインを“lubrifiant social”と呼んでいるんだ」とフレデリック。
“社会の潤滑油”というような訳になるだろうか。人と人を繋ぐもの、楽しい時間の傍らにあるもの。フランス人はエスプリに富んだ表現が本当に上手だ。

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個人的にいちばん好きなキュヴェ「レ・プティット・ゾルグ」はピノ・ノワール100パーセント。

続いては赤ワイン、キュヴェ「レ・プティット・ゾルグ」。梅干しのような、繊細な果実味。このキュヴェの特徴を形づくる、しっかりしたミネラル分が心地よく、余韻に出汁の旨味が広がる。過度な抽出をしていないことが伝わってくるとともに、先ほど見た玄武岩の土壌が脳裏に浮かぶ。

「さっき畑で嗅いだ土の香りがするだろ、ジュンコ」と。本当にすごいワインであり、造り手だ。

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それぞれ味わいが違う!伝えると「樽も自然のものだから」と。

最後はスペシャルなものを! レ・フェス 2017年のアッサンブラージュ前の3つの各樽から試飲。「真ん中の樽がいちばんうまいな。それはアッサンブラージュ前にマグナムボトルに詰めてしまうのさ。僕たちのお楽しみの時間のために、ね!」とフレデリック。

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奥の壁には友人たちとの収穫写真。こんな気の置けない時間に、スペシャルなマグナムボトルは開けられるのだろう。

試飲の後、ランチに誘ってもらう。明るくて太陽みたいな奥様キャホリーヌ、愛称“キャホット(ニンジン)”は実に料理上手。

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仲良し夫婦。フレデリックが「ありがとう、マ・キャホット(僕のキャホット)」と言うのが印象的。ぜひ、世の男性に実践していただきたい。笑

旬のアスパラのサラダ、自家製プロシュート、ブランケット・ド・ボーのパスタ、デセールにオレンジケーキをご馳走になる。

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ブランケット・ド・ボーのパスタ。あまりのおいしさに2度ほどおかわりしたのは内緒です。

風は冷たいけれど綺麗な青空が広がる日中においしいお料理、ワイン、そして笑顔。
フレデリックも楽しく飲みすぎたようで、本当は午後から畑でひと仕事する予定だったんだけど、少しだけシエスタするかな、とあくびする彼に、あなたいつもそうじゃない、と愛情の笑みで返すキャホット。
これが人生の豊かさだな、と、造り手を訪問するたびに実感する時間。

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ランチの後、庭の菜園を案内してもらった。

またいつでもおいでと送り出されてから、昨今の時節柄、次の訪問の目途はまだ立っていない。
しかし明けない夜はない。やまない雨もない。
次に訪問した時は、キャホットにお料理を習うのだ。その機会を楽しみに、いまは“雨があがる”のを待っている。

鈴木純子 Junko Suzuki
フリーのアタッシェ・ドゥ・プレスとして、食やワイン、プロダクト、商業施設などライフスタイル全般で、作り手の意思を感じられるブランドのブランディングやコミュニケーションを手がけている。自然派ワインを取り巻くヒト・コトに魅せられ、フランスを中心に生産者訪問をライフワークとして行ういっぽうで、ワイン講座やポップアップワインバー、レストランのワインリスト作りのサポートなどを行うことで、自然派ワインの魅力を伝えている。
Instagram: @suzujun_ark

>>「自然派ワインの造り手を訪ねて」の他記事はこちら。

photos et texte : JUNKO SUZUKI

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