【フィンランドが素敵な理由】古来から継ぐテキスタイル。
Interiors 2020.05.14
ガラスデザインが誕生する地を紹介したリポート第1回に続き、第2回でフォーカスするのはテキスタイルプリント。そのこだわりの裏側には、農業国に産業が生まれてからの歴史があることがわかった。
フォルサの伝統から始まった繊維産業。
イッタラ村やガラス美術館のリーヒマキと同じカンタ=ハメ県西部に位置するフォルサ。人口18,000人ほどのこぢんまりとしたこの町で、1861年にフィンランド初のプリントテキスタイル工場が生まれた。創業者はスウェーデン人のアクセル・ヴィルヘルム・ワーレン。スウェーデンで染織を学び、リサーチのためにヨーロッパ各地を巡ったワーレンは、衣服の素材として次世代に普及するのは綿だと考えた。
元々フォルサには農家が多く、寒い冬に馬車で出かける際の防寒用ラグをウールで織る伝統が根付いていた。やがて、糸を紡ぐ技術が進歩すると、草木染めで色を付けた糸で機織りを行い、タペストリーなどを織る習慣も生まれた。ワーレンはその伝統に目を付けた。すでに技術を持っていた農家の女性たちを工場で雇い、当時の先端技術を駆使した紡績技術を共有すれば、必ず繊維産業がフォルサに定着すると考えた。
街の中心を川が流れ、綺麗な水に恵まれたフォルサ。豊富な水は繊維産業に欠かせない。
かつての紡績工場を改築したフォルサ美術館の展示は、工場ができる以前の伝統的なタペストリーからスタート。
白い綿毛が舞う紡績工場で働く女性たちは、「Pumpuli Enkelit(綿の天使)」の愛称で親しまれた。
1830年代にフォルサにやってきたアクセル・ヴィルヘルム・ワーレンは、まず紡績工場を設立した。自宅で機織りをしていた女性たちが働く工場はすぐに軌道に乗った。糸の生産が安定すると、次に計画したのが生地を生産する工場。1861年には、フィンランド最初のテキスタイルのプリント工場を立ち上げた。工場は朝5時から夕方6時まで稼働し、決して楽な仕事ではなかったが、従業員の女性たちは農作業から離れて給料を得る喜びを知り、化粧品や服を買ってお洒落することを楽しみに仕事に励んだという。
1934年、フィンランド最古のテキスタイルブランドであるフィンレイソンが、この国内最大のテキスタイルプリント工場に着目。フォルサの工場を吸収合併すると、第2次世界大戦の混乱を経て、1951年にデザインアトリエを設置した。
アートやデザインを学んだデザイナーに限らず、工場の従業員が仕事を通じてデザインを学び、デザイナーとして活躍するようになるケースも多かった。2009年にフィンレイソンのデザインアトリエは閉鎖されてしまったが、その文化遺産を受け継ぎ、デザインをアーカイブして資料化することを目的に紡績工場が美術館に改築された。
トルソーの無地の白いドレスに、ヴィンテージのテキスタイルの柄をプロジェクションマッピング。画面奥の筒状の金属ロータリーにデザインが彫られ、生地の上を回転させる方法でプリントが行われていた。
2009年に工場が閉鎖されるまでに生み出された膨大な数のデザインがアーカイブされている。
かつての紡績工場を改装したフォルサ美術館。
フォルサ美術館
Wahreninkatu 12, 30100 Forssa
tel:+358-(0)3-4141-5840
営)10時〜16時(火~金) 10時〜14時(土) 12時〜16時(日)
休)月
www.forssanmuseo.fi
---fadeinpager---
テキスタイルの歴史を継ぐ、フィンランド発のブランド。
フォルサ美術館から車で5分ほど。フィンレイソンのデザインアトリエがあったエリアに移動する。2009年に閉鎖された後、ハンドプリントに特化したブランド「Rykkeri(リュッケリ)」が現在、工房を構えているという。デザイナーのオウティ・サアリストは次のように語る。
「2012年にフォルサ出身の3人でブランドを立ち上げました。テキスタイルデザインを学んでデザイン学校の先生をしていたり、服飾デザインの仕事に就いていたり、それぞれテキスタイル関連のバックグラウンドがあります。フィンレイソンのデザインアトリエや紡績工場は2009年に閉鎖されましたが、フォルサのテキスタイルの歴史を未来へと繋いでいくべきだと考えました。フィンランドの身近な自然やフィンランドらしい色彩にこだわり、テキスタイルのデザインやハンドプリントから縫製までを一貫して行っています」
テキスタイルにプリントする際に、養生用に下に敷いた布にはたくさんのデザインが重層的にプリントされ、意図しなかった偶発的なデザインが生まれる。
このワンピースに使用されている中央部分のテキスタイルは、そうして偶発的に生まれたデザインによるもの。商品はアトリエに併設されたスペースで販売されているほか、各地の見本市での直接販売や受注を行っている。
フィンランド語で「プリントする人」を意味するリュッケリで働く3人。右からカリタ・ステンフォルス=セルカラ、オウティ・サアリスト、マルユート・ピュルッカネン=クヤマキ。
工房を構える建物の窓の格子をモチーフに、リュッケリはブランドのロゴをデザインした。工房は随時見学も受け付けており、商品も販売されている。
---fadeinpager---
▶︎▶︎近隣で立ち寄りたいおすすめスポット
1. 小さな町にできた、レトロな映画館とカフェ。
フォルッサ美術館裏手の川沿いを歩くと、大通りの喧騒とは異なった穏やかな空気が感じられる。そこにはフィンランドに現存する最古の映画館が立ち、100年以上前から続くベーカリーが繁盛しているのだが、これらに代表されるようにおとぎ話を想起させる愛らしい建物が立ち並ぶ。
川沿いに立つ映画館「Forssn Elävienkuvien Teatteri(フォルサ映画館)」は1906年に劇場としてオープン。第2次世界大戦中には、ヘルシンキから戦火を逃れるために多くのフィルムがここに運ばれ、保管されていた。
通常の上映以外にも、2000年から毎年夏にサイレント映画祭が開催されているほか、ライブやオペラのストリーミング上映を行うなど、企画上映も定期的に実施されている。
映画館から歩いて5分ほど。町の人気ベーカリー「Antin Konditoria(アンティン・コンディトリア)」には、朝から職種も年齢もさまざまな多くの客がひっきりなしにやってくる。
フォルサ映画館
Keskuskatu 1, 30100 Forssa
tel:+358-50-597-7760
www.elavienkuvienteatteri.fi
アンティン・コンディトリア
Käsityöläiskatu 24, 30100 Forssa
tel:+358-(0)3-435-5184
営)6時〜18時(月~金) 6時〜16時(土)
休)日
www.antinkonditoria.fi
---fadeinpager---
2. フィンランド伝統のスモークサウナを、ログハウスで。
フォルッサ中心部から車で8分ほどの場所では、クラシックなカントリースタイルの北欧デザインを体感できる。「Hevossilta(ヘヴォッシルタ)」というコテージだ。フォルサの工場経営者が所有した荘園跡地に、各地の古いサウナやログキャビンなどの建物を集めて、宿泊施設やバンケットスペースとして予約を受け付けている。また、イースターや母の日、父の日などイベントの日には、一般に開放されるローカルフードのビュッフェレストランとしても営業している。
オーナーのメロッレ夫妻。妻のライヤ・スンドブローム=メロッレさんが、30年以上かけて趣味で集めたアンティークのテキスタイルや家具、食器をはじめとする雑貨などが膨大な量となり、収納するための空間として、フィンランド各地の古いログキャビンなどを購入して移築したことでこの施設が誕生した。
33ヘクタールの敷地に6棟のログキャビンと7棟のサウナがあり、宿泊者は伝統的なスモークサウナ(煙突がないサウナを煙と熱で満たし、十分な温度になったら煙を排出してストーブの余熱で温まるサウナ)を楽しむことができる。
ローカルな食材と調理法にこだわった料理の質も高く、ウェディングや誕生日などのパーティ空間としても人気だ。
【関連記事】
【北欧デザイン案内 vol.1】フィンランドのガラスの街へ。
素敵な旅のストーリーが始まる、ホテルのロビー6選。
2020年3月のパリ日記 外出禁止 2週目 #05
photos et texte : RYOHEI NAKAJIMA