いま、改めて欲しい! 心なごむ北欧のデザイン。#01 ブーム再燃! 家時間がもっと楽しくなる、北欧暮らしのヒント。
Interiors 2021.02.21
北欧諸国を訪ね、現地取材を行ってきたデザインジャーナリストの猪飼尚司さんに、北欧デザインが日本で愛される理由といまこそ注目したい豊かな暮らしのヒントを教えてもらった。
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北欧デザインが、日本で紹介されるようになったのは1970年代のこと。その後も一時的な流行で終わることなく、半世紀以上にわたりコンスタントな人気を誇ってきた。その北欧デザインがいま改めて注目されているのをご存知だろうか。
2021年2月19日にイッタラのフラッグシップショップが表参道にオープンしたばかりで、昨年よりイケアは次々に都市型店舗を展開。さらにはスウェーデンの人気デザイナー、フリーダ・ラムステッドの著書『北欧式インテリア・スタイリングの法則』の日本版が刊行され、3月20日から世田谷美術館では「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド─建築・デザインの神話」展も始まるなど、国内での北欧デザインムーブメントは留まるどころか、いっそう過熱し、新しいフェーズに突入しているといっても過言ではない。なぜこれほどまでに北欧デザインは日本で愛され、私たちの心をくすぐり続けるのだろう。
北欧式インテリアの作り方を記した『北欧式インテリア・デザインの法則』(フリーダ・ラムステッド著、フィルムアート社¥2,640)。スタイリングだけでなく、寸法や色の組み合わせ、ライティングのルールまで丁寧に解説。著者はインテリアデザイナー&スタイリストとして活躍するかたわら傍ら、スウェーデンの人気インテリアサイト「Trendenser」も運営している。
シンプルで機能的、ナチュラルで温かみのあるテイストという特徴を持つ北欧デザイン。豪華絢爛な装飾主義から発展したフランスやイギリスのデザインとは確かに異なる、質素で落ち着きを感じさせるところが、日本人の琴線に触れるのは確かに納得できる。でも、こうした特徴は、突然理由もなく生まれたものではない。北欧各国が歩んできた歴史や地理的特徴が大きく影響しているのだ。
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インテリアの感覚を育てた歴史と気候。
北欧と一括りにいっても、フィンランド、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーそれぞれに国の成り立ちは異なり、民族性も異なる。第二次世界大戦中はデンマーク、ノルウェーはナチスドイツに、フィンランドは旧ソ連に占領されていた影響から活動の自由に束縛があり、産業も低迷。戦後は経済復興とともに、早急な市民生活の向上が求められた。
フィンランドのアルテックは、アルヴァ&アイノ・アアルト夫妻と、またデンマークのカール&ハンセン&サンはハンス・J.ウェグナーらとのコラボレーションに代表されるように、各メーカーが身近な素材を生かした木製家具を積極的に供給開始。これを機に北欧各国の家具デザインは一気に発達した。
人々の日常に目を向け、手頃で使いやすく、快適な生活をサポートするデザインを作り続けたアルヴァ&アイノ・アアルト夫妻。世田谷美術館では、この2人にフォーカスした企画展を、3月20日〜6月20日にかけて開催する。©Aalto Family Collection, Photo: Eino Mäkinen
フィンランドの首都、ヘルシンキ郊外の閑静な住宅街にあるアアルトの自邸。1936年から40年間にわたり住み続けた邸宅のリビングルームには、中庭から柔らかな光が注ぎ込む。素朴で心地の良い時間が流れるなかで、人々に提案する豊かな暮らしを自ら実践していた様子が伺える。©Alvar Aalto Foundation
また、各国ともに緯度が高いところに位置するため、冬はとにかく厳しく、日中でも外はうす暗いまま。おのずと家の中で過ごす時間が増えるなか、人びとの間にいかに自宅を心地よく、明るく、自然な感覚に満ちたものにするかという意識が高まり、優れたインテリアの感覚が養われていったとも考えられる。
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豊かなデザインは、日本人の心をくすぐる。
一方で、北欧のライフスタイルを象徴する言葉に、スウェーデンの「Fika(フィーカ)」やデンマークの「Hygge(ヒュッゲ)」、フィンランドの「Kahvittelu(カハヴィッテル)」という習慣がある。基本的にどれもお菓子を食べながらコーヒーや紅茶を飲む行為を伴うものだが、日本語でいうところのコーヒーブレイクやティータイムとは少々異なり、楽しく過ごす時間や空間、お茶をしながら誰かと楽しく過ごすことを主に意味するという。
単に心安らぐ環境を美しく整えるだけでなく、誰とどのように過ごすかに重きを置いている彼らの意識が、優しさや温もりを兼ね備えるデザインのあり方に昇華されていると考えられる。
白銀の世界は美しいものの、葉を落とした森やどんよりと暗く広がる空を見ていると、陰鬱とした気分になることも否めない。そんなとき北欧の人々はインテリアを温もりと彩りで包むことによって、気持ちを高める。photo:HISASHI IKAI
とにかく短い夏を精一杯楽しむべく。少しでも長い時間太陽と戯れようと、みんな一斉に表に繰り出す。写真は、コペンハーゲン市内を走る運河沿いの桟橋で日光浴を楽しむ人々。photo:HISASHI IKAI
スウェーデンの「フィーカ」の様子。テーブルに並ぶのはとてもシンプルなメニューで、コーヒー&クッキーというのが基本だ。食べものや飲み物の内容よりも、おしゃべりをするというのが主な目的だとか。photo:HISASHI IKAI
この1年、私たちはコロナ禍によるステイホームを余儀なくされてしまった。だが、視点を変えれば、親しい人たちと家での時間をゆったりと過ごすことができるというもの。こんな時だからこそ、北欧デザインを積極的に生活に取り入れてみると、ステイホームも想像以上に楽しいものになってくるかもしれない。
会期:2021 年 3 月 20 日(祝)~6 月 20 日(日)
世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園1-2)
営)10時~18時(最終入場17時30分)
休)月曜、ただし5月3日(祝)は開館、5月6日(木)休館
料)一般¥1,200
●問い合わせ先:
tel:050-5541-8600(ハローダイヤル)
www.setagayaartmuseum.or.jp
デザインジャーナリスト。大学でジャーナリズムを専攻し、渡仏。帰国後にフリーランスとして活動を開始。現在は、デザイン、クラフト、建築、アートを軸に、国内外で取材を行う。
photos et texte:HISASHI IKAI