クヴァドラ/ラフ・シモンズ、キナサン。 ミラノで紹介された最新テキスタイルデザイン。
デザイン・ジャーナル 2019.04.29
クヴァドラ/ラフ・シモンズの展示は「No Man’s Land」
引き続き、ミラノデザインウィーク2019から、テキスタイルに関する話題を紹介しましょう。展示そのものも印象的だったふたつのブランドです。
ひとつは、デンマークのテキスタイルブランド、「クヴァドラ(Kvadrat)」のプレミアムラインであり、ラフ・シモンズとともに生み出されているインテリアテキスタイルとアクセサリーのコレクション「クヴァドラ/ラフ・シモンズ(KVADRAT/RAF SIMONS)」。
ミラノ市内、チンクエ ジョルナーテ地区に位置するGarage 21を会場として、6シリーズ目となるコレクションが発表されました。
「ノーマンズランド(No Man‘s Land)」と題してのスペシャル・インスタレーションが何とも興味深いものでした。ラフ・シモンズ自ら手がけた空間構成には、彼が長くコラボレートしているフラワーアーティスト、マーク・コールも参加し、新作テキスタイル「アトム(Atom)」を模したガーデンが登場。訪れた人はここでまず、「わぁ!」と、ラフ・シモンズの世界に引き込まれてしまいます。
「No Man's Land」KVADRAT/RAF SIMONS _Photo: Casper Sejersen
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会場には、20世紀のデザインを振り返る際には忘れてならないフランス人建築家/デザイナー、ジャン・プルーヴェ(1901年~1984年)のプレハブ住宅が3棟登場。その内部で「シーティングスペース」「ホーム」「アトリエ」をそれぞれテーマとする展示がなされるという、楽しい構成です。
「No Man's Land」KVADRAT/RAF SIMONS, Photo: Casper Sejersen
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テキスタイルそのものは、ヘーリット・トーマス・リートフェルトやル・コルビュジエによる家具のほか、ラフ・シモンズのセレクションによる家具、照明器具などと組み合わせられての紹介となっていました。色彩、テキスチャーの醍醐味に満ちたコレクションを、空間で用いられる光景を思い描きながら目にできるという、私たちの想像力を刺激してくれる展示です。
「No Man's Land」KVADRAT/RAF SIMONS, 新作テキスタイルは日本でも購入可能。詳細はショールームまでお問い合わせを。Photo: Casper Sejersen
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ある日の会場風景もご紹介しましょう。
Photo: Courtesy of Kvadrat Japan and How Inc.
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キナサンは長嶋りかこさんと「SCRAP AND REPRINT」
クラフツマンシップを受け継ぐスウェーデンのカーテン、ラグのブランド 「キナサン(Kinnasand)」。ミラノ市内のショールームで行われていたのは、才能あふれるクリエイターと行われているプロジェクト、「キナサン ラボ(Kinnasand LAB)」からの紹介です。
グラフィックデザイナーの長嶋りかこさんと開発された新作カーテンの名前は、「スクラップ_シー・エム・ワイ・ケー(Scrap_CMYK)」。CMYKとは、オフセット印刷の基本となる、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の意味。4種のデザインの誕生です。
「SCRAP AND REPRINT」Kinnasand , Photo: Matteo Girola
展示そのものには「スクラップ・アンド・リプリント(SCRAP AND REPRINT)」との名が付けられていました。
グラフィックデザインの仕事の際、印刷機械の調整や、刷り始めのインク調整の過程でどうしても出てしまう「ヤレ紙」に、長嶋さんは注目。「そのつど偶然に生じるインク汚れの表情を活かす」という発想に基づく新作カーテンのデザインです。
グラフィックデザイナーとしての自身の仕事のなかで生まれた「ヤレ紙」を1年間収集してきたという長嶋さん。「ヤレ紙に存在するインク跡、印刷エラーなど、偶然生まれた美しいパターンをピックアップしました」
長嶋りかこさん。Photo: Matteo Girola
印刷機のシリンダーからインク汚れがついたテキスタイルが生まれ出る瞬間のようなインスタレーションは、シンプルでありながらも、込められたメッセージを鮮明に伝えます。会場にはヤレ紙そのものも。それらを目にするなかで、普段は廃棄されてしまう物に潜んでいる魅力に気づかされました。
Photo: Matteo Girola
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「デザインは価値を産み出すと同時に、廃棄物も産んでしまう仕事だと私はとらえています。さまざまな仕事の中で、極力、廃棄になったものや再生材を使用し、資源を循環させるよう務めています」。長嶋さんのメッセージも紹介されていました。
世界中から多くの来場者を迎えるデザインウィークですが、同時に生じる廃棄物に対するメッセージも重ねられた展示。「ちょっと考える時間をもってもらえたら、うれしい」とも。
「使用済みで廃棄物となるものに新たな生命を吹き込む」との考えで、カーテンの素材はペットボトルの再生によるリサイクルポリエステル。生地幅300cm。21800円/m。日本でも購入可能。詳細はお問い合わせを。Photo: Matteo Girola
意図せず生じるインク汚れを、空間を彩る一枚のテキスタイルとしてしまったデザイナーの感性。そして、深いメッセージのうえに生み出された繊細な色彩、ガーゼのようなクレープ織りの表情……。現代のテキスタイルの魅力をたっぷり味わえるプロジェクトに出合うことができました。
Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami