「Artek Tokyo Store」オープン。限定コレクションの紹介も。

フィンランドのインテリアブランド「Artek(アルテック)」の日本初直営店となる「Artek Tokyo Store(アルテック 東京 ストア)」が、先日表参道にオープンしました。

店内階段で結ばれた2フロア。大きなガラス面から光が差し込む空間では、アルテックのコレクションはもちろん、ほかブランドの品々も。

「アルテックと価値観を共有するブランドの品々、また、Artek Toko Storeの特別限定品も紹介していきます」。アルテックのみなさんが説明してくれました。

190507-designjournal01.jpgアルテック設立者であるアルヴァ・アアルトが設計したヴィープリ(ヴィボルグ)の市立図書館の天井など、アアルト造形の特色である波うつ曲線を想像させる天井。ほかにも曲線が印象的な空間に。Photo: Petri Artturi Asikainen

190507-designjournal02.jpg空間デザインはDAIKEI MILLES(ダイケイ・ミルズ)。「フィンランドの自然、人々の温かさや訪れた人を招く温かな家といった精神性を表わしたいと考えました」と)DAIKEI MILLESの中村圭佑さん。Photo: Petri Artturi Asikainen

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アルテックは1935年、フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトと妻のアイノ・アアルトをはじめ、マイレ・グリクセン、ニルス=グスタフ・ハールという4名の若者を設立者として、ヘルシンキに誕生しました。

アルテックの語源は、「アート」と「テクノロジー」。時を超えて愛されている同社の品々を前にするといつも、この名に込められた彼らの熱い精神に触れる思いがします。

技術を活かして美しく機能的な家具をつくり販売すること。それだけでなく、展覧会や活動全体を通してモダニズム文化を伝え、促進すること。深い意味での「アート」であり、実に革新的な活動でもあったのです。1936年にヘルシンキに設けられたアルテック初のストアも彼らの考えを伝える場。当時は斬新だったコンセプトストアとしての役割を担うものでした。

以来、アルテックによって生み出されてきたのは、デザイン、アート、建築の接点において、生活を心地よいものにしてくれる品々。同時にそれらは、私たちの心や感性そのものを豊かなものとしてくれる存在です。

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190507-designjournal04.jpgアルテックの哲学が大切にされている店内。Photo: Petri Artturi Asikainen

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アルテックの代表作のひとつに「スツール 60(Stool 60)」があります。その特別版にも、このストアでは出合えます。

「スツール 60」に徳島の藍師・染師であるブアイソウ(BUAISO)が染色を施した、「スツール 60 藍染(Stool 60 Aizome)」。4月のミラノデザインウィーク2019でのアルテックの展示会場でいちはやく、「FIN/JPN フレンドシップ コレクション」のひとつとしてお披露目されていたものです。

190507-designjournal06.jpgジャパンブルーに包まれた「スツール 60 藍染」。透けて見える木目も味わいに。ナチュラルラッカー仕上げのシリアルナンバー入りが100脚、ラッカー仕上げなしのアートピースが10脚。ともに日本限定製品でArtek Tokyo Storeでのみ購入可能。

190507-designjournal07.jpgミラノデザインウィーク2019の際、ブレア地区で行われていたアルテックの展示風景。Photo: Daniele-Ansidei

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Artek Tokyo Storeで購入できる特別コレクション「FIN/JPN フレンドシップ コレクション」のアイテムはほかにも。

ひとつが皆川 明さんの本、『Pieces of Aalto / ああるとのカケラ』。アルヴァ・アアルト、アイノ・アアルト夫妻の建築やプロダクトから皆川さんが抽出した「さまざまな“カケラ”」。そのドローイングで構成された一冊です。

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190507-designjournal09.jpg皆川 明『Pieces of Aalto / ああるとのカケラ』。「気持ちに寄り添い、愛着を導く。」とのタイトルでの皆川さんの文章も収録されています。Photo: Akira Minagawa

公私ともにアルヴァ・アアルトの大切なパートナーだったアイノ・アアルトのデザイン、「キルシカンクッカ(Kirsikankukka)」のテキスタイル復刻も「FIN/JPN フレンドシップコレクション」のコレクションの話題です。

1930年代に贈られた桜の花のスカーフに着想を得て彼女がデザインした、「桜の花」の名を持つテキスタイルの復刻版。樹木を愛し、造園家のもとでランドスケープを学んでもいたアイノの心を感じるデザインです。

190507-designjournal10.jpgアイノ・アアルトが出がけた、日本とフィンランド限定のテキスタイル「キルシカンクッカ」。Artek Tokyo Storeでは、日本限定販売となる風呂敷も。アイノは、1941年よりアルテックの2代目社長も務めていました。

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「FIN/JPN フレンドシップ コレクション」では、ほかに建築家の長坂 常さんが試みる「カラリン(ColoRing)」を表面仕上げとして施した「901 ティートローリー(901 Tea Tollery)」、「153 ベンチ(Bench 153)」、さらにカラリン仕上げの「スツール 60」も。

カラリンとは、日本古来の手法である「浮造(うづくり)」と漆の「津軽塗り」を掛け合わせるようにして考えられた長坂さん独自の技法です。何層もの色彩が施されることで、アルテックのスタンダードコレクションは新たな表情に。

そして空間・プロダクトデザイナー、二俣公一さんの「キウル ベンチ(Kiulu Bench)」。フィンランドのサウナ、日本の温泉、銭湯からイメージを膨らませたという木製のベンチ。キウルとはフィンランド語で「桶」の意味。桶のようなバスケットにさまざまなものを収納することができるのが楽しい。

190507-designjournal11.jpg​こちらはミラノデザインウィークの展示風景から、長坂 常さんデザインの「カラリン」。本体はバーチ材、天板はバーチ材のパイン材突き板仕上げ。今年秋より発売予定です。Photo: Daniele-Ansidei

190507-designjournal12.jpg二俣公一さんデザインの「キウル ベンチ」。バーチ材。アルテックが探究してきた曲げ木の技術がたっぷり活かされています。今年冬より発売予定。ほかにも、フィンランドを拠点とするデザインデュオ、カンパニーがデザインした陶器6種類が7月より発売に。Photo: Daniele-Ansidei

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「FIN/JPN フレンドシップ コレクション」は、日本とフィンランドの外交関係樹立100周年に際して企画されたコレクションです。ミラノでの展示では、「日本とフィンランドの友情のシンボル」としてネコのイラストが登場。こちらも注目の的でした。

でもなぜ、ネコ? Artek Tokyo Storeのオープニングの際に来日していたアルテックのCEO、マリアンネ・ゴーブルさんと話をするなかで、その理由がわかりました。「ネコは私たちにとって大切な友人。私たちの身近にそっといる存在でしょう?」とマリアンネさん。(なるほど!)

「そばにいる友人」。このことは、「スツール 60」をはじめアルテックの家具の各々に関しても同じであることを感じます。私たちの近くでそっと見守ってくれる家族や友人のような存在であり、長い時間を共にできる大切な存在でもあること……。

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190507-designjournal14.jpgネコも注目されていたミラノデザインウィークの会場です。Photo: Noriko Kawakami

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もうひとつ、今回のストアに関する話題を添えておきます。このストアのオープンを記念して、イルマリ・タビオヴァーラがデザインした、こちらもアルテックの名作のひとつ「ドムス チェア(Domus Chair )」の特別版が誕生、販売が始まっています。

フィンランドの学生寮、ドムス アカデミカのデスクチェアとして1946年にデザインされた「ドムス チェア」。座りやすく、美しい座面の曲線も特色で、フィランドのレストランをはじめ、さまざまな場所で愛用されている一脚。

小さな肘かけなど、全体として温かな雰囲気に包まれた椅子のデザインを尊重したうえで、特別版「ドムス チェア オンネア(Domus Chair Onnea)」では背もたれと座面にナチュラルレザーが選択されています。愛され続けるデザインだからこそ、新たな素材が加わることで一層の魅力を放つのだということを教えてくれる好例です。

190507-designjournal15.jpg「ドムス チェア」はフィンランドを代表する椅子として「フィンチェア」とも呼ばれています。こちらがArtek Tokyo Store開店記念特別モデルの「ドムス チェア オンネア」。50脚限定。Photo : Petri Artturi Asikainen

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こうした特別製品も目にしつつストア内を歩いているうちに、私は今年3月にフィンランドを再訪したときのことを思い出していました。

ヘルシンキのアルテックのストアはもちろん、市内リーヒティエ通りに建つ、大好きなアアルト自邸兼事務所(1936年完成)も再び訪問。家具や絵画などさまざまなものの全体が美しく調和する空気を、今回もたっぷり味わえる滞在となりました。

アアルト夫妻の自邸リビングから一望できる中庭、屋上テラス、仕事机から窓ごしに眺められる季節の景色……。自然環境と調和する家であること。日々の暮らしをしっかりと軸に据えた建築であることなど、アアルトが生涯重視した考えの数々、そしてアイノの愛した庭と樹々。アアルトが家族やスタッフと過ごした家の空気はいまも穏やかで、彼らの考えは空間や家具を介して鮮明に伝わってきます。

家具をはじめ多数の品々に出会うことのできるArtek Tokyo Storeもまた、私たちの生活を包む、温かで心地よい空気の大切さを伝えてくれる場となるはずです。1階では、ヘルシンキのアルテックストアから贈られたという「artek」のロゴサインのディスプレイも目にできました。滞在するほどに発見の多いストアです。

190507-designjournal16.jpgアルテックCEO、マリアンネ・ゴーブルさんも来日(左)。「このストア、アルテックの精神をまさに伝える空間にできたわ! あなたの感想をぜひ聞かせてね」と終始笑顔でした。右はアルテックとパートナーシップが結ばれているヴィトラのCEO ノラ・フェルバウムさん。ストアにはヴィトラの品々も。Photo: Noriko Kawakami

190507-designjournal17.jpg表参道、オリエンタルバザーの横の道を入ってすぐの場所です。Photo: Petri Artturi Asikainen

Artek Tokyo Store
東京都渋谷区神宮前 5-9-20
営)11時〜20時
休)火曜
tel:03-6427-6613

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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