ミラノのアトリエの空気を感じた、アルマーニ / カーザでの「アルチザン イベント」。
デザイン・ジャーナル 2019.12.02
毎年、秋は都内で多くのデザインイベントが開かれる時期。今年もさまざまな企画を楽しむことができました。
そのなかのひとつ、アルマーニ / 銀座タワー内の「アルマーニ / カーザ」(ARMANI/CASA)ブティックで初めて開催され、注目を集めた「アルチザン イベント」の様子をご紹介します。
「ファッションで確立したアルマーニ調を、服ではなく生活空間に使ってみた。そして別荘が完成した。目をこらしてよく見れば気付くはずだ。私のこだわりにね」。自身のドキュメンタリー映画のなか、イタリアのパンテッレリーア島でのヴァカンスのシーンでアルマーニ氏が語っていたことばがありました。
書籍『ジョルジオ・アルマーニ:帝王の美学』には、「家を設計する時には、雑誌で提案されたスタイルを真似るのではなく、そこに住む人が心に抱くイメージを大切にするべき」との考えも。氏の想いとともに温められていたプロジェクトが「アルマーニ / カーザ」としてスタートしたのは2000年のことです。
そのホームインテリアコレクションを紹介する銀座のアルマーニ / カーザブティックで、制作風景が披露された「アルチザン イベント」。普段はミラノの工房で制作を手がけている卓越した技の持ち主4名が初来日し、アルマーニ / カーザの品々に活かされている制作方法を披露するという貴重な機会でした。
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ひとつが「オーシャン ラッカー」。葛飾北斎の「富嶽三十六景」からインスピレーションを得たアルマーニ氏のデザインで、氏のデザインによるキャビネットに施されているハンドペインティングです。
絵筆を手にした制作風景。「気温や湿度からも細かな影響を受けるため、天候と対話するような作業です」との説明がありました。「用いる素材そのものも生きていますから」
アルマーニ / カーザのコレクションのなかでも、アイコニックな存在であるバーキャビネット「クラブ」の扉を彩る「オーシャン ラッカー」。その制作過程にも多くの来場者が見入っていた。
そして、「ブラック ストロー」。アールデコの家具にも目にできる伝統的な寄せ木細工の手法「マルケトリー」の手法で制作される繊細な表現です。
アルマーニ / カーザのコレクションで用いられているのは、ライ麦を始めとする数種類の藁。黒色に染めた後にカットし、さらに丁寧に整えた後、一本一本の太さを活かしながら丹念に貼り合わせられていきます。その結果生まれるのが、ニュアンスのある美しい光沢の表情です。
素材の造形そのものを生かしながらの緻密な作業。
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「アルチザン イベント」では、極薄の金箔でつくられていく「ゴールド リーフ」の制作風景も披露されました。一枚一枚、題材に丁寧に貼られ、静かに押さえられていく手作業です。
「ゴールド リーフ」。金箔を貼っていく作業はどことなく心地よいリズムにも包まれていた。
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「アルチザン イベント」期間中にはトークイベントも開催され、私も建築家のコマタ トモコさん(横堀建築設計事務所)と話をさせていただく機会をいただきました。
作業をされるみなさんと並んでのトークという、他ではない貴重な機会に。私の右に建築家のコマタさん。「アルマーニ氏にとって創造とは仕事ではなく人生そのもの。ドキュメンタリー映画で最も大切なものは愛と語っていました。その精神がファッション、家具、ホームコレクションのすべてに表現されています」
アルマーニ氏のクリエイションに共鳴するところが多いというコマタさん。私たちの最初の話題は、時間のかかる手の仕事の魅力と、現代におけるその大切さについて。オーシャンラッカーを例に挙げると、ひとつのキャビネットのための描写を仕上げるために5週間が費やされているそうです。
手による描写なので、微妙な違いも生じますが、そのことが魅力となり輝きを放つのです。「描き手の心が自然と表われますね」とコマタさん。
次に話がはずんだのは、マテリアルと縫製の独自性によって無駄のない美しさが追求されているアルマーニのファッションと同様に、吟味が重ねられているホームコレクションの素材と構造について。イタリアのテキスタイルの革新的な発展も及ぼしてきたデザイナーならではの、素材に対する妥協のない視点が貫かれています。
藁という、まさに自然の素材を用いたマルケトリーが現代的なアルマーニ / カーザの家具づくりに生かされているのも興味深い点です。ものづくりの歴史のなかで大事に受け継がれてきた技や緻密な手のしごとと、現代に生きるデザイナーの美意識とが響きあっています。
「ブラック ストロー」。アルマーニ / カーザの家具に活かされているマルケトリーは直線ストライプと太陽パターン。美しい輝きを放つ。
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「アルマーニのクリエイションの魅力は融合」とコマタさん。この点も私たちのトークでの大切な話題となりました。
「アルマーニのファッションが伝統と革新の融合を感じさせるものであるように、アルマーニ / カーザの家具もまた伝統的な技法と現代のデザインが融合しています。西洋の素材や技術を用い、直線的なフォルムが美しい家具には、それぞれ東洋の家具の趣をうかがうことができます。西洋と東洋の表現の融合ですね」
この日コマタさんは、私たちもとり入れることのできる楽しいヒントを教えてくれました。アルマーニ / カーザで必要な長さで購入できるアルマーニのファブリックを、壁紙やカーテンに活かしていく方法です。
この楽しみ方、コマタさん自身が手がけている建築設計やインテリアのプロジェクトでもさまざまに提案をされているそう。「西洋と東洋の美意識が融合したうえで、これほど普遍的なエレガンスを感じさせるファブリックは他ではなかなか見あたりません」
幅広い話題で楽しく話をさせていただいたトークイベントを終えて、再び、アルマーニ / カーザのブティック内を拝見しながら、私はあることを思い返していました。イタリア語で「衣服」を表現することばは「abito」、そして「住む、暮らす」行為を表わすことばは「abitare」。語源は同じと知り、驚きを覚えた日のことです。
衣服を身に纏い過ごすことと、空間のなかで暮らすことと。双方を大切にすることが美しく生きる時間につながっていて、それがことばそのものでも表現されているイタリアで、心を豊かにしてくれる品々を生み出しているホームインテリアコレクション。「アルチザン イベント」は、アルマーニ / カーザの魅力にたっぷり触れることのできた時間となりました。