うつわディクショナリー#03 原田譲さんの幸福のレリーフ

千年前の焼物が現代によみがえる幸福

原田譲さんは、およそ千年前に中国で作られた焼物に施された紋様や色、質感を作品に写しとり、その神聖な佇まいごと私たちに伝えてくれる。使うことで気持ちが凛として生活を整えたくなるようなうつわの秘密を探りました。

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—原田さんのうつわは、お皿のふちまで細かく描きこまれた可憐なレリーフがたまりません。
原田:中国の焼物を参考に、鴛鴦(おしどり)や鳳凰、鹿、牡丹や蓮、菊など縁起が良いとされる吉祥紋を彫り込んでいます。うつわに直接彫るのではなく、紋様を彫った石膏型にお皿の形にひいた土をかぶせて押しつけ柄を刻む「印花」という技法で作ります。図案を起こすのにおよそ1日。大きいお皿の場合は石膏型を彫るだけでも1〜2日かかります。一度型ができれば同じ紋様で同じ大きさのうつわを再現することは可能ですが、一枚一枚、石膏型に土を押しつけて仕上げるので手間はかかりますね。
 
幸福のモチーフなんですね。参考にしているのは千年も前に中国で作られた焼物と聞きましたが、それはどういったものなのでしょう?
原田:中国の唐の末期から北宗という時代にかけて「定窯(ていよう)」という焼物の窯で作られていたものです。宮廷へ収めることが許されるほどの技術の高さや評価を得ていた窯だったようで、庶民というよりは、身分の高い人が使うためのうつわや壺などを作っていたのだと思います。陶芸を志したころ、いろいろな焼物を見たんですが、なかでも特に興味を持ったのが定窯の白瓷(はくじ)でした。形と薄さからくる雰囲気の良さに強くひかれて、自分の作品として再現できないかと考えるようになって。博物館で見たものや展覧会の図録などを参考に、細かい彫り模様はもちろん、サイズ感や厚みにいたるまですべてを忠実にうつすことを心がけて制作しています。
 
—お手本となるものの魅力を理解し自分の作品に反映する“うつし”というやり方ですね。オリジナルで作るのではなく、なぜこの方法を選んだのですか?
原田:古い焼物をたくさん見ていると、そこに宿る雰囲気にどんどんひかれていきます。定窯でいえば、幸福や長寿、夫婦円満を願った紋様の美しさはもちろん大事な要素ですが、それだけでなく白の色味や土の質感も含めた全体が醸し出すもの。うつわにとって最も大事なのは、そういう存在感のようなものなのではないかと思うようになったんです。オリジナルの紋様を彫っていた時期もありましたが、いまは、古きに学び“うつす”ことで表現できることがあるのではないかと思っているんです。
 
—お皿や鉢の縁には、釉薬がかかっていなくて土の質感がわかります。
原田:定窯では、窯の中にお皿を伏せて置き焼いたことから窯に接触する縁には釉薬をかけませんでした。そうした焼き方も、釉薬も、触りごこちも、できるだけ昔のものに近づけたいと思っています。中国の白瓷は、日本でいう白磁とはすこし違って陶器に近いやわらかさもある。そのため、土も自分でブレンドしています。一見、キンとした印象ですが素朴さも持ち合わせている。実際に手に取るとそういうところも分かってもらえるかもしれません。
 
—原田さんの仕事のおかげで、千年も前の焼物が私たちの現代の生活の中に入っていくと考えるとワクワクします。
原田:僕のうつわは薄手なので普段使いで気兼ねなくとはいかないかもしれませんが、およそ千年ほど前に中国でこのようなスタイルの白瓷が焼かれ、その先には当時の人々の様々な営みがあって、など少しロマンチックな思いにひたるといった楽しみがあってもいいのかなと思っています。暮らしの中で必要となるものを作る仕事がしたいと思って陶芸を始めました。僕のうつわを見て人がワクワクしたり、喜んでくれ、必要としてくれるのは嬉しいです。
 
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今日のうつわ用語【白瓷/白磁・はくじ】
中国では白瓷、日本では白磁と表記する。しかし中国では釉薬のかかった陶器や磁器を総じて瓷器(じき)と呼ぶこともあり「白瓷=白磁」とは言い切れない部分も多い。中国の骨董のうつしなど古典的なうつわ作りを志す作家が、古いものへ敬意を払う意味で白瓷を使うことも。
 

夫婦円満を意味する鴛鴦(おしどり)が中央に2匹向き合って並ぶ幸福なモチーフ。白瓷印花鴛鴦紋輪花盤¥3,780/うつわノート

生命力や繁栄を意味する宝相華のまわりにこれぞ中国!な雷紋(らいもん)が。白瓷印花宝相華紋笠式碗¥3,780/うつわノート

四季花という紋様をいくつも配したうつわには、チョコレートなどお菓子を盛り付けても。白瓷印花四季花紋高足¥3,240/うつわノート

中国の定窯には褐色のうつわもあったそう。おおらかに飛翔し幸福を意味する鳳凰と草花が美しく調和する。褐釉印花鳳凰紋織腰盤¥7,560/うつわノート

いまにも飛び跳ねそうな鹿の紋様を見つけられる?長寿を願う紋様。褐釉印花花鹿紋盤¥2,376/うつわノート

白の美しさを追求した無地にも取り組む。花器は厳かで神聖なフォルム。白瓷壺¥10,800/うつわノート

【PROFILE】 原田譲/YUZURU HARADA
工房:茨城県東茨城郡城里町
素材:瓷器(カオリン瓷土)、半磁器(半磁器土)
経歴:茨城県出身。建築や工業デザインに興味を持ち一時は公園設計の道を志すも、手のひらの中でできるものづくりにひかれ陶芸家を志す。茨城県窯業指導所を卒業後、独立。

うつわノート
埼玉県川越市小仙波町1-7-6
Tel. 049-298-8715
営業時間:11時〜18時
http://utsuwa-note.com
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『原田 譲 展 〜定窯白瓷 恭敬〜』開催中
会期:2017年3/4(土)〜3/12(日)
会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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