うつわディクショナリー#23 佐藤もも子さんの染付

春の風を運ぶようなやさしい絵付けに癒されて

佐藤もも子さんの磁器には、やさしく軽いタッチの草花が多く描かれている。そこに感じる風の流れは、私たちになんとも心地いい時間をもたらし、食事の時間もおやつの時間も、和やかなものにしてくれる。

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—佐藤さんがうつわに興味をもったきっかけを教えてください。
佐藤:私が育った九州には、有田、唐津、小鹿田など古くから続きよく知られている焼物の産地があります。母がうつわが好きだったこともあって、中学生の頃から有田の陶器市にはよく一緒に出かけていました。うつわは、興味を持つというよりいつも身近にあったものという感じなんです。
 
—なぜ、うつわ作家に?
佐藤:大学を出て一般企業に就職をしたのですが、昔から好きだった作る仕事がしたいと思うようになったんです。それも両手を添えてちょうど持てるくらいの大きさのもの。そう思ったら自然と焼物が浮かんできて。
 
—自然と浮かんできたくらい、うつわは本当に身近なものだったんですね。唐津の陶芸家・岡晋吾さん、さつきさんの天平窯で修行をしたとか。
佐藤:先生の作る焼物は、染付でも伝統的な有田焼のきちんとした感じとは違って、自由で楽しそうで。だけど、しっかりと力があり料理の映えるうつわです。そういうものに憧れました。2年間という短い間でしたが、ろくろでも型打ちでもたくさんの作る経験をしましたね。月曜から土曜の、朝から夜まで、とにかく焼物漬けでした。
 
—その時間があったから、いま作品にこれだけのバリエーションが生まれているのですね。
佐藤:うつわの形は、古いものを参考にすることが多いです。本を参考にする時は、写真で見えない部分を自分で想像して。参考にするものがあっても、結局最後は、自分がいいなという形や大きさに落ち着いちゃうんですけどね。
 
—だから使いやすいのだと思います。染付には和のうつわというイメージがありますが、佐藤さんのお皿や鉢を見ていると和食よりも先に、スープや煮込みのような洋風な献立が浮かぶんです。
佐藤:楕円のお皿や鉢、ポットやピッチャーは、記憶の中にある西洋のうつわや絵などさまざまなイメージが混じり合って生まれてきます。私たちは、テーブルで食べることが多いし、床もフローリングだったりしますから、形は自由に。染付であってもいまの生活や空間に合うものを作っていけたらと思っています。
 
—作る時に大切にしていることは何ですか?
佐藤:土と向き合うことでしょうか。特にろくろを回す時は、土がどういう方向に行きたいか、触っているうちに分かることがあるんです。その方向に逆らわずに、ふわっと、時にはきゅっと。ボディはふんわり膨らませたら、口の部分はきゅっと締めてどこかに緊張感をもたせたるようにしています。
 
—風船のようにふんわりと膨らんだポットの形なんて、まさにその通りですね。
佐藤:頭でカーブを作ろうとするのではなく、土がしたい動きに合わせて手を添えるというイメージです。「ふわっと、丸くなれ〜」って。だからポットは、膨らみも大きさも少しづつ違う一点もの。できた形に合わせて絵付けも蓋のつまみの形も変えています。作っていてとても楽しい作品のひとつなんです。
 
—一点ものと数を作るお皿では、作る時の感覚が違うのですか?
佐藤:数ものといって同じ形や大きさに揃える時には、決めた形、サイズに揃えながらテンポよくろくろをひくので感覚は違いますね。先生はよく「目の前のものより、いいものを作るつもりでやれ」と言っていました。同じものを作ろうとするのでは、それより悪いものしかできないということなんですよね。作るたびに思い出す言葉です。
 
—佐藤さんの描く草花、風の流れまで感じられて気持ちがいいです。
佐藤:使っていて気持ちのいいものを作りたいといつも思っています。絵付けは身近に咲いている草花をモチーフに。描く時の感覚は土を扱うのと似ていて、手の動き、筆の動きに任せてさらりとふわっと。控えめだけど気づいたら生活の中に溶け込んでいるような、そういううつわであれたら嬉しいと思っています。
 
※1月22日まで「うつわ楓」にて「佐藤もも子 磁器のうつわ展 -studio fujinoさんの木皿を添えて-」を開催中です。
 
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今日のうつわ用語【数もの・かずもの】
お皿、湯のみ、飯碗など、同じ形、大きさに揃えて作る焼物のことをいう。日本で初めて磁器が焼かれた佐賀県の有田町や隣町の長崎県波佐見町では、いまでも職人による大量生産の数ものの磁器が多く作られている。

ふんわりとした膨らみが愛らしく容量もたっぷりのポット¥16,200/うつわ楓

お皿と絵柄をコーディネートして使いたいスープカップ¥4,104/うつわ楓

染付のピッチャーは花器としても活躍。¥5,940/うつわ楓

オーバルボウルは絵付けがあることで和にも洋にも重宝。楕円鉢¥5,940/うつわ楓

野に咲く花をうつわに咲かせて。六寸深皿¥4,860/うつわ楓

オーバルの小皿は料理にもお菓子にも使い勝手抜群。楕円皿¥2,700/うつわ楓

【PROFILE】
佐藤もも子/MOMOKO SATO
工房:福岡県筑紫郡那珂川町
素材:磁器(天草土)
経歴:1985年大阪生まれ。大学でデザインを学び就職したのち、 佐賀県立有田窯業大学校などを経て、唐津の岡晋吾氏(天平窯)に師事。2015年福岡県那珂川町に工房を構える。
http://momoco-craft.com

うつわ楓
東京都港区南青山3-5-5
Tel. 03-3402-8110
営業時間:12時〜19時
定休日:火、祝日
http://utsuwa-kaede.com
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

「佐藤もも子 磁器のうつわ展 -studio fujinoさんの木皿を添えて-」開催中
会期:2018年1/17(水)〜1/22(月)
会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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