うつわディクショナリー#26 焼物のやさしさに触れる池田優子さんのうつわ

焼物のやさしさに気づかせる有機的なフォルム

作家の手の動きに導かれてろくろの上でかたちを与えられる焼物。
その成り立ちは、人の身体に、心に、とても近く、やさしい。
池田優子さんの作品は、そんなことを実感させる美しいうつわです。
 
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—今回の個展は、白が中心のやさしい世界ですね。
池田:春の始まりなので、静かでやさしい気持ちになれるような白をと思いました。白といってもいろいろあって、異なるふたつの白の釉薬を掛け分けたり、砂のような質感を出したりと表情を変えることを楽しみました。
 
—作品のインスピレーションはどこから?
池田:海から、が多いかな。夫と息子がサーフィンをするので、ほぼ毎週末、どこかの海に出かけています。私はふたりを見守りながら海辺でゆっくり時間を過ごすんですけど、ただ休むのではなく、“アグレッシブにぼんやり”するイメージです。体はそれほど動かさないけれど、彼らが海の中で得るのと同じくらい、自然から何かをもらって帰りたいと思うから、変わりゆく景色を心に刻んだり、落ちている貝殻や石の中に美しいものを見つけたり。
 
—それを聞いて、作品が有機的なフォルムや色をたたえる理由が分かる気がしました。
池田:いままでに見た景色をうつわに表現したいという気持ちは強いかもしれません。もともとグラフィックデザインを学んでいたので、かたちや色に対する思い入れは深いですね。型物もやりますが、手と身体の動きがかたちに出るろくろものがとても好きなんです。
 
—手と身体の動きがかたちに出るとは、どういう感覚なんでしょう。
池田:実は、陶芸はまったくの独学です。父が趣味で始めたのに影響を受けて一緒にやるようになったら、私のほうがのめり込んでしまって。手探りで自分に心地いいやり方を見つけていったのですが、私は、比較的柔らかめの土を使って、ろくろですぅーとひくのが気持ちいい。言葉で表すなら「すぅーとひいて、ふぁーんと仕上げる」。そんな感じなんです。
 
—鉢ものの自然なたわみは、そこから生まれるのですね。
池田:特に口づくりは、最後に土から手を離す時のフォルムを大事にしたいと思っています。こうしたいというところに持っていくよりも、「このくらいがいい」と手と身体が感じ取った動きに委ねるというか。
 
—偶然を大事にするということですか?
池田:陶芸というより絵画を描いているようなイメージかもしれません。かたちが決まって釉薬をかけるときも、筆を使って掛け分けたり、ランダムに色をのせたり。あまり決めこみすぎずに進めていきます。陶芸もグラフィックもデザインも、料理や掃除といった毎日の生活もすべて、手を動かすことというひとつの線で繋がっていて、そこからものが生まれていくから、仕事をしているという意識もないくらい、手を動かすことは自然なことになっています。そうやってものを作り、暮らしていけることがとても嬉しいんです。
 
—作るときは、料理を意識しますか?
池田:以前は、料理の邪魔をしないうつわをと考えていましたけど、いまは、使ってくれる方々がどんなボールでも受け止めてくれる。インスタグラムなどを見ても、とても上手に、クリエイティブに使ってくださるので、私自身はのせる料理のことはあまり気にせず、自由に作るようになりました。
 
—どんなものを作りたいと思っていますか?
自分が他の作家さんのうつわに感じるように、ものの向こう側に人がいることを感じてもらえるものを作っていきたいと思っています。
 
※2018年3月29日まで「スパイラルマーケット」にて「池田優子 陶展」を開催中です。
 
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今日のうつわ用語【轆轤・ろくろ】
人力や動力によって回転する円盤の上に粘土を置きひき伸ばして成形するための機械。
【PROFILE】
池田優子/YUKO IKEDA
工房:大阪府大阪市
素材:陶器+磁器、半磁器+磁器
経歴:アメリカでグラフィックデザインを学び、帰国後、父親の趣味の影響で独学で陶芸を始める。カフェで使ってもらったり、アトリエショップを開くなど作品を手渡す場所を持ったことをきっかけに作家活動をスタート。 http://optimistic-net.com/


スパイラルマーケット
東京都港区南青山5-6-23
Tel. 03-3498-5792
営業時間:11時〜20時
定休日:不定休
http://spiralmarket.jp
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『池田優子 陶展』開催中
会期:2018年3/16(金)〜3/29(木)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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