うつわディクショナリー

うつわディクショナリー#64  沖縄の木と暮らす愉しみ、藤本健さんのうつわ

うつわディクショナリー

沖縄の木を暮らしの中に

木工家の藤本健さんは、沖縄在住。沖縄の木というと熱帯地方ならではのうっそうとした森や、度重なる台風から人々を守る防風林を想像させるが、藤本さんが使うのもこの土地の暮らしの身近にあるそういう樹木たち。手触りはやさしく、料理を盛り付けると大らか。オブジェとして視覚的に心を満たしてくれるものもあって。南国生まれのうつわが与えてくれるもの、奥深いです。
 
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—藤本さんは、なぜ沖縄で木工をするようになったのですか?
藤本:僕は、もともと、東京の木工所で家具を作っていたんですが、妻が仕事で沖縄に転勤するという話が持ち上がって。それはいい機会かもと。木のものづくりの知識はひととおり身につけていたので、沖縄で独立するのもいいなと思い移住を決めました。最初の数年は宜野湾市に暮らし、その後、南の南城市に移って、家、工房、ギャラリーと作る環境をととのえていきました。
 
—「芭蕉の家」という宿も経営していらっしゃるんですよね。
藤本:一棟貸しの宿で、建物は僕が建て、運営は妻がしています。僕のうつわも含め近隣の陶芸家のうつわを揃えているので、宿泊される方ご自身で料理をしたり、買って来たものを盛り付けたりして楽しんでいただけると思います。
 
—藤本さんのお皿や鉢などで食事ができるとは!地元の食材を使った料理もきっと映えますね。家具から転じて、なぜうつわを作るようになったのですか?
藤本:木工には、大きく分けて、箱物(はこもの)と脚物(あしもの)があります。箱物とは、文字通り、テーブルや棚など箱型の家具のこと。脚物とは、湾曲したイスの脚やうつわなど、木工旋盤というろくろを使って丸く削り出すものを指すんですが、高速の機械を操ってかたちづくることから木工界の専門職というイメージがあって。以前から憧れていたんです。
 
—その憧れを現実に?
藤本:家具づくりのかたわら、機械や設備をととのえて、まずはお椀くらいのサイズの小さいものから挑戦してみました。ぐるぐると回転するろくろ(旋盤)からリアルタイムでかたちが出来上がっていくことがすごく新鮮で。デザインから図面を起こして、木材を加工して、と段階を追う家具の作り方とは全く違うから、わくわくしました。
 
—うつわに用いるのもおもに沖縄の木。樹種も関東ではあまり聞いたことがないものですね。
藤本:今回の個展では、アカギの木が中心。他に、ガジュマルやホルトノキ、漆塗りのシリーズがあります。アカギは、沖縄や奄美諸島に多く海外でも熱帯地域に生育しますが、硬くてクセが強いことから家具や建築物の用材に使われることはほとんどないんです。ガジュマルは気根と呼ばれる部分が複雑に絡みあう見た目にもちょっと激しい木。沖縄では、どちらも防風林や街路樹、庭木として植えたり、自生していることが多い樹木になります。
 
—東京だと、いちょうやけやきといったところでしょうか。人が生活する場所に身近な木が、沖縄ではアカギやガジュマルなんですね。
藤本:とても身近だけれど、市場に出回っていない分、加工されたかたちで目にすることの少ない樹種ともいえますね。宅地造成のために伐採されたり、街路樹として剪定されたり、ダメージがあって倒れてしまったりした後は、使い道のない木でもあるんです。僕自身、木工旋盤が面白くなってお椀以上の大きさのものを作りたくなった時に、大きな木の塊が必要になったんですが、製材店に並ぶのはおもに一定の厚さの加工された板でした。そんな時、アカギやガジュマルだったら製材する前の「塊」の状態で手に入るのではないかと気が付いて。うつわづくりにいかしたいと考えるようになりました。
 
—アカギのうつわは、木目がなめらかでやさしい印象です。独特の曲線は、伐採されて間もない生木(なまき)のまま削ることで生まれるそうですね。
藤本:木は生きるために呼吸をし成長に必要な水を蓄えます。伐採や倒木の直後は、まだ水分が多い生木と呼ばれる状態なので、かたちを削りだして置いておくと、水分が蒸発するのにともない、早い時には2日後から、遅くとも1〜2週間で、木が自ら動くんです。その時に生まれるゆがみが生命力にあふれていていいなと思ったのがきっかけで、この作り方になりました。
 
—その木がどのように動くのか、作る前に予想はできるんですか?
藤本:なんらかの理由で僕の手元に届いた木の塊が、かつてはどの向きで生えていて、どう伸びていたのかを想像するところからうつわづくりが始まります。木は、年輪の中心や節のある部分が他よりも硬いですから、そこに柔らかい部分が引っ張られていくという性質があるので、ある程度は予想できますが、鉢物なのに外側に大きくそってしまうものもあれば、綺麗なかたちを保つものもあって。何年やっても意外な動きが起こるのが面白いです。
 
—そうした意外な動きを受け止めてうつわに仕上げてしまう藤本さんがいるから、市場に出回らない木が、暮らしの役にたつものとしてかたちをとどめ、人のもとに届くんですね。
藤本:沖縄に来て、暮らしを築いていこうとするなかで自然とそういうものづくりになっていきました。出来上がるものは、一見、個性的なかたちのものが多いかもしれませんが、僕が大切にしているのは、目の前にある木に対して、できるかぎり素直に取り組むということです。手に入る木は、かたちも大きさも、ダメージの具合も千差万別です。その塊から、最大限、削り出せるものは何かと考えると、作るものはおのずと決まってくる。それを受け入れて素直に、削る箇所はできるだけ少なく。ひとつの塊からできるだけ大きいものを削り出し、生活に役に立つものに変えていけたらいいですね。
 
—今回の個展のタイトルに「木の鳴る方へ」にあるように、まさに木の声を聞いて作るんですね。どんなものを作りたいと思っていますか?
藤本:いつか、藤本健が作ったということも分からなくなるくらい使い込まれて、次の代に受け継がれて、誰かに売られたりもして。それでも「なんかいいね」って古道具屋の店先に並んで手にとってもらえるようなもの、理想ですね。
 
※2019年12月23日まで「雨晴」にて、藤本健『木の鳴る方へ』を開催中です。
 
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今日のうつわ語【アカギの木・あかぎのき】
沖縄諸島、奄美大島、先島諸島、小笠原諸島などでは比較的ポピュラーな樹木だが、北海道や本州、四国、九州には生育していない。海外では中国の南部や台湾、オーストラリア、東南アジアに分布。やや硬い。色むらが少なく木目もあまり目立たず、全体に赤みがかった褐色をしている。
【PROFILE】
藤本健/KEN FUJIMOTO
工房:沖縄県南城市
素材:木(アカギ、ガジュマル、ホルトノキ、ヒバなど)
経歴:東京の木工所で働いたのち2002年に沖縄に移住。オーダー家具制作のかたわら、2011年ごろから木工旋盤による木のうつわ作りを始める。その後、南城市に移り工房をスタート。2012年にはギャラリーもオープン。一棟貸しの宿「芭蕉の家」も営む。1971年愛知県生まれ。

雨晴
東京都港区白金5-5-2
Tel. 03-3280-0766
営業時間:11時〜19時
定休日:水曜
https://www.amahare.jp/
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

「藤本健『木の鳴る方へ』」開催中
会期:2019年12/14(土)〜2019年12/23(月)
※定休日:水曜日

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

衣奈彩子

ライター、エディター

「フィガロジャポン」編集部を経て独立。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らしにまつわる記事を執筆。うつわと食を愉しむ提案をするUTSU-WA?主宰。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス刊)、『料理好きのうつわと片づけ』(河出書房新社刊)。編集した書籍に『どっちつかずのものつくり』(安藤雅信著・河出書房新社刊)。http://enasaiko.com

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