パリの川村さんちの朝ごはん

伝統料理グラタン・ドフィノワをアレンジ、カブのミルクグラタン。

私はオーブンを2つ持っている。
一つは、料理学校に入学してすぐに、卒業を控えた先輩から譲り受けた。
もう一つは、近所に住んでいた同級生が帰国するときに、「自分と同じくらい大切に使ってくれる人に使い続けて欲しい」と譲ってくれた。こちらの方が大型だ。
どちらも電子レンジ機能は付いていない。
先輩から譲り受けたのは1999年の冬で、その先輩がその前に1年は使っていたはずだから、少なくともすでに23年現役だ。コンパクトなサイズで、丸鶏がギリギリ入るくらい。お菓子を焼くには、マドレーヌやフィナンシエ、20cmの型までなら問題ないけれど、26cmのタルト型は入らない。でも、オーブントースターが少し大きくなったくらいのこのオーブンが、すこぶる使い勝手が良く、頻繁に使っている。
これで焼くのは、朝ごはんのパンをトーストするのと、あとはもっぱら野菜だ。

温かい野菜の一皿で簡単な朝ごはんにしたいときに、ポタージュを作るとなるとブレンダーが音を立てるから、朝早いとためらうけれど、オーブンだったらその心配はない。
ポタージュにしたくなる野菜はたいていグラタンにしてもおいしいから、その時の気分で作りたい方にしよう、と思いながら材料を選ぶ。

カリフラワーのグラタンにしようかなぁ、房が大きかったらポタージュにもすればいいや、と思ってマルシェに行ったら、この朝はグリーンのカリフラワーしかなかった。
それでもよかったのだけれど、なぜだか、グリーンの気分じゃなかった。
冬野菜の並ぶ生産者さんのスタンドは、夏とは違った彩が鮮やかだ。
「今日はなんだか白の気分だなぁ」
そう思って、ポロ葱とカブと迷った結果、カブとパセリの根のグラタンにしようと決めた。

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フランスの伝統料理に、グラタン・ドフィノワと呼ばれるジャガイモのグラタンがある。
グラタン皿に、ニンニクをこすり付けて香りをつけ、バターを塗り、薄切りにしたジャガイモを並べ、重ねる。そこに、牛乳と生クリームを流し込み、塩コショウ、ナツメグで味付けして、オーブンで焼いたものだ。
チーズがかかっていることもあるけれど、何かのメイン料理の付け合わせに用意される場合には、チーズ無しの場合がほとんどだと思う。

私はフランスに行くまで、グラタンというのはホワイトソースを使ったものだと思っていた。でもそれだと一つ腑に落ちないものがあった。オニオングラタンスープだ。
実際はというと、パン粉やチーズを振りかけてオーブンで焼き目をつけたらそれはグラタン。フランス語には、名詞の“グラタン”だけじゃなく、グラティネという動詞(gratiner)も形容詞(gratiné, gratinée)もあって、グラティネする、グラティネした、のように使う。
それを知ったときに、オニオングラタンスープに初めて納得が行った。

グラタン・ドフィノワは白いし、ホワイトソースを流し込んでいるようだけれど、ソースに小麦粉は加えない。ジャガイモで自然にとろみがつく。

私はこれを、ちょっとアレンジして他の野菜でも作る。夜なら良いとしても、朝やお昼にニンニクの香りがするのは避けたくて、ニンニクも省く。
そしてオーブンで始めから火を通すと結構な時間を要するから、私は、まず鍋で野菜を煮てから、オーブンで焼く。

この朝は、
1. まずカブとパセリの根を薄切りにし、鍋に入れ、野菜が被る程度の牛乳を注いで、火にかけ、
2. ナイフを刺してすっと通るくらいまで煮えたら、塩コショウで味付け。この朝は塩の代わりに塩漬けケッパーを加え、白コショウを挽いた。
3. 煮汁ごとグラタン皿に移し替えて、バターをほんの少しに、グリュイエールチーズとエメンタールチーズを表面に散らし、
4. あらかじめ200度に温めておいたオーブンへ。焼き色がついたら出来上がり。
焼き時間は15分弱。

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牛乳と生クリームを合わせるものも、生クリームだけで作るレシピもあるけれど、私は牛乳だけだったり、生クリームを水で薄めたり、のことが多い。で、表面に、チーズをふりかける。牛乳と生クリームとチーズは、さすがの私もやっぱりちょっと重たい気がするのだ。
逆に、チーズがないときには、牛乳と生クリームを合わせて作る。

パセリの根は火を通すと、どこか妖艶な甘い香りを漂わすのだけれど、ミルクで煮るとそれが増すように思う。
カブも甘みが溶け出し、とても優しい味わいのグラタンになる。
パセリの根の代わりにはゴボウか、パースニップ、もしくはセルリアック(根セロリ)も良いかもしれない。
これ、タラコ、入れてもおいしいしいですよ。

焼いている間に、フェンネルとチャービルのサラダを作った。
これは、オリーヴオイルとフルール・ド・セルで和えて、レモンを少し絞っただけ。

●今日の朝ごはん
・カブとパセリの根のミルクグラタン
(グリュイエールチーズ、エメンタールチーズ、有塩バター、塩漬けケッパー、白コショウ)
・フェンネルとチャービルのサラダ
(オリーブオイル、フルール・ド・セル、レモン)
Ten Belles Breadの全粒粉パン
・コーヒー

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パリの川村さんちの朝ごはん一覧

川村明子

文筆家
1998年3月渡仏。ル・コルドン・ブルー・パリにて料理・製菓コースを修了。
朝の光とマルシェ、日々の街歩きに日曜のジョギングetc、日常生活の一場面を切り取り、食と暮らしをテーマに執筆活動を行う。近著は『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス刊)。


Instagram: @mlleakikonotepodcast「今日のおいしい」 、Twitter:@kawamurakikoも随時更新中。
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