ランゲージアーツ、言葉を用いて伝える力を育もう。

Lifestyle 2021.11.14

From Newsweek Japan

文/船津徹(TLC for Kids代表)

日本の国語の授業では、自分の考えを「言葉を用いて伝える方法」を教わることはほとんどありません。頭の中に漠然と存在する思考を言語化し、論理的に組み立て、相手が理解できるように言葉で表現するために、「話す」や「発表する」を包括したランゲージアーツの学習形態からヒントを探りましょう。

アメリカの子どもたちは小学校に上がるとランゲージアーツ(Language Arts)と呼ばれる授業を受けます。ランゲージアーツは日本の「国語」に該当する教科なのですが、なぜか「English/英語」とは呼ばないのです。

「Art」は日本語で「芸術」と訳されることが多いですが、語源は「熟練した技」という意味です。つまりランゲージアーツは「言葉の技術」を育てるための教科です。子どもたちは「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能に加えて「見る」「発表する」の6領域について系統的に学習します。

日本の国語の授業では、「話す」や「発表する」など、自分の考えを「言葉を用いて伝える方法」を教わることはほとんどありません。そのため「話す力」や「表現する力」が十分に身につかず、人前で話したり、初対面の人と打ち解けることに苦手意識を持つ子どもが(大人も)が少なくありません。

どうしたら自分のメッセージをうまく伝えられるのか?その答えがランゲージアーツです。頭の中に漠然と存在する思考を言語化し、論理的に組み立て、相手が理解できるように言葉で表現する。この一連のプロセスを訓練するのがランゲージアーツの目的です。
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多様性の高い社会では「言葉」が重要。

アメリカは多文化、多人種、多言語が混在する多様性の高い社会です。異なる言葉や文化背景を持つ人たちがスムーズに意思疎通し、相互理解を深めるためには、相手に分かりやすく、かつ、嫌悪感を抱かせないように「上手に言葉で伝える技術」が要求されます。

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photo: iStock

英語がシンプルで直接的な表現を好むのは、自分の主義主張を押し通すためではなく「ミスコミュニケーションを減らすため」です。誰が、誰に、何を伝えたいのか、日頃から自分の考えを「明確な言葉に変換する」訓練をしておかないと、アメリカ社会では誤解を招き、トラブルを引き起こす原因となってしまいます。

アメリカの「言葉」を重視したコミュニケーションと対称的なのが、日本の「非言語」に比重を置くコミュニケーションスタイルです。日本では「以心伝心」や「空気を読む」など、相手に察しを期待したり、言葉を遠回しにしてあいまいにする表現が通用します。日本人にとっては当たり前ですが、国際社会では言葉を明確にしないと相手に正しく理解してもらえない場面が多くなります。

私はアメリカで学習塾を経営していますが、概して日本人の子どもは「言葉で伝える」ことが苦手です。現地校に通い始めた日本人の子どもが最初にぶつかる壁が、この日米の表現方法の違いに適応することです。

YES・NOをはっきり言う、自分の主張を明確にする、主張の根拠を説明するなど、アメリカの学校では常に自分の考えを「言葉で伝える」ことが求められます。これにうまく対応できないと「やる気がない」「理解できていない」「参加していない」など、先生からあらゆる悪い評価を受けてしまうのです。

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親子の対話に「問い」を増やす。

アメリカのランゲージアーツの授業では、生徒ひとり一人が自分の考えを明確な言葉に変換し、筋道を立てて分かりやすく伝え、議論や討論に参加することが要求されます。ところが日本人の子どもは、英語力に問題がなくても、発言をためらう傾向があるのです。

もちろん日本人の子どもであっても意見や自己主張を持っています。ただそれを「言葉で伝える」経験が足りないのです。私は米国流の個人主義を叩き込めと言っているのではありません。日本人的な、周囲に配慮した控えめな自己表現スタイルを維持しつつ、必要な場面ではしっかりと「言葉で伝える力」を持ち合わせることが重要という意味です。

子どもの「言葉で伝える力」を強化する簡単な方法が、親子の会話に「問い」を増やすことです。「どうしたらコロナウィルスから身を守れると思う?」と子どもに問いかければ、子どもは「手を洗う」「マスクをする」と答えます。これに対して「何で手を洗うと感染しないの?」「何でマスクをすると感染しないの?」と、さらに「問い」を重ねていくのです。

親が「問い」を増やすことで、子どもは自分の考えを言語化し、言葉を組み立て伝える練習を積むことができます。ただあまりしつこく問い詰めると子どもが逃げていきますので注意してください。子どもとの雑談の中でごく自然に「どうして?」「何で?」と質問するように意識してください。
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国語力を高めると地頭が強くなる。

よく「地頭が大切だ」という話を聞きますが、「地頭」とは何なのでしょうか?生まれつきの才能なのでしょうか?それとも後天的に身につける力でしょうか?

日米で教育に関わってきた私の経験から申し上げますと、地頭が良い子どもは新しい知識を早く身につけることができます。見聞きしたことを理解して、自分の中に落とし込む力が高く、さらに得た知識を再現したり、他のことに応用する力を持ち合わせています。

そう考えていくと「地頭がいい人」というのは「言葉の力が強い人」と言えるのではないでしょうか。常に言葉のアンテナを張り巡らせ、言葉をキャッチする能力が高ければ、周囲の人との対話や情報メディアを通して、新たな知識を獲得していくことができます。

また、地頭が良い人に共通する「問題解決能力の高さ」も言葉の力と関連しています。言葉(情報)を正しく理解し、言葉の本質を見極める力が備わっていれば、学校の勉強やテストでミスが少なくなることもちろん、日常生活のあらゆる場面において賢い判断ができるようになります。

ランゲージアーツは、言葉の力を強固にし、コミュニケーション力を高め、知的活動をサポートし、問題解決力を育成してくれます。何よりも言葉で伝える力が向上すると「よい人間関係」が構築できますから、子どもの生活が楽しく、豊かになるのです。

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世界標準の「日本語教育」が必要となる。

最近は日本で暮らす外国人が増えてきました。都市部だけでなく地方の学校にも外国人が在籍することが当たり前になりつつあります。日本社会が国際化しているのですから、変化に合わせて「国語教育」も変わる時期に差しかかっているのではないでしょうか。

これまでの日本の国語教育は、日本語を母国語とする日本人を対象にカリキュラムが作られてきました。そのため日本語の会話や読み書きが未熟な外国人にとって難易度が高く、多くの外国人の子どもたちが授業についていくために必要な日本語力を習得できず、学力不振に陥り、苦労しています。

この問題を解決するには世界標準の言語指導法であるランゲージアーツを国語教育に取り入れることが近道だと私は考えています。ランゲージアーツは、言葉の技能を細分化し、まるで算数を学ぶように、簡単なものから段階的に難易度を上げていきますので、日本語力が弱い外国人にとっても極めて有効です。

「言葉の運用能力を高める」ことに焦点を当て、子どもたちが自分の言葉で、自分の思いを伝える力を育成する。ランゲージアーツを指導することで、多様な人たちと信頼関係を構築する力が養われ、世界の舞台で活躍できるたくましい人材育成につながっていくことが期待できます。

船津徹

TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

 

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