フランス人の自信の秘密は「性教育」にあった!? 

Lifestyle 2021.11.30

From Newsweek Japan

文/西川彩奈(フランス在住ジャーナリスト)

フランス人は、なぜ自信がある人が多いのか......? その疑問の答えを求め、「愛」と「尊敬」を教えるフランス性教育の現場へフランス在住記ジャーナリストが潜入した。

01-211129-sex-education-of-french.jpg性行為=「思いやり」と認識をし、心身ともにコミュニケーション力を磨くべき。 photo: eclipse_images-iStock

フランスで生活をしていると、多くのフランス人は自分、そして他者を尊重することが上手だと感じる。そして、それこそが彼らを「自信」があるように見せているようだ。どのようにしたら、そんなふうに自分も他者をも愛することができるのか? あるフランス人女性に訊いてみたところ、その秘密は「セックス」にあると、こっそり耳元で教えてくれた。

さっそく気になって調べたところ、フランスの性教育では「愛と尊敬」を学ぶという。一体どんな授業なのか。その真相を確かめるため、パリの高校で行われた性教育の授業を受け、フランス人の家庭の性教育事情を調査した。

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パリの高校の「性教育」授業に参加。

ある雪の降る11月下旬の朝、パリの住宅地にある高校を訪れた。

2限目の鐘が鳴ると女子生徒たちが教室に集まり、テーブルを囲んで円形に座る。集まった11人の学生は、15~16歳の女子生徒たち。まるでパリ社会の縮図のように、アラブ系、アフリカ系、インド系、アジア系の学生がバランスよく混ざっている。授業が始まると、友達同士でウケを狙った発言をしたり、下を向いて寝るふりをしたり、生徒たちからはこれから始まる「性教育」を受けることへの、照れや戸惑いが伝わってくる。

この2時間の性教育では、身体の仕組み、避妊の方法、LGBTQ(性的少数派)への理解、カップル間の関係の築き方から、ポルノグラフィーやマスターベーションまで総括的な内容をカバーする。

授業中の約束ごとは、「みんなひとりひとり意見が違うから尊重すること、クラス内で話したことは外では内緒にすること」だ。

授業を担当するのは、家族計画センター(プラニング・ファミリアル)から派遣されたクリスティ―ヌ・エリチエ。ゆったりと構え、安心して話せるお姉さんタイプだ。

02-211129-sex-education-of-french.jpgパリ市内の学校で性教育を行うクリスティーヌ・エリチエ 。photo: Ayana Nishikawa

クリスティーヌは早速、避妊の説明から始める。実際のピルを見せるため時計回りに渡し、生徒に避妊法について質問すると、あちこちから「コンドーム、ピル、避妊パッチ、IUD(子宮内避妊器具)」と名称が飛び出す。ある生徒は「緊急避妊用ピルは、できるだけ早く摂取するべきなのよ」と得意げな様子で語った。

そのあと、説明は女性の身体の構造へと進む。子宮、卵巣のイラストが見せられたあと、クリスティ―ヌが取り出したイラストは、「クリトリス」を説明した図だ。生徒たちは知らなかったようで、きょとんとしている。クリスティ―ヌが「女性の身体で、一番刺激に敏感な部位なのよ」と、優しく丁寧に説明すると、ある生徒が「じゃあ、オーガズムを感じるところ?」と興味を持って問いかけた。

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家族計画センターで配布されている、思春期の男女に向けた「初体験」ガイドや性に関する冊子(Photo: Ayana Nishikawa)

次にクリスティーヌは、「なぜ性行為をするのか?」という質問を投げかける。生徒たちからは「快感のため」、「子どもを作るため」、「カップルの関係を維持するために必要不可欠な行為だから」とめいめいの答えが返ってくる。ひとりの生徒が「スポーツのため」と冗談半分に答えると、意外にもクリスティーヌは「いい答えよ」と褒めた。

「思いっきりスポーツをして汗をかいたあとは、幸せな気持ちになるよね? 愛する人との性行為も、その面では同じ感情をくれるのよ」

そんな幸せを感じるためには、お互いの「同意」がなくてはいけないと同氏は続ける。「カップル間のセックスは強制ではないの。それは、ダンスのようなもの。ある時一方がしたいと思っても、もう一方がしたくない時もある」

「大切なのは、自分の意思をはっきりと伝えること、そして相手の想いを理解しようとする心。女子が『Yes(はい)』か『No(いいえ)』をはっきりと言わないと、男子は『Yes』と捉えてしまうのよ」

生徒たちは納得したかのように、静かにクリスティーヌの話に耳を傾ける。

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「マスターベーションは悪いこと?」

授業も中盤に差し掛かった。生徒たちもすっかり心を開き、踏み込んだ質問や議論がクラス中に飛び交う。まるで女子会のような雰囲気だ。

「マスターベーションって、悪いこと?」
「ポルノ女優のように、陰毛は脱毛するべき?」

クリスティーヌも「敬意」と「愛」をこめて、真っすぐ生徒の目を見つめて丁寧に答える。まず、「陰毛の処理」についてだ。ある生徒が言う。「ポルノでは、たいてい女性が陰毛をキレイに脱毛しているわ。男子はポルノで見たことと実際のでき事が異なると、焦ってしまうのよ」。すると、ほかの生徒が「陰毛の脱毛は、相手への敬意の象徴よ。処理をしないと失礼だわ」と意見を述べる。

クリスティーヌは優しく答える。「脱毛をするのが当たり前ではないのよ。嫌ならばしなくてもいい。大事なのは、自分がしたいからするということ。ポルノで見た女性をマネする必要はないわ」

生徒の質問がオーラルセックスにまで進むと、クリスティーヌは「それは、大好きな人と一緒に、自分自身・相手の身体について発見をしていく行為。ポルノのように"絶対的"な工程ではないわ」と優しく教える。

では、マスターベーションはどうか。生徒たちからは、「ヤダ―!」と恥ずかしそうな反応が見られたが、クリスティーヌは真剣に話を続ける。

「マスターベーションは、身体の一部を触ること。みんな、自分の爪、耳を触るでしょう? 自分に快感を与えることに、『変』だなんて思わなくてもいい。癖になる必要はないけど、決して悪いことではないのよ」。

クリスチャンによると、性教育には「実践的な性行為」と、「セクシャリテ」という角度があるという。前者は、前戯やオーラルセックスなど性行為における実用的な内容。セクシャリテは、自分自身、他者との関係の築き方を学び、自信や人間性を磨いていくことだという。

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性教育は1年に3回の必須科目。

フランスの学校で性教育が始まったのは1973年に遡る。しかし当時は選択科目で、「避妊と性病」にフォーカスした内容だった。だが、2001年に教育法に導入された現在の性教育では、1年に3回の必須科目となった。8歳頃から身体の発達や子どもができる仕組みなどを学び始め、中学で避妊などを教える。

性教育は医師やプランニング・ファミリアル(家族計画センター)の職員が講師として学校を訪問し行われる。家族計画センターとは、避妊、DV、強制結婚、性的嫌がらせなどの相談を受けることのできる「女性にとって心強い」非営利組織だ。前述のクリスティーヌは日々、センターに訪れる女性に助言をし、パリ市内の学校を訪問して性の指導を行っている。

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家族計画センター内で配布されている、10代の男女向けの性教育冊子。男性・女性向けコンドームの丁寧な装着方法や、身体の仕組み、性行為にまつわるコミュニケーション方法が分かりやすく書かれている。photo: Ayana Nishikawa

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家庭内での性教育。

学校が踏み込んだ内容を教える一方で、家庭では子どもへの「性」の説明に頭を抱える親も少なくない。そんな両親のために、家族カトリック協会(アソシアシオン・ファミーユ・カトリック)のサイトでは、7歳~11歳の子どもと両親に向け、性に関する説明の講座を短編ビデオにまとめている。たとえば、「どうやって赤ちゃんはできるの?」という章がある。

子どもが両親に「どうしたら赤ちゃんはできるの?」と聞くと、両親は戸惑いながらも、「子どもができる瞬間は、心身ともに親密な状態で重なり合うこと」「パパのペニスがママのヴァギナに挿入する」とシンプルな言葉で明確に説明している。子どもが納得するまで真正面から向き合っている印象だ。

パリ近郊在住の記者の周囲の両親たちは、「学校と手を取り合って、子どもに性教育をする」というスタンスが大半だった。つまり、学校が「性」の詳しい知識を教え、家庭が愛のお手本となる。

9歳の娘をもつ母親シャルロットは、「愛は、小さな頃から自然に家庭を通して学ぶもの」と語る。「いま、娘は身体の変化について興味津々。今後セックスについては、愛する人と性行為する大切さを教えるつもり。娘のガイド役になりたいと思っているわ」

一方、17歳の娘を持つ父親ジェロームは、こう語る。

「僕が娘を2歳まで世話をしていたし、一緒に音楽演奏活動もしている仲だから、娘との間には深い絆と信頼関係がある。だから、彼女の私生活に踏み込んだりせず、距離を尊重したい。性教育は娘に居心地悪い思いをさせない程度に、『避妊』の大切さを伝えるだけだ。娘には、そんな『信頼関係』を愛する人と築いていってほしい」

思春期の子どもが学校で避妊と性病のみを学び、ポルノから性行為の仕方を学ぶ―――。それでは性のコミュニケーション力不足になってしまい、将来カップル間の関係がマンネリ化するとセックスレスに陥ってしまう可能性もある。

思春期の段階で性行為=「思いやり」と認識をし、心身ともにコミュニケーション力を磨く。それが、フランスでセックスレス率が低く、高齢になっても性行為を続けるカップルが比較的多い理由のひとつかもしれない。

今回の取材を通し、このような性教育は「人間力」を形成するうえで、必要不可欠な教育かもしれないと感じた。

西川彩奈

フランス在住ジャーナリスト。1988年、大阪生まれ。2014年よりフランスを拠点に、欧州社会のレポートやインタビュー記事の執筆活動に携わる。過去には、アラブ首長国連邦とイタリアに在住した経験があり、中東、欧州の各地を旅して現地社会への知見を深めることが趣味。女性のキャリアなどについて、女性誌『コスモポリタン』などに寄稿。パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、ヨーロッパの難民問題に関する取材プロジェクトなども行う。日仏プレス協会(Association de Presse France-Japon)のメンバー。
Ayana.nishikawa@gmail.com

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text: Ayana Nishikawa

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