親の「赤ちゃん言葉」が、まさかの効果。

Lifestyle 2021.12.21

From Newsweek Japan

文/キャサリン・E・レイング(英カーディフ大学講師)

言語経験「初心者」の赤ちゃんにとって、独特の高低や繰り返しが大きな助けになる。普通の速さよりゆっくり話すことも大切だ。

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赤ちゃんを見ると自然と出てくる赤ちゃん言葉は、単語の把握や言語処理の助けに。 photo: iStock

英語などの書き言葉では、ひとつひとつの単語を区別するのはとても簡単。単語と単語の間はスペースで隔てられているからだ。でも、話し言葉となるとそうはいかない。話し言葉は音の流れであり、聞き手はその流れの中で単語を区別し、内容を理解する必要がある。

母語の単語になじんでいる大人にとっては、難しいことではないだろう。でも、言語経験「初心者」の赤ちゃんにとっては?赤ちゃんはどうやって言葉の流れの中から個々の単語を区別、つまり「分節化」し始めるのだろうか?

赤ちゃんの言語習得は、個々の単語ではなく、話し言葉の流れのリズムやイントネーションを聞き取るところから始まる。つまり、話し言葉の音節の中にある音程の高低やリズム、音の大きさの変化を聞き取るということだ。

親が赤ちゃんに話しかける時には、そうした特徴を大げさにした「赤ちゃん言葉」を使うことが多い。実は、これが幼児期の言語習得にはとても大切だ。言語習得のプロセスは、生まれる前から既に始まっている。胎児の耳が十分に発達する妊娠第3期には、母親の話す言葉のイントネーションのパターンが、子宮を通じて赤ちゃんに伝わっている。

これは、プールの中で人の話を聞くようなものと考えられている。個々の音を聞き分けるのは難しいが、リズムとイントネーションははっきり分かる。生まれる頃には、赤ちゃんは母親の話す言語を好むように。この段階ではすでに、イントネーションのパターンを通じて言語を特定さえできる。

たとえば、フランス語とロシア語の話者の場合、単語や、文の中で強調する部分がそれぞれ異なるため、このふたつの言語のリズムは違うものに聞こえる。生後4日の赤ちゃんでも、母語と別の言語とを区別することができる。つまり、新生児は既に、自分の周囲で話されている言語の習得を始める準備が整っているということだ。母親の話す言語に対する関心がすでにあり、その言語に関心を引かれることで、その中にある特徴やパターンをさらに学習する。

生後数カ月の赤ちゃんの言語発達にとっては、抑揚も極めて重要だ。

大人が赤ちゃんに話しかける時には、「赤ちゃん言葉」や「マザリーズ(母親語)」と呼ばれる特別な声音が使われる傾向がある。普段の話し言葉よりも高い音域で、抑揚の大きな、ゆっくりとした話し方になる。赤ちゃんが、通常の大人の話し方より、こうした「赤ちゃん言葉」のほうに好んで耳を傾けることは、研究で証明されている。

たとえば、母親が「ベイビー」という言葉を「歌うような」抑揚の大きい声音で話すと、単調な大人向けの声音よりも、赤ちゃんの注意が長く引き付けられる。また、言語の小さなまとまりが際立ち、赤ちゃんが拾い出しやすくなる。

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繰り返しや畳語が効果的。

さらに、赤ちゃん言葉では大事な単語が文の最後に出てくることが多い。たとえば、「ワンちゃんが骨を食べている」よりも、「見えるかな、あのワンちゃん?」のほうが好ましい。文の最後にあると、赤ちゃんが「ワンちゃん」という単語を覚えやすくなるからだ。

同じ理由から、文章中の単語よりも、はっきりと一語で独立して話した言葉は覚えやすい。研究によれば、赤ちゃんが話す最初の言葉は、初期に独立した一語として最も頻繁に聞いたものが多い。「バイバイ」や「ママ」などだ。

普通の速さよりもゆっくり話した時のほうが、赤ちゃんが単語を認識しやすくなることも分かっている。これは、個々の単語や音が明瞭に発話され、単語を拾い出しやすくなるからだ。また、赤ちゃんの言語処理のスピードは大人よりもはるかに遅いため、ゆっくり話すことで言葉を処理する時間が得られるとも考えられている。

赤ちゃんの初期の言語習得では、単語の繰り返しも効果を発揮する。赤ちゃんが最初に話す言葉は、「マミー」「ボトル」「ベイビー」など、親が頻繁に発する単語である傾向が強い。赤ちゃんが耳にする頻度が高いほど、話し言葉の流れの中から区別されやすくなり、その単語に関して抱くイメージもはっきりしたものになる。

その結果、よく耳にする単語のほうが、あまり失敗せずに発話できる可能性が高くなる。さらに、赤ちゃん言葉によく使われる畳語、つまり、「ワンワン」や「ニャーニャー」も、初期の単語習得に有利なようだ。新生児でさえ、繰り返しを含む単語を耳にした時には、より強い脳活性を示す。

これは、人間の言語処理にとって畳語に強力な利点がある可能性を示唆している。生後数カ月たった赤ちゃんも畳語のほうが簡単に覚えられることが、研究から明らかになっている。

赤ちゃん言葉は、社会的な面で赤ちゃんとやりとりするための手段というだけでなく、人生のごく初期から、言語習得に重要な役割を果たしている。赤ちゃん言葉の特徴は、周囲で話されている言語に関する情報を赤ちゃんに伝え、話し言葉の流れを小さなまとまりに分解しやすくしてくれるのだ。

赤ちゃん言葉は、赤ちゃんの言語習得を導く上で必須というわけではないが、そこで用いられている「音域の調節」や「繰り返し」、「ゆっくりした話し方」にはいずれも、赤ちゃんが母語のパターンを処理しやすくする効果がある。特殊な赤ちゃん言葉は一見、長い人生の言語能力には何の助けにもならないように思えるかもしれない。だが実際には、赤ちゃんの人生のごく初期から言語習得に最適な学びになることは、数多くの研究で実証されている。

Catherine E. Laing, Postdoctoral Associate, Duke University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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text: Catherine E.Laing(Cardiff University)

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