「環境に配慮した旅」が今年のトレンド? フランスの第一人者に聞く新時代の旅とは。
Lifestyle 2022.01.02
新型コロナ感染症によるパンデミックが契機となって、環境にも現地の人々にも配慮した観光への関心が再び高まっている。いま求められているのは、旅の回数は減らし、よりよい旅をすること。ラベル「レスポンシブル・ツーリズムのために行動する(Agir pour un tourisme responsable)」を考案した旅行業者協会ATRのディレクター、ジュリアン・ビュオに、その理由を解説してもらった。
写真はイメージ。photo: Getty Images
何ヶ月もの間移動の自由が制限されていたフランスだが、規制が緩和された去年の夏のバカンスシーズン、フランス人は再び旅をする喜びを味わった。しかし観光業が活気を取り戻しつつある一方で、地球温暖化への対応が緊急の課題となっているいま、業者にも旅行者にも、よりエコレスポンシブルな行動が求められている。「レスポンシブル・ツーリズムのために行動する」旅行業者協会ディレクターのジュリアン・ビュオに話を聞いた。
――最近よく耳にするレスポンシブル・ツーリズムとはどんなものですか?
ジュリアン・ビュオ あらゆる資源を保全しながら、観光業を成立させることです。観光が存続するには、風景や環境の質という点で、旅行先が魅力をもち続ける事が必要です。経済的そして社会的に、現地の人々が観光客を迎え入れ続けられることもまた、必要。つまり、現地の人たち自身が観光事業の発展に関与するだけでなく、その利益を得られることです。この先も旅行を続けられるように注意を払うことは、旅行者も含めてすべての当事者にとって有益なのです。観光が持続可能で、より多くの人にとってアクセス可能であり続けるために、責任のある行動が求められています。
――「持続可能な旅行」とは、旅行の回数を減らし、移動距離を短くし、快適さを優先しないということですか?
脱成長とは別に、私たちは「よりよい旅」という考え方を支持しています。持続可能な旅行とは、回数を減らし、移動距離や旅行期間を短くするという意味でもあります。でも、世界の裏側まで行ったって構いません。ただ、観光による環境負荷を最小限に抑え、顧客に非日常的な体験ができる旅を保証してくれるツアーオペレーターを選ぶ必要があります。二酸化炭素の影響をはじめ、ネガティブな影響は決してゼロにはなりませんが、こうした欠点は、たとえばカーボンニュートラルへの貢献と環境連帯プログラムへの出資などを通して補えるでしょう。経験の消費を競い合うのではなく、もう一度、旅を特別なものにしなければいけません。
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”レスポンシブル・ツーリズム=よりよいバカンス”
――消費者はこうした新しい旅の哲学を受け入れる準備ができているでしょうか?
2021年4月にフランス世論研究所が行なったフランス国民の持続可能ツーリズムに関する意識調査によると、調査に参加した人の80%が、観光による環境負荷を減らすことは観光業者が取り組むべき問題だと考えています。コロナ禍以後、自然保護がより重要な関心事となったと回答した人も61%に上ります。このことからも、パンデミックによって人々の意識が変わり、バカンスの過ごし方を見直すことが急務であるのは明らかです。2016年に私たちが7000人の顧客を対象に調査を行なったときすでに、この件に関する意識の成熟度はかなり高かった。大多数の顧客にとって、レスポンシブル・ツーリズムはよりよいバカンスであると認識されています。
”アイスランドの誓い”
――こうした観点からとりわけ有意義な行き先はありますか?
もちろんです。とくにアイスランドがいい例です。アイスランドではここ10年で観光産業が飛躍的に成長しましたが、5年前に「アイスランドの誓い」と呼ばれる興味深い取り組みを始めています。目的は、環境保護に関するいくつかの約束事について誓約を求めることによって、旅行者を啓発すること。その後、ニュージーランドやインドネシアのいくつかの島など、ほかの観光地にもこうした方向に転換したところがあります。
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――アフター・コロナの旅行の傾向は?
パンデミックで近場の旅行が見直されています。しかしこの傾向はコロナ禍による移動の制限によるものです。パンデミックによって消費者は自分の家の近くでも素晴らしい体験ができることに気づいたのです。観光業者である私たちは、この旅行先再編の波について、わりと慎重な見方をしています。とはいえ、将来、遠距離の旅が100%レスポンサブルで特別な経験となることを望むなら、この流れに逆らうことはできないでしょう。3年か5年に1度旅行をするだけでは人は満足しません。大旅行の合間に、近場の小旅行を楽しむ機会が必要になるでしょう。旅行会社が地域に根ざし、地域の発展に寄与する。それもレスポンシブル・ツーリズムです。
――あなたがディレクターを務めている旅行業者協会ATRでは「旅行者の倫理憲章」を提案しています。予想に反して、この取り決めは旅行者に対してそれほど厳しい内容ではありません。なぜですか?
自分の責任が限定的なものに見えたとしても、旅行者自身が、主に現地の人々や環境に対する行動を通して、取り組みに直接関わる当事者であることに変わりはありません。エコツーリズムの様々なラベルの情報を集めて宿泊施設を選ぶなど、旅行者自身がより主体性を持って取り組むこともできます。観光事業のプロのネットワークである私たちの協会ATRが最も厳しくコントロールしなければならないのは、ラベルに登録する会員に要求される仕様書の内容です。また、規制作りや観光地の開発は地方自治体の管理責任であることも忘れてはなりません。地方自治体は観光事業の規制において重要な役割を担っているのです。
text: Stéphanie O’Brien (madame.lefigaro.fr)