遺伝、生活習慣、訓練......子どもの運動能力を決めるのは?
Lifestyle 2022.01.08
文/岡田光津子(ライター)
0~5歳までで注目すべきは、神経型の曲線。日々の遊びの中から発達段階に合わせた身体の使い方を獲得することで将来的な運動能力もアップする。
幼少期には身体を動かす楽しさをたっぷり味わわせて。安全な場所なら裸足で遊ぶのもいい。 photo:KIEFERPIX-SHUTTERSTOCK
日々新しい動作を身に付けていくわが子。そんな姿を見るうちに「もしや未来のプロスポーツ選手?」などと期待する親は少なくない。
子どもの運動能力を決めるのは、遺伝なのか、生活習慣なのか、それとも日々の訓練なのだろうか。
人間というのは、実に巧妙に自分の身体をつくり上げていく。その指標のひとつになるのが、「スキャモンの発育曲線」だ。
済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科副部長の十河剛によると、0~5歳までで注目すべきは神経型の曲線。これを見ると0歳から発達し始め、5歳までに約80%、12歳までには100%が完成することが分かる。
つまり、0~5歳までの間にさまざまに身体を動かす体験をさせ、身体を上手に使う神経を発達させておけば、小学校入学前には動くことが楽しくなり、さらに運動をしたいという意欲にも繋がっていくというわけだ。
では0歳から身体を動かす体験は、どのようにさせたらよいのか。
十河によると、「寝返りを打てるようになりゴロンと転がったら、元の位置に戻してやり、もう一度ゴロンとしたら『よくできたね!』と褒めるなど、発育段階に合った動きに合わせて一緒に遊ぶなかで、全身の運動機能は発達する」。
また、お気に入りのおもちゃを顔の前で動かし、目でそれを追わせるという遊びも、視神経を発達させ、好奇心を高めることに役立つという。
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2012年に文部科学省が公表した幼児期運動指針には、「幼児はさまざまな遊びを中心に、毎日合計60分以上、楽しく身体を動かすことが大切」と記されており、十河もこれを推奨している。
もちろん、この60分間は親が付きっきりで見ている必要はない。この中には、保育園や幼稚園などで遊ぶ時間なども含まれているからだ。
東京学芸大学幼児教育学の吉田伊津美教授が大学院生たちと携わった研究によると、ついこの間までねんねの状態だった乳児でも、1~2歳児になるとしゃがむ、下りる、登る、押す、こぐ、引っ張る、振る、打つ、たたく、滑る、ぶら下がるなど、40種類もの動きをしているという。
「このような動きを通して、自分に対するイメージもつくり上げていく。特に乳幼児期は、運動行動を通じて、運動有能感 (運動の上達や成功体験から得られる自信)を育てている部分も大きく、健全な精神発達にも影響を与えている」と、吉田は言う。
乳幼児は「能力」と「努力」の概念がまだ区別できないため、できた・できない=能力が高い・低いと捉えず、自分が一生懸命やったからできたのだと捉える。
吉田によると、「この時に周囲から『頑張ったね』『よくできたね』など肯定的な言葉を掛けられることで、次も頑張ろうという意欲や粘り強さも育める」。
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裸足で遊ぶことの効果。
3歳以降になると、外遊びも楽しくなってくる頃だ。
子どもの運動教室「ウィンゲートキッズ」などを展開しながら、順天堂大学大学院博士課程において幼少期の体力測定の研究にも携わっている遠山健太によると、「3~5歳の間に十分に身体を動かして遊び、身体を動かす楽しさを覚えさせてからスポーツを始めると、その動きに入っていきやすくなる」という。
そこで、この時期に留意しておきたいのが、遊び場所の確保とサイズの合った靴選びだ。
遊び場所については、たとえひとつふたつの公園に行ってみて気に入らなかったとしても、少し足を伸ばして公園のロケハンをしてみると案外掘り出し物が見つかることがある。河川敷や広い原っぱ、山の中も立派な遊び場になるので、こうした場所も候補に入れてみるといい。
危険なものが落ちていない場所であれば、裸足で遊ぶことも推奨している。
「解剖学的にみると、私たちの足には、指の付け根を結ぶアーチ、足裏の内側のアーチと外側のアーチと3つのアーチがある。はだしで動くとこれらのアーチがしっかりできるようになる。すると、足裏でバランスを取ったり、足指で地面を蹴って歩けるようになるので、走ったり跳んだりする動作もしやすくなる」と遠山は言う。
前述のアーチや足裏の感覚受容器を十分発達させるためにも、靴のサイズは半年に一度チェックしながら、常にジャストサイズを履かせたい。
「大きめのサイズにすると、歩くたびに足指が前に突っ込み、地面を蹴りづらくなる。また、サイズ調整で子ども用のインソールを入れると、足裏の感覚が鈍るため、こちらも避けたい」と遠山は提唱している。
このように、0~5歳は神経が飛躍的に発達し、その後の運動能力の基盤を築く時期。
マニュアルのように運動をさせるのではなく、日々の遊びの中で楽しく関わりながら、子どもの運動能力を引き出し、精神的な成長も促すことができるのだ。
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text: Mitsuko Okada