「根拠のない自信を育てる」ことの奥深さ。

Lifestyle 2022.01.17

From Newsweek Japan

文/船津徹(TLC for Kids代表)

親子の信頼関係を構築するゆとりのない現代社会の歪みは「愛情のすれ違い」という形で家庭に浸み出します。まず愛情不足に陥っている子どもの発するサインに気づいてあげること。そして年齢に合わせた愛情補充の方法で「根拠のない自信」を育ててあげましょう。

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photo: LightFieldStudios-iStock

「自分はできる!」という自信ほど子どもの人生を左右するものはありません、環境の変化にへこたれず、挫折や失敗もバネにできる、そんなメンタルタフネスの根底にあるのは自信です。また性格的にも「自分はできる!」と心から信じられる子は「積極的」で、周囲に対して「開放的」になります。つまり「やる気」と「明るさ」に満ちあふれたたくましい子どもに育つのです。

子どもの人生にはたくさんの試練や困難が待ち受けています。思うようにいかなかったり、嫌な思いをすることは数知れず。挫折や失敗を味わったり、周囲から足を引っ張られることもあるかもしれません。そんな時でも「負けないぞ!」「なんとかなる!」と苦難を乗り越えていくためには、子どもの「自信を大きく育てておくこと」が大切です。
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根拠のない自信を育てることが親の仕事。
 

自信には「根拠のある自信」と「根拠のない自信」のふたつがあります。根拠のある自信は子ども自身の努力で身につけていくもの。一方の根拠のない自信は、その名の通り、親から与えてもらう自信です。当然、子育てで重視すべきは「根拠のない自信」です。

「根拠のない自信」は、親が子どもを100%無条件に愛して、信じて、受け入れることで育ちます。親から愛情をたっぷり受けて育った子どもは、「自分は大切な存在だ」という自己肯定感と「親は自分を受け入れてくれる」という安心感を持つことができます。このふたつが心にどっしりと根ざすことで、失敗を恐れず、 新しいことに挑戦する勇気が育まれるのです。

もちろん大抵の親は子どもを心から愛していると思っています。しかし大抵の子どもは自分は親から愛されていると「実感できていない」のです。子育てに効率主義が入り込んできた現代社会では、ゆっくり時間をかけて子どもに愛情を伝え、親子の信頼関係を構築するゆとりがなくなってしまいました。その結果、親子に「愛情のすれ違い」が起きやすく、それが子育てを難しくしているのです。

愛情不足に陥っている子どもは必ず「サイン」を出しますから親はそれで判断してください。小学低学年までの子どもに見られるサインは、目を合わせない、目が泳ぐ、爪を噛む、落ち着きがない、表情が暗い、口数が減る、母子分離不安が強い、人見知りが激しい、孤独を好む、親より他人に甘える、などです。

以上のようなサインが現れた時は、スキンシップをそれまでの2倍に増やし、親子で遊ぶ時間を2倍に増やし「愛情の補充」を行ってください。

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子どもの問題行動は「愛情の確認行為」である。
 

子どもは「自分は本当に親から愛されているのだろうか?」と不安になると、愛情を確認するために、反抗、わがまま、ぐずりなど、親を困らせる行動を起こします。子どもの問題行動は「愛情を確認する行為」ですから、親は感情的にならず冷静に対応することが大切です。

問題行動がよく見られるのが下の子ができた時です。生まれたばかりの赤ちゃんが母親の胸に抱かれている姿を目にした時、上の子は「ママが取られた!」と強いジェラシーを感じます。そして母親の関心を自分に向けるために「あらゆる悪い行動」を起こすのです。

この時、上の子の寂しい気持ちを受け入れず「お兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから言うこと聞いて!」と突き放してしまうと、根拠のない自信は減退します。そしてさらに問題行動が長引くという悪循環を引き起こすのです。

上の子におかしな行動が見られる時は、下の子の世話は父親や祖父母に任せて、母親と上の子が一緒に過ごす時間を作ってください。上の子を抱きしめ「ママは○○ちゃんがいちばん好きよ」と伝えれば、問題行動はすぐに収まっていきます。

また母親がひとりで赤ちゃんの世話をするのでなく、上の子を育児に参加させましょう。上の子は母親と過ごす時間が増えますから、どんな手伝いでも引き受けてくれます。そして手伝いをしてくれたら「ありがとう、助かったわ」と褒めてあげるのです。これで上の子は「自分は親から必要とされている」という自信を取り戻すことができます。

オムツ交換、沐浴、着替えなどに積極的に上の子を参加させましょう。子どもに手伝わせるよりも親がやってしまう方が早いでしょうが、上の子に疎外感を味わわせないことが目的です。上の子に下の子の世話をさせると、仲の良いきょうだいに育ちますので、その後の子育てがずいぶん楽になります。
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子どもが自立するまで愛情の補充をし続ける。
 

子どもが自立していくプロセスでは自信喪失に陥るタイミングが何度も訪れます。卒乳、トイレットトレーニング、魔の二歳児(自立への不安)、初めて習い事に参加する時、幼稚園に入園する時、小学校・中学校に進学する時、受験する時など、習慣や環境の変化への適応が迫られると、子どもの精神は不安定になり、普段とは違うおかしな行動が現れるようになります。

繰り返しますが、子どもが不安のサインを出した時は、その都度、親が「愛情の補充」を行ない「根拠のない自信」を大きくしてあげてください。「大丈夫」「できるよ」と言葉で励ましてあげるのも良いですが、子どもに愛情がいちばん伝わるのがスキンシップです。抱きしめたり、添い寝をしたり、おんぶや抱っこをしてあげることで子どもの安心感を高めることができます。

子どもが小学生以上になると、お互いに恥ずかしさもあって、抱っこしたり、添い寝したりという直接的なスキンシップは減っていきます。その代わりに、頭をなでたり、肩や背中をさすったり、手足のマッサージをしてあげるなど、スキンシップの方法を工夫してください。

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また父親が子どもと一緒にサッカーやキャッチボールなどのスポーツをしたり、すもうやプロレスごっこをするなど、やや「荒っぽい遊び」を通して身体が触れ合う機会を増やすこともいいでしょう。

ティーンエイジャー(13歳〜19歳)になると、子どもの人間関係は家族から友だち中心に移行していきます。それでもなお、子どもは不安が大きくなると、普段とは違う態度や行動など「自信減退」のサインを出します。

ティーンエイジャーの愛情補充には、子どもの好きな活動に親が付き合ってあげると効果的です。ゲームが好きな子どもであれば親も一緒にゲームをする。スポーツが好きな子どもでもあれば親も一緒にスポーツをする。料理好きな子どもであれば一緒に料理をするなどです。

休みの日などを利用して子どもに親がとことん付き合ってあげると、「自分は親から受け入れられている」「自分は親から大切にされている」と実感できるのです。(子どもと一緒に過ごす時は小言を封印してください)
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子育ては「自信育て」に尽きる。
 

子育てでいちばん大切なのは、子どもの「心の状態」を見極め、必要な時に「愛情の補充」を行うことです。「何があっても親は自分の味方だ」「うまくいかない時は親が助けてくれる」「失敗しても親が受け入れてくれる」、そう心から信じている子どもは、どんな苦難にも屈することなく、前を向いて、力強く人生を歩んでいくことができます。子育ては自信育て。ぜひ実践してみてください。

船津徹

TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。

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text: Toru Funatsu

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