アムールな国のイマドキ恋愛&結婚事情。 SNSでのやりとりは、不倫のきっかけ?
Lifestyle 2022.02.14
同棲・事実婚・結婚と、カップルの形もそれぞれ。フランス人は自由恋愛を謳歌しているイメージがある。だが、本国版Madame Figaro誌を読むと、コロナ禍の影響やマッチングアプリ、SNSの進化で世代によって考え方が変わってきたり、新たな悩みに苛まれたり……。さまざまな恋愛&結婚事情が見えてきた。
ÉCHANGES VIRTUELS
OU DÉCLICS INFIDÈLES?
SNSでのやりとりは、不倫のきっかけ?
インスタグラムに載ったセクシーな若い女性の写真に、自分の彼氏が「いいね」を押していたら、それは浮気?
「それは、インスタグラムでのひとつの『いいね』から始まった。『いいね』に込められたさまざまな意味。『いいね』がもたらした亀裂」――。
ジャーナリストのジュディット・デュポルタイユによるポッドキャスト「ミス・パドルとは誰?」はこんなふうに始まる。このポッドキャストでは、自分のボーイフレンドがセクシーな若い女性の写真にハートを付けただけでなぜ自分の自信がぐらつくのかを分析している。SNSの普及に伴い、カップルの関係や不倫の概念も変わるのだろうか?たったワンクリックでふたりの間にバーチャルな関係が始まり、時には恋愛にも発展する。「バーチャルはバナナの皮のようなもの。些細なことで足元をすくわれることがある」と話すのは、『Est-ce que regarder, c'est tromper?(眺めるだけで浮気?)』(Éditions Interé- ditions刊)の著者で結婚カウンセラーのフロランス・ペルティエだ。
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フランス人の94%が携帯電話を持ち(うち75%がスマートフォン)、78%が毎日ネットに接続している。現代はバーチャルが遍在する時代。心理療法士のエステル・ペレルは、著作 『Je t'Aime, Je te Trompe(好きだけど浮気する)』(Éditions Robert Laffont刊)で、「このデジタル時代には、不倫相手に出会うチャンスがますます広がっている」と述べる。ペルティエの患者のひとりは、「画面越しだと簡単です。暇つぶしですね。パジャマで口説くことも」と言ったそうだ。
思いがけないところで通知は表示されるもの。元カレの誕生日のリマインダーをフェイスブックで受け取ったことはないだろうか? あるカップルはそれで酷い状況に陥った。リマインダーを受け取った女性は別れたパートナーに誕生日のメッセージをなにげなく送った。その後彼女は何カ月も現パートナーの疑心暗鬼に悩まされることになる。「いいね」や顔文字などデジタルで使用されるコードはまさに誤解の原因となる。ペルティエは「キススマイリーのスタンプを誰かに送って、それをあなたのパートナーが目にしたら、どう感じると思いますか」 と問いかけ、自分の行動を客観視するように呼びかける。デュポルタイユのポッドキャストいわく「いいねが何も意味しないことはわかっていても、疑うには十分。確信するには足りないけれど、もしかしたら……と思い始めたが最後、最悪の事態を想像してしまい、答えのない悩みの海をさまよい続ける」
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50歳のオリヴィエは、既婚女性とプラトニックな関係をしばらく続けたことがある。女性には当時ふたりの幼児がいた。職場で出会い、ワッツアップでやりとりするようになった。オリヴィエは当時を振り返り、「お互い情熱的な長文メッセージをやりとりしていた。彼女にとっては日常を忘れ、生きている実感を得られる場だったんだと思う。性行為なしに恋愛感情が芽生えた特別な関係だった。私とはなんでも話せる、旦那のようにバカにしないし批判しないからと言っていた」と語った。
不貞行為はすべからく、なんらかの欲求に応えるものだ。日常から逃れたい、自己愛を回復したい、オフィシャルな関係の隙間を埋めたいなど。しかもオンラインではバーチャルな点が「安心感」を与えてくれる。「本当は不倫をしているワケじゃないと自分に言い訳するひとつの方法」と、デジタルなやりとりに詳しい心理士のヴァネッサ・ラロは言う。
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不倫が起きる、3つの赤信号。
アメリカの心理士のシャーリー・グラスによれば、不倫が起きるには、3つの赤信号がある。それは秘密、 セックスの相性、そして、ある種の愛着。もっともセックスを伴わない心の不倫も破壊的なものになりえる。
「性的関係は可視化できるもの。心の不倫の場合で も、ふたりの関係性によっては裏切られたという強い気持ちをパートナーに抱かせることがある」とグラスは言う。この感覚には一般的に男女差がある。心理学研究によれば男性の場合、パートナーがほかの誰かと「寝た場合」に非常にショックを受けるのに対し、女性は、パートナーが「誰かと親しくなった場合」 に動揺する。ただし個人差もある。
数年前、28歳のジャン・ピエールは恋人にプロポーズするためにカナダへ飛んだ。だが、相手の態度が前と違うと感じた。
彼女の携帯電話をふと見てしまった時に、彼女がヨガのインストラクターへ送った大量のメッセージに気付いた。ふたりの間に肉体関係はなかったが、非常に親しいのを知り、とても傷つき、彼女と別れた。「まだ傷は完全に癒えていません。以前は自分から愛そうとしていましたが、今では愛されるほうがいいと受け身です。」しかしながらこうした体験が必ず破局に結びつくわけではない。
38歳のジュリエットは同じような体験をし、それを乗り越えた。カップルとなって2人目の子どもをと考えていた彼女はある日、衝撃的な発見をした。「彼はガーデニング中。室内にあった彼のスマホ画面が開いていて、職場の女の子とのやりとりが目に留まりました。気になってふたりのやりとりを辿ってみました」。読むにつれて動悸がして具合が悪くなった。そこには彼の仕事上の不安を巡る、非常に親密なやりとりがあった。
「こんな親密なやりとりはもう私たちの間にはなかった」と彼女は振り返る。ジュリエットがこのメッセージを彼に突きつけると、彼は、ジュリエットが当時仕事で忙しく、彼の愚痴に耳をかさなかったと指摘した。「要するに、この女性が話を聞いてくれたんですね」。思い返せば夜遅く、ベッドの中でも彼はスマホを手放さず、メッセージを打っていた。「でも彼のことが好きで信頼していたから、そんなことが起きているなんて想像もしていなかった」とジュリエット。
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いつの間にか誰かが介入してきて、別のところで絆ができる。傍観するしかないのだろうか。
臨床心理士のサミュエル・ドックはこう語る。「誰かとのやりとりを過剰解釈して疑心暗鬼にならない方がいい。単に親しい友人だったり、姉妹愛、兄弟愛のようなものだったりするかもしれません。必ずしも夫婦の仲を脅かすほどのものではないのです」。心の不倫という概念にこだわるかどうかは別として、事が起きた場合、その後にどう生かすか。時にはカップルの絆が深まることもある。本音でカップルの間の約束事をオープンに話し合えるようになるからだ。バーチャルな関係が本物の愛となり、ひとつの物語から別の物語が生まれることもある。唯一確かなことは、社会の一角にバーチャルな関係も存在するということ。
「神聖なふたりの結びつきという定義は安心感を与えてくれていましたが、もはやそこに適合しない多様な関係が存在します。柔軟性は増す一方で、安定は失われました」とラロは結論づける。それは、バーチャルな関係も含めての話だ。
*「フィガロジャポン」2022年3月号より抜粋
text: Ophélie Ostermann (Madame Figaro) illustration: Fabienne Legrand (Madame Figaro)