子どもの英語力を育てる上で「早期教育」より大切なこと。

Lifestyle 2022.03.13

From Newsweek Japan

文/井口景子(ジャーナリスト)

早期教育熱は高まる一方だがブームに流されるのは禁物。「分かる楽しさ」を経験させ、将来のゴールを想定し、今後の学習の基盤をつくろう。

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英語に親しみ「分かる楽しさ」を経験すれば、意欲面でも知識面でも将来の学習に繋がる。photo:iStock

あらゆる刺激を吸収して日々目覚ましく成長する赤ちゃんを見ていると、「この子に秘められた無限の可能性を伸ばしてあげなくては」という思いに駆られるもの。なかでも、グローバル社会を生き抜く武器として英語力を与えてあげたいという願いは多くの親に共通している。
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子どもは耳が抜群にいいから、いまのうちから学び始めればバイリンガルになれるかも。このタイミングを逃したら手遅れになるのでは......。そんな期待と焦りが募り、早期英語教育熱は高まる一方。家庭で使用する「おうち英語」関連教材の人気はうなぎ上りで、親子で通う赤ちゃん向け英会話教室や英語で保育を行うプリスクール(主に2~6歳向けの英語の幼稚園)への注目も高まっている。

実際、10歳前後までの時期は言語習得の黄金期で、適切な環境下で過ごせば複数の言語を使いこなせるようになる。ただしそのためには、複数の言葉が日常的に使われている環境が不可欠。言葉の習得には20,000時間のインプットが必要とも言われており、英語を使う必然性のない日本の一般家庭で少々英語に親しんだくらいで、自然に言葉があふれ出すことはないというのが専門家の共通認識だ。

「最初の3年間は人間としての基盤をつくる重要な時期。ブームに流されず、むしろ母語でたっぷり語り掛けて豊かな土台を築いてあげてほしい」と、青山学院大学のアレン玉井光江教授(英語教育学)は言う。

もっとも、これは乳幼児期の英語体験が無意味ということではない。幼い子供の強みは、意味がよく分からない状況でも気にせずに楽しめること。母語での豊かなコミュニケーションに加えて、外国語の絵本や歌に触れながら「なんとなく分かって楽しかった」という経験を積み重ねられれば、意欲の面でも知識面でも将来の学習の基盤づくりに繋がる。

そんな子どもの強みを生かすには、いくつかの条件がある。まず、知識やルールを教え込もうとしないこと。間違いを指摘して正しい発音や表現を覚えさせたり、いちいち日本語に訳して解説したりすると、子どもは「分からない」状態を苦痛に感じて英語にマイナスのイメージを持ってしまう。「分かる楽しさ」を引き出せるよう、日常生活でなじみのあるシーンが多い教材や、日本語で読んだことのある物語を用意する工夫も有益かもしれない。
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双方向の働き掛けが必要。
 

教材選びの際には、インタラクティブな関わりを持ちやすいものを選ぶことも大切だ。子どもは「言葉のシャワー」を浴びて自然に言語を覚えるとよく言われるが、実際には双方向のコミュニケーションが不可欠で、DVDやCDを流しっぱなしにする一方通行の刺激では効果は薄い。

アメリカの生後10~12カ月の赤ちゃんを対象にした実験では、中国語のネイティブ話者に直接語り掛けられたグループは中国語特有の音を聞き分けられるようになったが、同じ話者による録音音声やビデオ映像を視聴しただけのグループにはそうした学習効果は見られなかった。

わが子に英語で語り掛ける自信がない親も心配はいらない。音声付きの英語教材を一緒に視聴しながら、「あれ、何が出てくるんだろう?」などと日本語で声を掛けるだけでも十分に子どもの興味を高められると、アレン玉井は言う。

親が英語の絵本の読み聞かせをするのもおすすめだ。コツは個別の発音よりも、英語らしいリズムやアクセント、イントネーションを再現できるよう心掛けること。「大好きなママやパパが心から楽しんでいる姿を見せるのが一番。そうすることで子どもは安心感と一体感に包まれて、英語の世界に入り込みやすくなる」と、アレン玉井は言う。

一方、幼児期により本格的に英語をマスターさせたい場合には、「複数の言語が日常的に話されている環境」を求めて、英語で保育や教育を受けさせるという選択肢もある。インターナショナルスクールの幼稚園部は数が少なく、親の側にも高度な英語力が求められる狭き門だが、一般の日本人家庭を対象にしたプリスクールは間口が広く、全国的に急速な勢いで増え続けている。

国際教育情報を発信するインターナショナルスクールタイムズの村田学編集長によれば、その数はおよそ800校。幼児教育・保育の無償化政策や小学校での英語の教科化も追い風となって、いまやプリスクールは幼稚園と保育園に次ぐ「第3の選択肢」になりつつあるという。
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長期的ビジョンを持って。
 

ネイティブ教師との遊びや学習を通して母語と同じようなプロセスで英語に慣れ親しむという点で、プリスクールのような環境は非常に魅力的だ。ただし施設を選ぶ際には、保育の質や家庭の教育方針との整合性をしっかり確認しておきたい。

プリスクールの大半は認可外保育施設であり、行政の目が行き届かないケースも少なくない。「子どもを長時間預ける教育機関として衛生管理や安全対策、災害への備えは十分かという視点で念入りにチェックすべきだ」と、村田は指摘する。

その上で、英語教育の方針や年間スケジュールを比較したり、子どもの発達段階に応じたカリキュラムが組まれているか、担任は幼児教育の資格と指導経験を備えた人物かどうかといった点を吟味したりする必要がある。

もうひとつ、意識しておきたいのが卒園後のフォローだ。プリスクール在園中にネイティブ顔負けの発音で英語を使いこなせるようになっても、日本の小学校に入学すると日本語で過ごす時間が劇的に増え、英語力は一気に低下する。そんな「小1の崖」を少しでも穏やかなものにするために、卒園児向けの放課後プログラムなどのサポート体制が充実している施設を選ぶのも一案だと、村田は言う。
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もっとも、読み書きを含めた高度な英語力が完成するまでの道のりは少なくとも20年近い長期戦で、幼少期の学習はまだ序の口。早めのスタートが有利なのは確かだが、親が必死に環境を整えても、本人のやる気が続かなければゴールにはたどり着けない。それなら幼いうちに多額の教育費をつぎ込むよりも、将来、本人が望んだタイミングで留学などに費用を回すほうがいいという考え方もあり得るだろう。

なぜわが子に英語を学ばせたいのか。どんなゴールを想定し、そのためにどのルートを選ぶのか。教材を買い込むのは、そんな長期的なビジョンをじっくり考えた後でも遅くはなさそうだ。

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text: Keiko Iguchi

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