子どもの気質は生まれつき? 個性を尊重して「生きやすさ」を育もう。
Lifestyle 2022.03.21
内向的、活発、短気......生まれ持った個性はさまざま。その子らしさを生かした働き掛けで自己肯定感を育んで。
敏感、活発、引っ込み思案など、生まれながらの気質は周囲との関わりを受け性格を形成する。photography: iStock
1歳のわが子がちょっとしたことでかんしゃくを起こしてばかりいたら......。ママはなだめたり叱ったり、生まれつきの性格かとため息をついたりしてしまうかもしれない。
でもそんな時、慌てず騒がずそっと手を当てて寄り添い、「びっくりしたね」「怒っているんだね」と感情を代弁してあげたらどうだろう。気持ちが落ち着くのを待って、友達と仲直りする方法をそっと教えてあげたとしたら?
小学校に入る頃にはかんしゃく癖も収まり、自分の気持ちを言葉で伝えられる子になった──そんな例は数多い。
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「赤ちゃんはそれぞれの性格のベースになる個性(気質)を持って生まれ、それらが養育者や社会との関わりのなかで育成されてその子の性格となっていく」と、公認心理師で育児相談室ポジカフェを主宰する佐藤めぐみは言う。
これは、1963年にアメリカの心理学者アレクサンダー・トマスらが行ったニューヨーク縦断研究に基づく意見だ。この研究では140人の乳幼児を対象に、活発さ、注意のそれやすさ、粘り強さ、五感の敏感さなど9つの気質特性を5段階で評価した。その評価を組み合わせた結果、乳幼児期ですでに扱いやすい子が40%、扱いにくい子が10%、順応が遅い子が15%、平均的な子が35%と、4タイプがあることが明らかになっている。
なお、持って生まれた個性は、養育者がその子に没頭する(懸命に向き合い世話をする)ことで形を変えていくことも分かっている。
発達臨床心理学を専門とする白百合心理・社会福祉研究所の青木紀久代所長は、親子関係の質と子供の人格形成の関連について長期的な観察を行った自らの研究結果から、次のように語る。「たとえば産院にいた時は夜泣きなど疳(かん)の虫が強く、尖った個性を持っていても、母親をはじめとする養育者が世話に没頭することで、次第にそれがマイルドなものとなり、1カ月健診の頃には支障のない範囲のものとなることが多い」
ただし、持って生まれた気質のようなものは、変わることなく息づいていく。引っ込み思案な子を突然活発にしたり、外向的な子を無理やりに落ち着かせたりするのはやはり難しい。「親の理想とするところに子どもを当てはめようとするより、その子の個性を生かし、その子らしく生きやすいようにするのがいちばんだ」と青木は言う。
佐藤によると、かんしゃくが強い、引っ込み思案などの個性には、次のような接し方が効果的だという。「かんしゃくは親が根負けしてしまうと定着しやすいため、ルールを守る練習を取り入れることも大切。子どもは加点法を好むので、テレビは1時間というルールも『45分で一度止められたら、食後に15分追加』のようにすると遵守しやすくなることが多い」
引っ込み思案な子に対しては、お遊戯会の練習を普通の子は10 回やるところを100回一緒にやってみるなど、時間をかけて段階的に自信を持たせることが大切になると、佐藤は指摘する。
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レジリエンスを高める。
実際に子育てをしていると、自分がやっていることが本当にわが子のためになっているか、不安になる親も多いだろう。そんな時は主治医を持つような感覚で、育児相談を気軽にできる人を持つことが大切だと青木は考えている。
そこで活用できるのが保育者(保育士や幼稚園教師の総称)だ。彼らは日々子どもたちを見ながら自己点検し評価し、育成計画を立てているので、親とは違った視点を持っており、プロとしての適切なアドバイスができる。
この時に注意するのは、「お母さん自身が話していてしっくりくる人を選ぶこと」だと青木は指摘する。「そういう人と定期的に話すことは、自分とわが子の人生を豊かにするマネジメントのひとつともいえる」
このように、親がわが子を中心に据えた育児をすることは、その子のレジリエンス(困難な状況においてもしなやかに生き抜く力)を高めることにもつながる。公認心理師・臨床心理士で埼玉学園大学大学院心理学研究科長の小玉正博教授によると、レジリエンスとは2010年の東日本大震災以降、広く知られるようになった言葉で、変化の激しいこれからの世界を生き抜くためにも必要な資質のひとつだと言う。「乳児はこの人がいれば自分は大丈夫という愛着を養育者との間に育むことで、自分はここにいていいという自己肯定感の土台をつくり上げていく。自分は大丈夫という感覚は、逆境に陥った時に心が折れずにその場を乗り切る強さに繋がる」
おもしろいことに、この愛着は断絶と修復を繰り返すことで強くなると小玉は言う。「子どもが離乳食をぐちゃぐちゃにして遊んでいたら、親は『そんなことしちゃ駄目』と叱り、断絶が起こる。けれどその後、抱っこしたり一緒に遊んだりすることが修復になる。こうした繰り返しで、親子の絆は深まり、子ども自身は逆境の中でもしなやかに生きる術を身に着けていく」
親が理想とする子ども像を押し付けるのではなく、その子の個性を尊重して子育てをすることは、その子らしく幸せな人生を歩むための大きなエールになるはずだ。
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text: Mitsuko Okada