40代は女性の性が本当に開花する時期? 愛の国フランスに住む女性たちの証言。
Lifestyle 2022.04.18
40歳を過ぎてセックスライフが充実したと語る女性たちがいる。自分自身の声に耳を傾け、自分の身体と欲望を取り戻し、探究する......。抑圧を解かれた欲望について女性たちが明かす。
40歳を過ぎてセックスライフが充実したと語る女性たちがいる。photography: Getty Images
「私の腰をつかむ彼の手を感じる。包み込むような愛撫を満喫する。もっと強く、あるいは逆に、もう少しゆっくりと彼に求める......」。ためらいがちに話し始めた41歳のアレクサンドラの声に、次第に力がこもる。自分の欲望を言葉にすることにはまだ慣れていない。40代を迎えてから、彼女は自分のセックスライフが開花したのを感じた。
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「ようやく!」頬を赤らめながら、彼女は自分の心の叫びについて語る。彼女自身の言葉によれば、もともと特に上品ぶっているわけでも、放縦なタイプでもなかった。ただ、以前の性生活について「大丈夫」「普通」「品行方正な正常位」と語る彼女の口ぶりはあっさりしている。彼女自身はこのことをどう捉えているのだろう?
「どちらかというとパートナーに合わせていた。彼の要求には応えていたけれど、ベッドで自分から彼にこうして欲しいと言うことはなかった。いまは自分自身と自分の身体と自分の欲望に耳を傾けている」。エマニュエルも同じだ。44歳で「母親と娼婦の垣根を越えられた」と彼女は言う。
「以前はフェラチオもしたことがなかった。妄想を抱いていながら自分に禁じていた体位もあった。いまは、献身的な母親であり、尊敬に値する女性であり、かつ情熱的な愛人である......。これらすべてが同時に可能なのだとわかった。どのアイデンティティも対立し合うものではない」と彼女は説く。
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自己肯定の10年
40歳は性的解放の年齢なのだろうか?
「10年毎に誕生日を祝うのと同じように、セックスライフにも10年周期があります。20歳は大人の仲間入り。30歳は家庭の構築が始まる。40歳は仕事、家庭、社会的なアイデンティティが形成され、しっかりと確立する段階です。40代は自己肯定の10年というわけです」とセックスセラピストのナタリー・ジロ=デフォルジュは説明する。ウェブサイトpimentrose.frの創始者である彼女は、フランスに初めてセックストイ集会というコンセプト(趣旨は私たちの祖母たちの世代にとってのタッパーウェア・パーティと同様)を輸入した女性のひとりだ。パリで開業する彼女は、女性たちの欲望を抑圧する枷を頻繁に目撃している。時間を要する仕事、子育て、短い睡眠時間、感覚を摩耗させる日常生活......。
「精神的負荷は欲望の帯域幅を減少させます。現代社会は40歳前の女性たちに精神を解放する時間を物理的に与えてくれない」と、ジロ=デフォルジュは指摘する。そこで脳に空きスペースができたときにようやく、性生活が新たな探究の領域となるというわけだ。
彼女は世代的な影響もあると見ている。現在40代の女性たちはセックストイ業界の発展を経験し、性的に解放されたドラマのヒロインたちを見て育ち、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」効果の恩恵を被った世代だ。「単なる一過性のブームではなく、こうした“マミーポルノ”によって、性的妄想が解放されました。社会から大っぴらに許可を与えられたわけです。妄想を解き放ち、様々な性行為を実践することが女性たちに許されたのです」とセックスセラピストは断言する。
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年齢を重ねて性的喜びを追求し始める女性たち
40歳の誕生日にセシル=シャルロットは女友達たちから“ラビット”をプレゼントされた。アメリカのドラマシリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ」で人気を博し、いまやベストセラー商品となったクリトリス刺激装置付きバイブレーターだ。誕生日の数ヶ月後、夫が友人たちと遊びに出かけた晩に、彼女は初めてバイブレーターを使ってみた。「遅まきながらマスターべーションの喜びを再発見しました。それ以来、積極的に楽しんでいます。独学で自分の身体を発見して、新しく知ったことをパートナーとのセックスでも活かしています」と彼女は言う。以前は「物足りない」と感じることもあったと彼女は明かす。夫がオーガズムに達した後にあと一歩のところでオーガズムからとり残されたときのフラストレーション。
「もちろん彼は何にも気づいていません。私も何も言わなかった。それが普通だと思っていた......。いまはベッドでの平等を求めています。だから夫が私より先にオーガズムに達したら、何のためらいもなくはっきり“もっと”と言います。ときには彼にバイブレーターを使おうと提案することもあります」
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セックスセラピストのジロ=デフォルジュは、年齢を重ねてから性的喜びを学ぶ女性たちによく出会うという。
「40歳になると、女性は自分を探究したいと考える。鏡を持って自分の身体の仕組みをようやく発見し、climax.howのようなサイトを閲覧し、女性の性的快感をテーマにしたポッドキャストを聞く。必ずしも積極的な姿勢でとは限りません。自分の性を探究することに、多くの女性たちは、自分に対する許可を必要としている。彼女たちは規範について問い直しているのです」。46歳のアリスはこれまでもマスターベーションはしていた。「といっても独り身のときとか、パートナーと上手く行っていないときとかに散発的にする程度でした。それがいまは、もう......普通のことです。オーガズムを経験した後は、活力がみなぎって、エネルギーが満ちあふれる感じ」と彼女は説明する。
オーガズムが健康にいいことは何度となく実証されてきた。道教についての概説書を開くと、セックスはそもそも「薬を摘む」と表現されている。「オーガズムはエネルギーを発散し、そして再び充填します。緊張を発散させ、エネルギーを充電する」と、鍼師兼婦人科医で『Femme désirée, Femme désirante(欲望される女、欲望する女)』(パイヨ出版、2011年刊)の著書があるダニエル・フロマンボームは言う。
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一切の罪悪感なく「ノン」と言う
とはいえオーガズムはもはや到達点でもない。
「自分が満足できれば、すべての性交がオーガズムで終わらなくてもいいということを受け入れました。こうでなければという義務はひとつもないのだと。オーガズムもそう。むしろオーガズムは色見本帳、様々な感情のパレットのようなもので、そのなかに含まれるあらゆる要素が私を満足させてくれる」と44歳のアドゥリーヌは明かす。彼女にとって、過剰な演技は過去のもの、興奮しているフリをするのはもってのほかだ。パートナーの引き立て役にはなりたくない。
「強烈なオーガズムが得られたら、素晴らしいことです。セックスでそこまで喜びを感じなかったとしても、それもまたよし」
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パリのセックスショップから出てきたところで声をかけた45歳のケイトも、ノンと言うことを受け入れられるようになったというひとり。
「一日中セックスのことを考えて、誰かに触れたい、触れられたい、誰かと寝たいと思う時期もあります。一方で、そういう欲望が湧かない時期もあります。そういうときは、ノンと言う。そのうえ罪悪感をこれぽっちも抱かずに」
彼女のトートバッグのなかには買ったばかりのランジェリーセットが入っている。ブラジャーには乳首が露わになるようにカットが施されている。彼女は試着室から最新の恋人に写真を送ったところだと打ち明けた。「これも前戯の一環」と彼女は言う。数年前にはこういう行為をするのは考えられなかったという。
「それに前戯もおざなりにしていました。あっという間に火がついて、燃え上がって、ゴール目指して一直線。いまはこの過程に時間をかけるのが好き。性的な緊張感が高まっていくのを感じるのが好き」と彼女は打ち明ける。レストランでのディナーの途中に席を立って下着を脱ぎに行く、ハンドバッグに明白な誘いのサインを発見する、徐々に熱を帯びる“セクスト”のやりとり。「ベッドでも続きます。ゆっくりとキスを交わして、愛撫し、優しい言葉を掛け合う。ときにはシナリオを設定することもあります」と彼女は語る。
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女性のセックスライフの新たな転換点
「40歳になると女性は行為の領域である陽から、創造の領域である陰へと移行します。感受性を探究する年齢に入るわけです。これも自分の素質に目を向けるひとつの方法です」とセックスセラピストのジロ=デフォルジュは分析する。
「中国古来の思想である道教によると、女性の欲望は心に向かって開かれます。いっぽう、男性の欲望の源泉は自分自身の性器です。言葉、愛撫、キスといった行為は、女性のエネルギーを前面に押し出します。女性はより知的なレベルで性的興奮を覚えます」と婦人科医のフロマンボムは強調する。
女性の解放を実際に経験し、頻繁に討論会を主宰しているフロマンボムは、女性のセックスライフの新しい転換点に立ち会えそうだと期待している。
「ピルは精神が身体という生理を抑え込むことを可能にしました。女性はそのおかげで自分の身体に“いまは生殖の時期ではない、快楽のための快楽の時期なのだ”と告げられるようになった」。女性たちが自分のセックスを探究し、愛人を持ち、ボンデージに挑戦し、グループセックスを試す。こうした女性たちが現れているのは喜ばしいことだと彼女は話す。
「40歳の女性たちには経験があります。そのおかげで彼女たちは自分自身に的確な問いを投げかけることができる。セックスの面でもそれまで放置してきたことを探究しに行く年齢です」。長い間、解剖学の教科書に記載されていなかったクリトリスが、ふたりの専門家の言葉によれば、「いま話題の新たな器官」となったように。
text: Caroline Lumet (madame.lefigaro.fr)