不妊治療に翻弄され、崩壊したカップルたち。

Lifestyle 2023.01.23

不妊で憔悴し、治療でダメージを受け、なかには希望と失敗の繰り返しに疲れ果ててしまうことも。不妊治療に翻弄され、しまいには解体してしまうカップルもいる。フランスのマダム・フィガロがリポート。

22-10-11-PMA.jpg不妊治療の過程で疲れ果て、崩壊してしまうカップルもいる。photography: Getty Images

10年間、サンドリーヌとジュリアン*は「順調な」カップルの道を滞りなく歩んできた。18歳で出会い、20歳で同居、26歳で結婚。28歳で子どもを作ろうと考えたふたりは、1年間試みたものの実を結ばず、生殖補助医療という過酷な世界へ足を踏み入れた。いわゆる「闘いの道のり」だ。

治療を始めた当初、ふたりは強い絆で結ばれていた。サンドリーヌに排卵誘発剤を注射するのはジュリアンの役目だった。7年間で7回体外受精を行い、7回失敗。「2018年に最後の挑戦を終えたとき、もう一緒に苦しみを分かち合うこともなく、お互い別々に苦しんだだけだった」と、いま42歳になるサンドリーヌは証言する。

当時を振り返ってみて、自分たちは「よく持ち堪えた」ものの、絆が緩んでいくのを見たくなかった、と彼女は言う。「不妊治療の精神的負担で日常が重苦しくなった。だんだんと毎日が代わり映えのしないものになり、ある時点で彼は他のものに興味を持つようになった。私には気楽さが必要だった。それで、おしまい」。サンドリーヌとジュリアンは3年前に別居、昨年離婚した。

不妊治療に翻弄された果てに解体してしまったカップルは彼らだけではない。不妊に憔悴し、治療でダメージを受け、なかには希望と失敗の繰り返しに疲れ果ててしまうケースもある。「“不妊治療が私たち夫婦に終止符を打った”と彼らは言います」と、アントワーヌ=ベクレル病院(クラマール市)とジャン=ヴェルディエ病院(ボンディ市)で生殖医療・不妊治療科チーフを務める産婦人科医のミカエル・グリンベルグ教授(1)は話す。

試練に耐えられないほど脆いカップルだったということ? その場合もあるが、全員がそうとは限らない。グリンベルグ教授の診察室を訪れるのは逆に、強い意志を持ち、希望に満ち、共通のプロジェクトで固く結ばれた男女たちだ。「でも彼らは何が自分たちを待ち受けているのか気づいていない」と医師は続ける。「私たちは彼らの生活のリズムを管理し、彼らの私生活、彼らのセクシュアリティに入り込みます。もともと自然にできると考えられていることを人為的に成功させるために。カップル大きな打撃を受けるのは当然です」

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踏みにじられる私生活。


無理もない。不妊治療はカップルの土台となるさまざまな要素を攻撃し揺るがせるものだから。その筆頭がプライベート領域だ。「あっという間に医療の歯車に巻き込まれてしまう」と、41歳のソニアは語る。

彼女は26歳のときに10歳年上の夫と一緒に、初めて不妊症検査を受けた。精子検査で精子の数が少なく、奇形率が高いという結果が出た。診察室では夫婦の営みにも質問が及ぶ。セックスは週に何回? 月に何回? セックスの調子は? 「ちょっとしたことがきっかけで夫婦の関係が台無しになる可能性もある」とソニアは説明する。

毎朝の検温、月経サイクルの計算と緻密な分析、プログラムされた性交渉……。自発性は消滅し、セックスの悦びは再生産のための性交にとって変わる。「妊娠するためだけにセックスをしていた」と40代の彼女は言う。「そのうちに溝ができてしまった」。医療というフィールドから自分の身体を引き剥がすために、4人に1人が婚外交渉を経験していると、ヌイイ市のアメリカンホスピタルに勤務する周産期(不妊と妊娠)セラピストのデボラ・シューマンは推定する。

生殖補助医療のプロセスで、身体の私的な領域、とくに女性の身体の私的領域が手荒に扱われる。これは決して言い過ぎではない。不妊の約60%に男性が関与している(2)とはいえ、治療の中心となるのは女性なのだ。「何人の人が私の膣に出入りしたと思っているの」と、ある日ソニアは夫に言い放った。「自分がレセプタクルになったような気持ちだった」と彼女は語る。人工授精や体外受精で用いられる排卵誘発剤には副作用の可能性があり(火照り、腹部の痛み、体重増加)、治療法によっては身体的侵襲も伴う。下腹部への注射、採血、針を装着した経膣プロープで小卵胞の穿刺……。

「不妊治療は私たち自身の身体を張った闘いです」と、生殖補助医療を受ける患者や不妊症の人への支援活動を行う市民団体「Bamp!」創始者のヴィルジニー・リオは言う。彼女自身も不妊治療経験者だ。「身体が戦場になる。絶えず攻撃に晒される状況で、どうやってポジティブになれというのでしょう?」

調査会社Ipsosが製薬会社ゲデオン・リヒターの依頼で2019年2月に実施した調査では、回答者の大多数が性生活への影響があったと答え、それ以外にも、採卵時の痛み、強度の疲労感、消耗感、イライラ、気分障害を訴えている。同じ調査によると、避妊治療を受けている人の37%が治療による精神的影響を強いと評価(10段階のうち8~10)している。影響として最もよく挙がるのは、疲労、ストレス、不公平感だ。

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重苦しい日常。


日常の重苦しさで息が詰まることもある。不妊は日常的な苦しみだ。そして妊娠したいという欲望は強迫観念にもなる。Ipsosの調査によれば、生殖補助医療を受けている人の50%が毎日1度あるいはそれ以上、子どもが欲しいと考えると回答している。

子作りが生活のほかの部分を覆い隠してしまう。「避妊治療中も普通の生活を送れると思われていますが、実際はすべてを子どもというプリズムを通して見るようになる。それが世界の中心になってしまう」と、周産期コンサルタントとして不妊症の人をサポートしてきたシューマンは語る。検査の予定が先々まで決まっている状況で、カップルは良好な関係を維持するために必要な活力源をどうやって見つければいいのだろう? バカンスに出かけると治療スケジュールに遅れが生じてしまうかもれないという状況で。

「不妊治療は時間がかかるものです。患者は無傷ではいられず、自分自身やパートナーとの関係が再編されることになる」とリオは言う。だが、こうした試練に対する心構えができている人はいない。「人は病気になるかもしれないと思うことはあっても、子どもができないかもしれないとは思わない」と、前述の産婦人科医グリンベルグは強調する。「生の力の前では私たちは無力です」と話すのは、周産期専門心理カウンセラーのナタリー・ランスラン=ユアン(3)だ。「ところが逆に、私たちは子どもを欲しいと思うこと、子どもを持つことは自然で普通のことであると教え込まれているために、無力感が一層募ってしまう」

不妊治療はカップルにとっての試練だが、パートナー双方が被るダメージは同じではない。試練に直面したときの対応の仕方もそれぞれ違う。こうした受け留め方の違いから、ときに無理解が生じたり、相手を非難したり、恨みを抱くこともある。

13年の不妊治療の間、ナタリーと夫はまるで別の物語を生きていたようなものだ。彼女は10回の体外受精を経験し、5回妊娠した。そのうち3回は子宮外妊娠、2回は妊娠4ヶ月目で胎児の鼓動が止まり、終了した。ナタリーは苦しみに打ちのめされ、閉じこもりがちになった。夫は「息抜き」のためと言って友人たちと出かけていた。口論が絶えなかった。「彼は話し合うことが苦手。むしろ逃げる方を取った」と40歳になる彼女は話す。現在、ふたりは離婚している。「彼の日常は変わらなかった。彼はこのことを夫として、傍観者として経験したけれど、父親として経験したわけではなかった。私は子どもを失ったことを泣き、彼は私がそんな状態にあることを悲しんだけれど、自分には私の苦しみがよくわからないと言っていた」

子どもが欲しいという気持ちも、切実さの程度がパートナー同士まったく同じとは限らない。その場合、治療に取り組む姿勢にずれが生じることもある。「私たちの闘いというより、私の闘いでした。足並みが揃っていなかった」と31歳のマルゴーは当時を振り返る。「私ひとりで通院していました。帰宅後に彼に経過を説明していましたが、彼はだんだん消極的になっていった。別れた後で彼は、自分はいま不妊治療を始めたいと思っていない、と私に言うべきだったと認めました」

治療を開始したときから、子どもが欲しいという気持ちの強さだけでなく、その限度についても話し合う必要がある、と支援者たちはいう。子どもを持つために、私はどこまで行く覚悟ができている? 体外受精に失敗したときに、配偶子提供(卵子及び精子)を受けるのか? 養子を迎えるのか? 子どもがいない私は何者なのか? 夫婦はそれでも夫婦でいられるのか?

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話を聞いてもらう。


生殖補助医療を受ける患者への支援に携わる人たちはみなこう断言する。男女とも、カップルという密室のなかで、怒りや悲しみ、悔しさを生きなければならないことに疲れ果てていく、と。とはいえ、誰に話を聞いてもらえばいいのだろう? 多くの人が、「世界のなかで自分たちだけが孤立」し、誰からも理解されないという感覚を訴えている。これは不妊にいまだ重くのしかかるタブーと、それに伴う無理解のせいだ。

支えになってくれる身近な人々がいても、彼らも十分な知識を持っているわけではなく、支援が的外れな場合もある。医療機関での心理的なケアや事前説明の不足を指摘する人もいる。「治療が及ぼす影響について十分な説明が行われていない」と48歳のヴィルジニーは言う。「“闘いの道のり”と言うけれど、その言葉には何の意味もない。治療が順調に進まないときの落ち込みはひどいけれど、救命ボートはない」。多くの場合、患者たちはSNSを通して同じ状況にある人たちと交流したり、セラピーやグループディスカッションに参加して支え合っている。「自分とまったく同じことを感じている女性たちの話を聞くことで、自分は異常ではないと実感できた」とヴィルジニーは明かす。

「不妊治療中のカップルにとって、別れの不安は大きいものです」と、コシャン病院ポール=ロワイヤル産科病棟に勤務する臨床心理士のジュリエット・パンは証言する。自分たちを守るために、コミュニケーションは欠かせないと彼女は強調する。お互いに自分の実感を隠さず言う、自分が辛いからといって相手を傷つけないよう話し方に配慮する、どうしたらいいかわからなくなったら相手にそのことを伝える。それが15年前の最初の不妊治療中にパートナーと離別した41歳のソニアが導き出した教訓だ。彼女は現在のパートナーと人生で2度目の不妊治療を受けたが、その間、コミュニケーションを取り、治療周期が終わるたびに休憩を入れるように努めた。「カップルのために、そして自分自身のために」。「自分たちが何を目指しているのかを見失うことはなかった」と彼女は力強い口調で言う。よりソフトなアプローチの先に、幸福が待っていた。2021年にソニアは男児を出産した。

*名前は変更しています。

(1)Pr Michaël Grynberg著『Les secrets de la PMA, 100 questions pour mieux vivre ce parcours』Marabout出版刊。
(2)数字はグリンベルグ教授の著書より引用。
(3)Nathalie Lancelin-Huin著『PMA, GPA, Sous X, quelques lettres qui ne disent pas l’essentiel』Josette Lyon出版刊。

text : Ophélie Ostermann (madame.lefigaro.fr)

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