独身生活を選ぶ男性がフランスでも急増中。その理由とは?

Lifestyle 2023.02.10

長期間の独身生活を選択する(あるいは耐えている)男性の数がかつてなく増えている。女性たちの新たな要望に困惑した、自分のために生きたい……。ステレオタイプとかけ離れた彼らの本音に恋愛関係の変化の兆しが現れている。フランスの「マダム・フィガロ」のリポート。

230130-single-man-01.jpg

独身でいることを選択する男性の本音とは? photography : iStock

長期独身者という男性の新たなプロフィールが浮上している。ポールもそのひとりだ。37歳、建築家。仕事に情熱を傾ける一方、ヨットや料理、ぺドロ・アルモドバルの映画もこよなく愛する。どことなくアダム・ドライバーを思わせる風貌。わりとハンサムで、率直に言って感じのいい男性だ。ここ数年間、複数の女性と交際を重ねてきた。安定した関係を望まないのはなぜかと尋ねると、彼はほほ笑みを浮かべて「カップルはずいぶん前に試しました。大きな犠牲を払っているのに、いつもパートナーを失望させているという感覚がありました。気持ちも不安定でした。いまはひとりの方がいいと思っています。友人たちもいるし、セックスフレンドとのアバンチュールもある。それで十分」

---fadeinpager---

特別ではなく、ありふれたエピソード。

ポールのケースには心理学者のグレッグ・マトスも興味を引かれるかもしれない。アメリカやイギリスで評判を呼んだある記事のなかで、長期間独身の異性愛者の男性の数が、欧米では30年前と比べてかなり増えているとマトスは主張している。その論拠は、こうした男性が出会い系アプリの利用者の62%を占めるという事実だ。だが、「出会い系アプリで男性の利用者の方が多いのは、安定した関係を求める女性たちのなかに、こうしたアプリをよいパートナーを見つける手段とは考えず、セックスを目的としたその場限りの交際と結びつけてる人多いからです」と社会学者のクリストフ・ジローは分析する。

要するに、女性たちは出会い系サイトをまったく、というと語弊があるが、あまり利用しない。したがって、出会い系サイトの数字だけに目を向けると、事態を単純化してしまうことになる。他の統計をみれば、実際には、全年齢層における独身者の男女比はほぼ半々だということがわかる。とはいえ、マトスの手法には議論の余地があるとしても、その分析は現代の独身男性について、いくつかの興味深い問題を提起している。

30年の間に「独身」という言葉の意味そのものも変化した。平均寿命が延び続ける中、独身は特別なことではなく、ひとつのエピソードとなっている。長い間「独身男」と呼ばれてきた彼らに対する風当たりもいまやそれほど強くはない。「長期間独身の男性といっても、もはや性生活が貧しいということでもありません」とジローは付け加える。「独身でもアバンチュールの機会を持つことは可能です。この自由は本人が望んでいるものです。人との出会いが苦手な人ももちろんいます。極端な例では“インセル”がそうです。インターネット上で女性嫌悪を吐露する男性たちのことで、彼らは自分にセックスライフが不足しているのは女性のせいだと考えている。特にアプリなどを介して出会いは簡単に手に入ると約束する社会で、彼らはそれが叶わないためにフラストレーションを抱えて生きています。しかし、こうした人は少数派です」

---fadeinpager---

コミュニケーションの再考。

長期間独身の男性の数が増えている理由として、心理学者のマトスはカップルの関係において女性の要求の標準値が上がっていること、また男性のコミュニケーション能力の未熟さ、という2点を指摘する。詳しい説明を求めると、次のような回答が返ってきた。「私が伝えたい主なメッセージは、男性の側に感情的連結のための道具が不足しているということです。現代の独身男性は重要な転換期に生きています。男性性の価値が大きく変容し、同時にジェンダー間の役割の見直しがなされている真最中ですから」

実際に、フェミニスト運動の新たな流れやMeToo運動のような動き、垣根のない精神を持った若い世代の台頭は、規範的なジェンダー観だけでなく、女性の要求自体を変えることにも貢献した。性的同意、平等、耳を傾けること、家事分担。メディアが広めるこうした概念以外にも、彼女たちは新たな具体的要求を次々と並べる。「女性たちは男性が精神的に自立することを期待しています。ママや心理学者や看護婦の役目をするのはもう嫌だと思っている」と、『Libido Land’s Map. Les cartes d’amour du sexe(リビドー・ランズ・マップ。セックスの愛の地図)』(コンプリシテ出版)の著者で性科学者のドミニク・ルフェーヴルは言う。こうした変化に直面して、中にはポールのように、「いまの男女関係はプレッシャーが強すぎる」と困惑する男性もいる。

心理学者のマトスが指摘するコミュニケーション不足についてはどうか。彼の意見では、30代以上の男性たちは、男性にとっての成功の場は個人的な私的領域にはないという考え方のなかで育ってきたことが一因だという。「女性たちがカップルにより多くを期待するのに対し、男性たちは社会的地位という面で自分自身により高い要求を課します。したがって男性は感情面での成功に女性ほどエネルギーを傾けません」と、『Quand la peur de perdre l’autre……me fait le perdre!(相手を失うという恐怖が、かえって相手を去らせる!)』(チュー出版)の著書がある心理学者のヴェロニク・コーンは分析する。

こうした分析に35歳のカリムは自分と重なる部分があると言う。「これまで交際が長続きしたことはありません。僕は自由であることに慣れています。女の子たちからは、熱意や気遣いが足りないとよく責められます」。多くの男性が自分の感情はある程度胸の内に留めておくべきだと教えられてきた。あたかも感情を表に出すことは一種の脆弱さ、あるいは弱さの表れであるかのように。この考え方は教育やポップカルチャーを介して、世代を越えて広く受け継がれてきた。何十年もの間、映画やテレビドラマは、「本物の」男たるもの、自分の感情についていつまでもぐずぐず言うものではない、自分の感情の細部にいちいち拘泥することは女性的で、ゆえにネガティブなことだと繰り返し言い続けてきた。ただ、こうした旧弊なものの見方は女性たちの欲望ともはや完全にずれている。

---fadeinpager---

幸福、個人的な探求。

国立統計経済研究所によると、フランス人の40%が独身だという。すなわち26~65歳の5人に1人だ。一度もカップル経験がない人は男性の30%に上り、女性の13%に比べて多い。その理由は?「幸福の定義の変化に伴い、夫婦生活についての認識も変化している」と前述のコーンは言う。幸福の追求はより個人的なものになりつつある。その結果は?「苦労が伴うカップルという形態を敬遠する人が増えている。なぜならそれが自分の個人的な喜びの追求に影響を及ぼすのが嫌だからです」と彼女は続ける。

自由は独身男性たちがしばしば口にする言葉だ。自由を犠牲にするからには、パートナーはいくつもの条件をクリアしていなければならない。自分が求める条件に文字通りチェックを入れる出会い系アプリの影響か? 個人主義へと駆り立てる時代のせい? 原因が何であろうと、否定し難い事実がここにある。「非カップル生活は規格外の生活?現代フランスにおける独身という経験」と題された調査によると、「自分の自由を確保する、責任を負いたくない」という理由で独身を選ぶ男性が50%に上るのだ。

また、この調査によると、男性たちはカップルという関係を、日常におけるある種の気ままさや自発性を阻害するものと見なしている。「社会は変わった。いまはもう生きて行くのにカップルである必要はない。何でもひとりでできる」と27歳のユゴーは断言する。「ひとりでいるのは選択です。素晴らしい交際を経験したこともあります。でもいまは自分の人生を生きたい。妥協を強いられたくない」。キャリアアップを目指す時期でもあり、誰に対しても申し開きせずに仕事をし、ハメを外すときも思い切り楽しみたいという。

---fadeinpager---

一緒、でも別々。

なぜなら人生をふたりで分かち合うことは、依然としてひとつの目的地ではあるが、もはやそれほど夢を与えてくれるものではないからだ。経験のある人にとっては特に。「ロマンチックなカップルという幻想が破綻し、独身のままでいる方がいいと思わせているのかもしれません」と心理学者のコーンは推測する。「制約や要求を予見しているのです」

長期独身者のカリムは、周囲のカップルたちを見ても「羨ましいとは思わない」。結婚を決める前によく考えたほうがいいと友人たちから忠告されると可笑しそうに話す。いつか心から愛する人と出会えたら嬉しいが、それでも自分のためだけの時間は確保したいと彼は言う。「たぶん僕は変わっているのでしょう。でもそうなったら、自分の部屋、自分だけの場所が欲しいと思うに違いない」

自分の空間を確保したいというこの欲望は、字義通りにせよ比喩にせよ、多くの人が抱いているものだ。独身者の67%が別離やPACS*解消、離婚の経験者だ。とくに40代になって彼らが再び家庭を持つときも、ふたりで一緒に住むことを選ばない場合が多い。彼らは共に何かを構築することより、良質の時間を共有することの方を好んでいる。「平等を求める女性たちの思いがこの非同棲という発想にも現れています。それぞれがそれぞれの領域を持ち、それぞれが自分の所有物を管理するということです」と社会学者のジローは分析する。「役割分担も共同作業もない。子供がいても、自分の子どもの面倒をそれぞれが見る。一種の快適さのために同居を望むような男性は失望するかもしれません。なぜなら、いくら男性たちが努力をすると言っても、女性たちはいまでも毎日4時間家事を引き受けているわけですから。それに対し男性たちは2時間です」

古い概念を覆すのが好きなZ世代(いまの20代)はどうかというと、代替モデルを検討したり、独占的関係のようなテーマについて問い直しを始めている。「Z世代の男性たちはいま人生の極めて特殊な段階にいます」とジローは言う。「彼らは親の世代に比べて、保守的ではない構図も抵抗なく受け入れます。例えば、同時に複数の人と誠実な恋愛関係を持つ”複数恋愛”を試す人たちもいます」。年齢や世代に関わらず、長期にわたって自由を追求することには、独身歴が長くなるほど孤独というリスクが高くなるという裏の面もある。

*PACS : 性別に関係なく、成年に達したふたりの個人の間で、安定した持続的共同生活を営むために交わされる契約のこと。関係解消の際のお互いの合意は必要なく、どちらか一方が届け出れば成立する。

text : Elvire Emptaz (madame.lefigaro.fr)

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

いいモノ語り
いいモノ語り
パリシティガイド
Business with Attitude
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories