アートを愛でる香港旅 好奇心を刺激する「香港故宮文化博物館」の魅力。

コンテンポラリーアートが世界的に人気を高めている昨今でも、時を超えていまの世に伝わるクラシックアートの魅力は衰えることはない。東洋と西洋、ハイ&ロー、モダンとクラシックなど、相反する要素が融合した文化を特徴とする香港ならではのアート体験として、ぜひおすすめしたい魅力あふれる新スポットが「香港故宮文化博物館」。

2022年夏に、前回の「M+」と同じ西九龍文化地区に誕生したこの博物館は、中国に伝わる無数の宝物を収蔵することで世界的に知られる北京や台湾の故宮博物院が、ついに香港にも開館したもの。

北京の故宮博物院は、清王朝の宮殿であった紫禁城を1925年から中国王朝に伝わる約180万点の宝物を収蔵する博物館として一般公開したことから始まる。建物自体がユネスコ世界遺産に登録されているため、設備の改修や近代化には厳しい制限がある。

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西九龍文化地区に建てられた香港故宮文化博物館。総面積30000㎡、展示面積7800㎡と大規模。対岸の香港島の景色が見事。photography: Miyako Kai

一方、香港故宮は未来に繫がる博物館として設計された専用建築であるため、最先端のマルチメディアや、デリケートな宝を傷めない最新鋭の展示設備などを駆使。北京の故宮に長年収蔵されていたけれども、展示中の品質維持の難しさから一度も公開されたことがなかったコレクションも、香港に来ているとか。

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ストーリーと体験が持つ吸引力

北京故宮から厳選した914点の宝を収蔵品の核として、9つのギャラリーから構成されている香港故宮の魅力と見どころについて、香港故宮文化博物館のデイジー・ワン副館長にじっくり話を伺った。

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香港故宮文化博物館キュレーションおよびプログラム担当副館長のデイジー・ワン博士。米国スミソニアン美術館など世界の一流美術館で、中国古典美術キュレーションのスペシャリストとして活躍。2019年より香港へ。photography: The Hong Kong Palace Museum

「香港故宮最大の特徴は、中国の歴史や古典美術の知識や興味がない人でも、好奇心を刺激され楽しく過ごせること。そのために『ストーリー』を軸にした展示内容を重視しています」とワン副館長。「香港故宮のお披露目として、ギャラリー1では、故宮にまつわる代表的な宝をたっぷり展示していますが、ギャラリー2では、かつて宮殿で、皇帝がどんな毎日を送っていたのかをテーマにしていて、とても好評です」

 

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『音楽の響く中を歩く12人の美女』と題され、絹をキャンバスにして描かれた清の康熙帝または雍正帝の時代(1709~1732)の美人画は、繊細なディテールに魅せられてしまうはず。photography: Palace Museum

1644年から267年間続いた清王朝では、栄華を極めた乾隆帝を始めとする10人の皇帝、20人以上の皇后が紫禁城で暮らしていた。「皇帝ともなれば、優雅な暮らしを想像しますが、実は毎朝4時起床で、一日中広大な領土の各地からの陳情を処理して大変多忙な日々を送っていました。そんな毎朝のルーティンの紹介として、たとえば彼の衣装や装飾品の展示とともに、従者が数人がかりで帽子をかぶせたり、靴を履かせたりという再現映像や、現在の香港人も大好きな火鍋など、彼の日頃の食生活を見せるアニメーションなどを取り入れています」

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皇帝の身につけた装飾品の横では、着替え再現ビデオが流れる。こちらは靴を従者が履かせているところ。photography: Miyako Kai

そんな日常生活を垣間見るとともに、乾隆帝が母親の誕生日をどのように祝ったかを見せる展示や、愛妻の死を悼む詩を幻想的な映像とともに流すコーナーなどを体験するうちに、遙か昔の殿上人が、自分と同じ人間として身近に感じられてくるのが新鮮だ。

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寝転んで詩の朗読と映像に没入できる設備もギャラリー内に。photography: Miyako Kai

「実はこのストーリーを重視した展示は、10年ほど前に日本各地を巡廻した『故宮博物院展』で、かつての宮廷での人々の暮らしをテーマにしたのが知的好奇心を刺激すると好評で、100万人以上が訪れたという大成功を収めたことにヒントを得ました。もちろん香港故宮では独自の展示を作っていますが、日本の皆さんもきっと楽しんでくださるはずです」

キッズ連れのファミリーや制服姿の中高生が楽しむ姿が多く目に入るのが、館内に複数ある体験型展示。「書道や陶磁器の絵付けを、デジタルで体験するコーナーがとても人気です。開館前に想定した来場者の滞在時間は1時間程度でしたが、その後の調査でなんと4~6時間も滞在する方が多いことが分かったのは、うれしい驚きでした」

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孫が祖母の車いすを押して回っている姿も目に入ってほほえましく、三世代で一緒に楽しめる文化施設として地元で愛されている。photography: Miyako Kai

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圧倒的な美を愛でて知識を深める

貴重な宝と知的好奇心をそそる多角的な説明の組み合わせは、香港故宮全館に共通した特徴だが、ギャラリー3~5ではそれぞれ「陶磁器」「肖像画」「工芸品」を徹底的に深堀りしている。

「古代の殷から清までの国宝級の陶磁器が集結しており、デザインや色彩などの変遷を学ぶこともできます」とワン副館長が語るギャラリー3は、陶磁器が好きな方にはまさに目の保養。何百年も前に作られたとは信じられないような、スタイリッシュで完成されたうつわの数々には驚くばかり。

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宋王朝(960年~1279年)時代に白磁で作られた可愛らしく寝転んだ童子像。photography: Miyako Kai

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明王朝時代の15世紀に景徳鎮で作られた磁器。白地に藍色を載せたデザインが日本に伝わり、染付が生まれる。photography: Miyako Kai

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リボンとコウモリという不思議な組み合わせは、コスモポリタン色の強い清王朝の乾隆帝時代の作。photography: Miyako Kai

ギャラリー4はまさに香港故宮ならではの内容で、展示される美術品は皇帝と皇后の肖像画とスケッチの3点のみながら、ひたすら肖像画にまつわる歴史背景や文化をテクノロジーを駆使して徹底的に探るというもの。

「ギャラリーの最後には、自分の顔を肖像画にはめた写真を持ち帰ることができる楽しいコーナーも設けていますので、ぜひお試し下さい」とワン。

繊細で美しい工芸品に目のない方には至福の場所なのが、ギャラリー5。香港の有名アーティストであるスタンリー・ウォンがアートディレクションを担当していることで、ほかのギャラリーとはまったく異なるモダンな個性が発揮されている。

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黒い背景でモダンに映えるガラスの壺は清の時代のもの。photography: Miyako Kai

「壁と床をすべて黒くすることで、小さく繊細な展示品が際立つようになっています。さらに、伝統工芸品を手がける職人へのインタビューや制作風景、伝統工芸に影響を受けた香港を代表するデザイナーたちへのインタビューなどをまとめた、スタンリー本人が製作したドキュメンタリー映画がギャラリー内で印象的に流されていて、多くを学び感じる展示になっています」

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ギャラリー5で流れるスタンリー・ウォン作の映画。photography: Miyako Kai

ギャラリー6と7は、香港故宮独自のコレクションを数多く展示している。
「特にギャラリー7は、古典美術は一切ないかわりに、書道をするロボットや宮廷音楽に影響を受けた電子音楽の演奏、伝統工芸品の3Dプリントのインスタレーションなど、過去と未来を繫ぐ実験的で多彩な内容です」

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絶対に見逃せないバラエティ豊かな特別展示

とても1回の訪問では周り切れない香港故宮の中で、「来るたびに必ずチェックしてほしい」とワン副館長が力説するのが、期間限定の特別展示を行うギャラリー8と9。

「一生に一度しか見る機会がないかもしれない、世界各地の最高峰の美術館からの門外不出のコレクションが公開されることもあるほか、世界を巡廻する企画展でも、香港故宮ならではのキュレーションで斬新な視点を楽しめるはず」

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『真珠を追うドラゴンの王冠』明(1368年~1644年)。世界的な金工芸品コレクターのMengdiexuanより寄贈。香港故宮文化博物館収蔵品。photography: The Hong Kong Palace Museum

2023年は、香港故宮自らのコレクションである紀元前18世紀まで遡る古代中国の貴重な金工芸品を展示する華やかな「ラディアンス」、カルティエの名品の背景にいるキーパーソンであった女性たちにスポットライトをあてる企画『カルティエと女性たち(Cartier and Women)』や、香港故宮が収蔵を進めている古代中国の金工芸品、世界の考古学界で20世紀最大の発見のひとつと言われる四川省で発見された3000年以上前の文明を示す三星堆遺跡の展示(『三星堆の釉薬(The Sanxingdui Glaze』)など、盛りだくさんの内容を準備しています」

香港故宮全体の核となるのは中国美術と歴史だが、「故宮の歴史は、乾隆帝の姿勢を反映して、コスモポリタンでオープンマインド。東西に関わらず、世界最高峰の美術品を見せる場となるとともに、東西や過去と未来の架け橋となるのが、香港故宮の大切な使命なのです」

博物館全体から、中国美術の素晴らしさを伝えたいという情熱と細やかな愛情を感じさせる香港故宮文化博物館を、ぜひ訪れてほしい。

 


香港故宮文化博物館
West Kowloon Cultural District, 8 Museum Drive, Kowloon, Hong Kong
https://www.hkpm.org.hk/en/home
 

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香港故宮文化博物館の後に行きたい!
チャイナカクテルをゆったり堪能―Darkside

香港故宮で悠久の美を堪能した後は、少し足を延ばして、文化の香り豊かなカクテルでリラックスしてみるのはいかが?

2019年オープンのローズウッド香港と言えば、30代でローズウッド ホテル グループを創業した女性CEOソニア・チャンの持つ、新世代リッチの感覚がすみずみまで行きわたった、見たことのない水準の豪華さにあふれたホテル。その中にある大人の雰囲気が漂うバー「ダークサイド」は、2022年版アジアのベストバーで13位にランクインするほどの人気と実力を兼ね備えている。

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幻想的でシックなインテリアに、ビクトリアハーバーの絶景が華を添える。ダークサイドという店名は、香港島と比べて洗練されていない九龍半島側と揶揄する時に使う隠語を連想させておもしろい。photography: Miyako Kai

香港故宮の余韻を楽しみたいときにぴったりなのが、特別メニュー「マージャン」。香港や中国ならではの食材や文化をたっぷり取り入れた10種類のオリジナルカクテルは、ビジュアルも味も一級品。グラスは全て香港で数少なくなった吹きガラス職人に特注したもの。

人気ナンバーワンという「ウィンター」は、伝統的なサツマイモと生姜のデザートスープ「番薯糖水」のオマージュ。少しずつ口の中で異なる風味と香りが広がって溶け合う複雑性と、文句のないおいしさ、親しみやすさが共存した技ありのラムベースカクテルだ。

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自家製サツマイモキャンディが添えられたカクテル「ウィンター」。グラスに付けられたメタルの装飾は、店名や絵柄を切り抜いてある香港で伝統的なシャッターをイメージしている。photography: Miyako Kai

こちらも伝統的な菊茶をベースにした「クリサンセマム(菊)」は、菊の花びらを漬け込んだコニャックベースのカクテル。ミルクとクエン酸を加えて凝固させた部分を取り除き、透明に仕上げるミルクウォッシュという技法を使っているので、かすかにまろやかな口当たりに菊の優しさも感じられて、優雅で寛げる一杯に。

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ひと筋縄ではいかない爽やかさが魅力の「クリサンセマム(菊)」は、菊の花を模した麗しいグラスに。奥はクラシックカクテルのオールドファッションドをベースにした緑茶のカクテル「バンブー」。photography: Miyako Kai

この後、同ホテル内の広東料理店「レガシーハウス」、予約至難のインド料理店「チャート」、極上のステーキハウス「ヘンリー」などの超人気レストランでのディナーに向かってもいいし、バーの中で美味なるスナックを軽めの夕飯がわりにするのもいい。

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コロッケの生ハム添えやサンドイッチなどの軽食も、最高級ホテルならではのしっかりとしたおいしさ。photography: Miyako Kai

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カクテルメニューには、有名な職人にオーダーした特製麻雀牌が。ゲーム感覚で、サイコロで出た数字のカクテルをオーダーするのも一興。photography: Miyako Kai

知的な刺激をたっぷり受けた1日の締めくくりにふさわしいひとときになるはず。

 


Darkside
Rosewood Hong Kong, Victoria Dockside, 18 Salisbury Road, Tsim Sha Tsui, Kowloon, Hong Kong
https://www.rosewoodhotels.com/en/hong-kong/dining/darkside
 
取材協力: 香港政府観光局 http://www.DiscoverHongKong.com

香港政府観光局では「ハロー香港」プロモーション実施中。
香港旅行をよりお得に楽しめる旅行者向け特典バウチャー「香港グディーズ」を配布中です。(2023年2月24日現在)
https://www.discoverhongkong.com/jp/deals/hkgoodies.html
※香港グディーズの配布は先着順となり、予定数に達し次第配布終了となります。

 

第一回目: 新しい香港の顔! アジアの現代美術館「M+」へ

text: Miyako Kai

2006年より香港在住のジャーナリスト、編集者、コーディネーター。東京で女性誌編集者として勤務後、英国人と結婚し、ヨーロッパ、東京、そして香港へ。オープンで親切な人が多く、歩くだけで元気が出る、新旧東西が融合した香港が大好きに。雑誌、ウェブサイトなどで香港とマカオの情報を発信中のほか、個人ブログhk-tokidoki.comも好評。大人のための私的香港ガイドとなる書籍『週末香港大人手帖』(講談社刊)が発売中。

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