修道院の暮らしとものづくり モン・サン・ミシェル修道院のシンプルライフが語ること。

Lifestyle 2023.03.17

フランスでゲストハウスを経営しながら、家具やインテリアのデザイナー、そして料理スタイリストとして多彩に活動しているローランス・デュ・ティリーは、コロナの第1波が落ち着いた頃、癒やしを求めてリトリートに訪れたモン・サン・ミシェルの修道院で、エルサレム修道院友愛会の修道女たちの暮らしに魅了された。他者をもてなし、喜びと祈りに満ちたシンプルライフを彩るのは、とてもおいしい料理の数々! この出会いから一冊の料理本『Mont Saint-Michel, à la table des sœurs(原題訳:モン・サン・ミシェル、修道女たちのテーブルで)』が生まれた。

修道女たちのレシピはどれも味わい深くて美しい。観光客の喧騒から遠く、誰も知らないモン・サン・ミシェルは目も心も満たされる素敵な場所。ローランスに、この本が生まれた背景について聞いた。

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モン・サン・ミシェルのふもとで散歩をするシスターたち。

-料理スタイリストであるあなたがどのように修道院の料理にたどりついたのでしょう?

話せば長くなります。10年前にパリを離れました。時間に追われる生活にストレスを感じ、人生を見つめ直したかったのです。フランス北部ノルマンディー地方のカーンに移住し、ゲストハウスを始めました。お客様が寛ぎながらリフレッシュしてもらえるような宿を目指しました。その後、別館も海から15分のところにオープンすることができました。でもロックダウンですべての計画が狂ってしまったのです。みんな同じ思いだったでしょうけれど、洗濯機の渦に巻き込まれてぐるぐる回されたような、そんな気分でした。立ち止まって事態を把握する必要がありました。モン・サン・ミシェルにあるシスターのコミュニティーがリトリート希望者を受け入れていることは昔から知っていました。幼なじみのひとりが一時期、修道院長だったので。彼女がいた間は一度も会いに行かなかった、というよりも自分が会いにいく時間を作らなかったのですが。でもこの地を訪れる機会があるたびに、修道院から美しい合唱が聞こえてきて、いつかはここでリトリートしたいと思っていたのです。こうして2021年3月、私はエルサレム修道会友愛会のシスターたちを訪れ、4日間滞在しました。

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モン・サン・ミシェル修道院をエルサレム修道院友愛会が守るようになって20年以上経つ。ふたつのコミュニティ(シスター6名、ブラザー5名)が暮らす場所は明確に分かれているが、勤行は分担し、合唱を一緒に行う。

-すぐにシスターたちと食卓を囲むようになったのでしょうか?

実のところリトリートにやってきた人は、(修道院外にある)サンタブラハム棟に滞在します。ただ、希望すればシスターのお手伝いもできます。掃除や野菜の皮むき、畑の手入れなどをして、食卓を一緒に囲む時もあります。シスターたちは交代で料理や給仕の当番をしているのです。シスターたちには一瞬で魅了されました。気取らず、生きる喜びと奉仕の心にあふれ、おもてなしの心が素晴らしい。シスターたちに出会えて本当によかった。それに料理がとてもおいしいのです! 心を込めて作られていて、限りない優しさと相手への気遣いが感じられます。沈黙を守りながらも笑顔で提供してくれて、本当に感心します!

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-本を作るにいたったきっかけは?

ある晩、食器を片付けた後の談話室でシスターに、いま食べた野菜料理のレシピを教えてもらえないか、聞いてみました。いかにおいしかったかを伝えるため、「料理スタイリストとしてたくさんの料理本の制作に関わってきましたが、こんなにおいしい料理は初めてなので」と言いました。すると、私が何かすごいことを言ったかのようにシスターたちが目をパッと輝かせたのです。そして口々に「求めよ、さらば与えられん、だわね」「神は私たちの声を聞き届けてくださった」と言い始めました。それから私に向かい、「何年もリトリートに来てくれているノエルという女性から、本にすべきだと常々言われていたのです。だからレシピをまとめ始めたものの、どうすれば出版できるのか、途方に暮れていたところでした!」と説明してくれました。出版の仕事はもうしないことにしていたのですが、お手伝いしようとすぐに決心しました。そしてアシェット社に企画書を出すと即決したのです。

-修道女たちの暮らしを妨げないために、どんな工夫をしましたか?

写真家を呼んできて次々に料理を撮影なんてやり方は論外でした。シスターたちに提案したのは、私自身で写真を撮ることでした。自分としても初体験だったのですが、なるべく邪魔にならないよう、スマートフォンで撮ることにしました。1年を通して季節ごとに通いました。朝7時の賛課に始まり、18時半の晩課、20時半の礼拝、合間にはリトリートに訪れる人たちの出迎え、料理の準備、庭仕事などシスターの1日は忙しいのです! そして月曜日は仕事をせず、客と会わず、祈りに没頭します。シスターたちは提案を受け入れてくれ、私は1年間、2カ月おきに修道院で4日間を過ごしました。毎回食事を共にし、日課に参加し、厨房に一緒に入り……シスターたちの日常に溶けこみました。おかげでとても美しい瞬間を捉えることができました。演出やスタイリングは一切ありません。すべてが本物で自然で、まさにシスターたちの本なのです。私が行くたびにシスターたちは全員で写真を選びました。「これはいいわね」「これはあんまり私たちらしくないわ」などと言ってきたシスターたちの選択を全面的に尊重しました。

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有名な巡礼地であるこの修道院には毎年100万人が訪れる(モン・サン・ミシェル島を訪れる観光客は400万人)。修道院生活は祈りと労働(特に段々畑の手入れ)、訪問客の応対の日々だ。

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-山の上で暮らすシスターたちはどのように食材を入手しているのでしょう?

想像しづらいかと思いますが、朝押し寄せて夜去っていく観光客を除けば、モン・サン・ミシェルの住民はシスターやブラザーを含めてたったの30人です! そして土産物店以外、お店もありません。献立はいつもシスター全員で決めて週に一度、シスター・エミリーが献立表にまとめ、水曜日の朝にシスター・イヴマリーが車で買い物に出かけます。買い物から戻ると買ったものを全てカゴに入れて修道院の西側テラスまで引っ張り上げます。そこからは全員で列を作り、リレー式で荷物を片付けていきます。100段の階段を登り、数段降りれば貯蔵庫やキッチンにたどり着きます! 毎週の買い出しのほか、いただきものも多いのです。湾で採れた海藻、リンゴひと箱、ハチミツ等々……卵はモン・サン・ミシェルのオムレツの名店レストラン、ラ・メール・プラールに納入している生産者が寄贈してくれます。また、修道院の段々畑でハーブやイチゴ、バーベナ、ロケットサラダ、トマトなどを細々と育てています。もちろん、極力食材は無駄にしません。スイスチャード(フダンソウ)は丸ごと使い、ルッコラの収穫量が多い時はパスタソースにして使い切ります。それでも生ゴミが出るとコンポストに入れます。

-シスターはなぜみな料理がとても上手なのでしょう?

私がいちばん感銘を受けたのは、みんな若々しく、喜びにあふれていることです。最年長のシスター・ナタナエルは昔カカオ豆のトレーダー(!)だったそうで、ちょうど60歳です。最年少のイヴマリーはまだ25歳です。平均年齢は30歳。シスターたちはいつもにこにこしていて楽しそう。そしてみんな料理が大好きなんです! 宗教団体としては珍しく、全員が食事の支度に参加します。シスター・エミリーは何年もイタリアで過ごした経験があり、料理に情熱を注いでいます。彼女の作るお菓子のフロランタンは絶品です。マザー・クレアは昔医者だったそうで、料理はそれほど得意ではないそうですが、当番の時にはとてもシンプルな料理を作り、それはそれでおいしいのです。シスター・イヴマリーはパン作りの名人です。彼女が作る「ミクロ」という名のホタテ貝の形をしたサブレは修道会のショップで大人気です。また、シスター・ナタナエルはソースを作ったり、素敵な花束を作ったりしながら神学の話をしてくれます。誰もが美意識を自然に身につけています。料理をおいしく美しく作ることは相手を気づかうことにつながります。この本を作るにあたって大変だったことはただひとつ、何百ものレシピの中からたった50しか選べないことでした!

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『Mont Saint-Michel, à la table des sœurs(モン・サン・ミシェル、修道女たちの食卓で)』
Laurence du Tilly著、撮影 Hachette Cuisine出版刊
240ページ、28 ユーロ
※写真はすべて同書より

text: Marie-Catherine de La Roche photos : Laurence du Tilly/Hachette Cuisine

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