「こんな人生のはずじゃなかった」40代を迎えるカップルの危機とは?

Lifestyle 2023.07.27

「40代は青春の老年期」とはヴィクトル・ユーゴーの名言だ。40代前後で程度の差はあれ、すれちがいを感じはじめるカップルは多い。

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結婚式はもう昔のこと、子どもがいなかった時期のことも忘れかけている。illustration: Getty Images

「妻はもうただの同居人。仲は悪くないけれど、育児と仕事の比重が大きすぎて......」38歳のシャルル(仮名)が今の妻と一緒になって10年以上経つ。だが、楽しかったのは最初の数年だけ。徐々に忙しくて退屈なだけの日々となった。「妻のことはよく考える。本当にこの人でいいのだろうか。別な人生があるんじゃないかって」とシャルルの悩みは尽きない。

現在4歳と9歳の男の子2人が生まれたことも一因だ。「ふたりきりで夜を過ごすことなんて滅多にない。結果として性生活も影響を受ける!」

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無視してはいけないサイン

こうした変化にとまどっているのはシャルルだけではない。40代を迎えて多くの人が多少なりとも悩むようになる。結婚式はもう昔のこと、子供がいなかった時期のことも忘れかけている。家庭では教育問題の比重が大きくなる。親になって初めて直面するのは自分の家族観だ。自分がどのように育てられたか、そして子どもに何を伝えたいか。思いがけない部分で夫婦の価値観の違いが衝突する。子どもたちが幼いと見守りも必要となり、家族で過ごす週末はあわただしい。会社でも、責任のある仕事を任されたり昇進したりで時間が取られるようになる。

「夫婦生活はないがしろになり、ふたりの時間を作ろうともしなくなります。ただ家事を分担して義務を果たすだけ」

フランソワ・ルロール(精神科医)

「40代は大変な時期です。仕事は忙しく、家庭でもやることが多い。子どもが成長してプレティーンやティーンになれば大変さはさらに増します」と言うのは、『Les Nouvelles Personnalités difficiles(原題訳:新・気難しいパーソナリティ)』(Odile Jacob刊)を共著した精神科医のフランソワ・ルロールだ。人生これでいいのかという焦りに加え、家庭内での役割分担が不均衡な場合、その精神的負担も加わる。多くの場合、負担に感じているのは妻だ。妻も40代を迎えて仕事が大変になっているのに、家事の72%、子育ての65%を依然として担っており、フランス国立統計経済研究所(INSEE)の調査では夫よりも毎日平均1時間半多く働いている。摩擦を生むには十分な状況だ。

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魅力的でなくなること、日常に埋没することが怖い

実際、40代になると生活は一変する。ふたりでその日の出来事を語りあうロマンチックなディナータイムが、テレビを観ながらのだらだらタイムに変わる。「相手に性的魅力を感じなくなることもあります。一緒に過ごす時間を確保する努力もしなくなり、カップルというよりただ家事を分担して義務を果たすだけの関係に陥ります」と精神科医のフランソワ・ルロール。

昔のようにふたりでイチャイチャしたいわけではない。でも、空気のような存在と思われるのは悔しい。それにしても、自分はまだ魅力的なのだろうか。恋愛なんてできるのだろうか。オンラインフォーラムはそんな思いを抱く人々の言葉であふれかえっている。たとえば「妻が浮気している。彼女の言い分だと、まもなく40歳というシチュエーションのせい、魅力的でなくなって日常に埋没することが怖いからだそうだ」とか、「今の相手と暮らしはじめて15年。7歳と11歳の子どもふたりがいる。波長の合う男性と巡りあって素敵な人生を過ごすチャンスを逃している気がする(中略)。安定した人生なんてつまらないと思う自分は第二の反抗期?」等々。

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中年の危機

35歳を過ぎると多くの人に心境の変化が訪れる。これまでの人生を振り返り、これでよかったのだろうかと思い悩むのだ。カナダの心理学者エリオット・ジャックスが1963年に提唱した「中年の危機」だ。その裏にある心理は、「もう今しかない、手遅れになる前にすぐ行動を起こさなくてはという焦り」だと精神科医のフランソワ・ルロールは言う。まるで今が人生を変えるためのラストチャンスで、カウントダウンがはじまったかのように。

「40代を迎えて若い頃の夢が実現していないこと、人生が必ずしも思い通りにならないことに気づく」

フランソワ・ルロール(精神科医)

結果として思いがけない行動に出る人もいる。離婚、転職、海外移住......これまで広告業界で順調にキャリアを積んできた40代の女性が突然、仕事を辞めて陶芸家になったり、理想的な夫が家庭を捨てて「第二の青春」を謳歌しはじめたり。それもこれも「40代を迎えて気づくからです。若い頃の夢が実現していないこと、人生が必ずしも思い通りにならないことに。それが引き金となって中年の危機が訪れるのですが、誰もがそうなるわけでもありません」とフランソワ。

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冒頭で紹介したシャルルは、「5年近く」も違和感を抱き続けてきた。自分に言い聞かせようとしたがどうにもならなかった。人生をやり直したい気持ちが強くなりすぎたのだ。「同僚の女性を好きになったことが引き金となりました。人生は一度きり、大切にしたいと思うようになったのです。もう90%ぐらい心は決まっています。クリスマスシーズンが過ぎたら妻に別れを切り出そうと思っています。一年以上ひとりで考えてきました。妻に不満を訴えても無視されるだけでした」と二児の父親は言う。コロナ禍の影響もあった。「コロナで背中を押された面もあるかもしれません。明日死ぬかもしれない。だから決断したほうがいいと」

精神科医のフランソワ・ルロールによれば、中年の危機には悪い面ばかりでもないそうだ。「確かに困難な時期ですが、それが必要な場合もあり、うまく乗り切る人もいます。危機に陥った夫婦が全員別れるわけでもありません。仕事で行き詰まった時に転職だけが解決策ではないのと同じです」

text: Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

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