体重コントロールができない女性は出世できない?

Lifestyle 2023.12.03

ボディポジティブの時代であっても仕事の世界は別なのだろうか。ある研究によると、女性の体重と収入には相関関係があるそうだ。ひとつの社会集団に帰属する証として、また自己管理能力のある証として、体重は女性のキャリアパスの一要素となっていると言わざるを得ない。

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女性の体重が10%増えると収入が6%減るという研究結果がある。photography : Getty Images

エミリー・チャールトンには野心がある。念願の業務を手にするためにずっと頑張ってきた。それは編集長に同行してパリのファッション・ウィークへ行くという、編集部の誰もが憧れる業務だ。雑誌のイメージを壊さないためにはサイズ34の服を着て素敵にならなくちゃ。そのため、エミリーは常にお腹を空かせている。ところが土壇場で事故に遭い、サイズ38の同僚が急きょ代役を務めることに。エミリーは悔しさのあまり、こうつぶやく。「炭水化物を食べているあんたなんかには不釣り合いよ」

これはデヴィッド・フランケル監督の映画『プラダを着た悪魔』(2006年)のワンシーンだ。誇張された話のように思えるかもしれない。しかし、ラグジュアリー業界で会社社長としてやってきたエリザベスに言わせると、業界内で似たような話はあり、この作品は「過酷な」世界を非常にリアルに描写しているそうだ。エリート主義のグローバル企業で女性が昇進して成功を手にするには、自分の体重コントロールぐらいできなくては。パリ、ロンドン、ロサンゼルス、ニューヨークを飛び回っている50代のエリザベスは、「移動中はできるだけぐっすり寝るようにしています。体重が1グラムも増えないように」と当たり前のように言う。それはつまり、時差の関係で食事を2回食べてしまわないよう、そして何よりも機内食は食べないようにするということだ。

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体重が気になる

8kgの減量に成功してから1日おきの断食(ファスティング)ダイエットの信奉者になったエリザベス。食物(常に新鮮でヘルシーな、未加工の食品)の摂取をコントロールすることで、時差のある4つの地域を飛び回るエネルギーを保てると言う。「スリムであることはひとつの符号、同じ社会階層に属している印です。誰も口にしないけれど存在しているひとつの掟、それは外見が良くなければならないということです。服装だけでなく、スリムなこともそこに含まれます。体重がほんの少し増えても、ミーティングで一番太っている人じゃないか、と気になってしまいます。仕事仲間の女性のほとんどが摂食障害か、体重の悩みを抱えています」

エリザベスの状態は、ある種のオルトレキシア(健康的な食事以外、口にできなくなる摂食障害の一種)とも言える。摂食障害はどの分野で働く女性であれ、多くが密かに抱えてきた悩みでもある。1990年にアメリカの作家ナオミ・ウルフはエッセイ『The Beauty Myth』(1)(日本語版のタイトルは『美の陰謀 女たちの見えない敵』、TBSブリタニカより1994年発売、曽田和子訳)で早くもそのことを指摘している。すなわち、肉体労働に従事している場合を除き、すべての女性労働者には、専業主婦からオフィスワーカーになった瞬間から、体重を含めて「美の職業資格」(ナオミ・ウルフの言葉)の要求が突きつけられた。ナオミ・ウルフによれば1960年代は「スチュワーデス、モデル、重役秘書のイメージが宣伝された」時代だった。

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体重が増えると収入が減る

今や女性はスリムであること、ただし、か弱くも病弱でもないことが求められる。鍛えられた筋肉に引き締まった体型は自己管理がきちんとできている(という幻想の)象徴となった。これもある種の自己投資と言えなくもない。そして実際、体重は(男性よりも)女性の採用や昇進、ひいては給与への影響が大きい。2011年の英米の研究によると、平均的な体重の女性と比べ、痩せている女性は平均年収が22,000ドル高く、逆に肥満の女性は19,000ドル低かった。アメリカの経済学者デビッド・レンパートは、女性の体重が10%増加すると収入が6%減少することを指摘している。

お金があれば、食事管理も健康管理もきちんとできる。その逆もまたしかり。グリーンスムージーも、ピラティスやヨガのクラスも、スポーツリゾートも、自分の代わりに子どもの世話をしてもらうのも費用がかかる。EU統計局によれば、フランスでは貧困層の女性の19%が肥満である一方、富裕層の女性の肥満は8%に過ぎない。この二重の不公平はなかなか気づきにくい。

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帰属の基準

ジャーナリストのノラ・ブアズニの新著『Mangez les riches. La lutte des class passe par l'assiette(原題訳:金持ちを食べなさい。皿の中の階級闘争)』(2) にはこんなことが書かれている。「私たちは実力主義が君臨する社会に生きている。そして社会階級や肌の色など、決定論の領域にあるものが意志の問題にすりかえられている」と。彼女によると、企業でスリムな体型が信奉されるのは必然なのだそうだ。そこには暗黙の了解があり、「スリムであることは、良い人であることが証明されたようなもの。私たちの経済システムの最優先事項は生産性。そしてスリムなのは物にあふれた社会で自制心が働く証明であり、アッパークラスの証とみなされる」

こうしてハードルはどんどん高くなる。「すっぴんでも美しいジェニファー・ロペスの画像が出回れば、自分も頑張ればそうなれると思ってしまう。彼女が毎日12時間睡眠をとり、専属栄養士とスポーツコーチがついていることは誰も言ってくれない。なんでもできるスーパーウーマンという幻想のせいで多くの女性が苦しむことになる。フランスでは、食事に気を使うことが社会的に評価される。裕福な人、ちゃんとした人は痩せているはずということになり、摂食障害に悩むのは富裕層や裕福な家庭の女性たちの方が多いという現象が生じる」とノラ・ブアズニは言う。

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職場復帰というイバラの道

産休あるいは育休からの復帰は、働く女性にとってプレッシャーが高い。生活も体調も以前とは違うのに、復帰したら以前と同じ、責任ある仕事が待ちかまえている。直属の上司に「なにも変わらず」働けることを示したい欲求に駆られる女性も多い。そのためには「元」の体に早急に戻らなくてはと思いこむようになる。職場復帰の大変さを身をもって体験したティ・ニュ・アン・ファムは、ポッドキャストやエッセイ (3) で女性たちにこう警告する。「仕事に復帰した女性たちは仕事をちゃんとこなせるし有能であることを示そうとする。すでに大変な状況なのにさらに重荷がのしかかることになる」と。その結果、摂食障害が多発する。この時期の女性たちをケアすることは特に重要だとティ・ニュ・アン・ファムは言う。

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完璧を求めて

先述のエリザベス同様、エリートコースを歩むモードも仕事上、外見に気を使わなくてはならない。本人の好みの問題ではない。「会社の経営に関わるようになると自分のイメージ、時間、私生活をコントロールしているように見えなければなりません。自分がこの地位に就けたのは、スリムだからではなく、能力と仕事の成果のおかげです。でも、10キロ太っていたらどうだったでしょう?わかりません」と言う。彼女は日々、スポーツ選手並みに自分の健康を管理している。しかも「スリムで引き締まった体を保つだけでなく、マネージャーとして有能なところも示さなくてはなりません。外では会社の顔となり、家では子どもの教育に気を配り、食事に気をつかい、肉はあまり食べなくてもタンパク質が不足しないように......とまるでテトリスゲームをしているかのよう。自分を守れるのは自分しかいないから、このペースを維持できるように体調管理をしていますが、あと3キロ太った方が楽なのにとよく思います」

完璧を求める競争から女性たちは今日も解放されることなく、さらなる競争に駆りたてられる。これはいつまで続くのだろうか。

(1) ナオミ・ウルフ著『The Beauty Myth: How Images of Beauty Are Used Against Women』Reprint版がHarper Perennial出版より発売されている。(オリジナル版に基づく日本版は『美の陰謀 女たちの見えない敵』1994年、TBSブリタニカ、曽田和子訳)

(2)ノラ・ブアズニ著 『Mangez les riches. La lutte des class passe par l'assiette (原題訳:金持ちを食べなさい。皿の中の階級闘争)』Nourriturfu出版。

(3) ティ・ニュ・アン・ファム著『La Reprise - Le tabou de la condition des femmes après congé maternité (原題訳:職場復帰、育休後の女性の条件のタブー)』、Payot出版。

text : Anne-laure Pineau (madame.lefigaro.fr)

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