過去といま、そして百年後を繋ぐ『白子芸術祭』をリポート。
Lifestyle 2024.04.27
千葉県東部、海沿いに面する白子町では、千葉県誕生150周年記念事業として『白子藝術祭』が4月27日(土)から29日(月・祝)にかけて行われる。プレスプレビューの様子をリポート!
藝術祭の舞台となるのは、白子町にある「シラコノイエ」。築190年となる古民家で、国登録有形文化財にも登録されている大きな屋敷を、隈研吾が3年かけて修繕設計。「シラコノイエの原点は、"かつての暮らしの中にあった、いまなお新しい暮らしの在り方。初訪のとき、この旧・大多和家に感じたエレガントで質感のあるくらしの所作。それをいま一度仕立ててみたい"という思いからでした」とシラコノイエの主、大田由香梨。
大田はファッションスタイリストを経て、現在はライフスタイリストとして活躍。平日は東京、週末はシラコノイエで過ごす2拠点生活を送っている。実際にこの家で過ごしてみて、「この前まで蛙が鳴いていたのに聞こえなくなったなとか、暮らしながら季節が感じられることが愛おしい」と語る。
今回の藝術祭の大きなテーマは、生活の根幹である「衣食住」。どんな家に住み、どんな服を纏い、どんなものを食べるのか。そんな日々の生活の積み重ねがその人の人生を紡ぐと考え、それらを囲む要素にアートを見る試みだ。その裏には「暮らしそのものを藝術と捉え、物質そのものが語り醸すものに静かに耳を傾け、自身の感受性に種を植えてほしい」という主催者側の想いが潜んでいる。
白子藝術祭は"衣食住の体験型展示"となる。衣食住にまつわる、その道のプロ3人のクリエイティブに触れることができる。
プレビューイベントに参加した大田由香梨、隈研吾、高橋悠介。
"衣"の部分は、CFCLのデザイナー高橋悠介が担当。カプセルコレクション「Shadows」の展示と、写真家・蓮井幹生とのポートレートプロジェクト"SILHOUETTE"のスピンオフ展示『SILHOUETTE in Shirako』を発表。
"食"の部分は大田由香梨が担当。白子町の豊かな食材、敷地内で採れた野菜で作った旬のご馳走をシラコノイエの中で味わうことができる。
"住"の部分は建築家の隈研吾が担当。隈が修繕設計した「シラコノイエ」の内部を実際に巡り、生活空間を体感できる。
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和の心が反映された、築年数190年「シラコノイエ」母家の内部へ。
母家の中に一歩入ると、凛とした神聖な空気感にほんのりお香の香りが混じる。もともとの家が持つ和のデザインを最大限に活かしながら、隈が内面に持つ精神性を内装として表現。
三浦半島の三浦氏の末裔である大多和家は、この地域の名主として、長屋門や穀蔵などを含む屋敷の作りを残しており、その後、医者家系として代々引き継がれてきた。リンゴ病の発見者としても有名な大多和與四郎の家として地域では有名で、屋敷の蔵からは、当時、海外へ留学し医学を学んだノートや教科書なども発見されている。
壁紙には、富山県の蛭谷和紙の作家、川原隆邦氏に材料を送り特別に作ってもらった和紙を使用している。こちらの部屋はマキの樹皮、棕櫚(シュロ)という植物を用いた和紙があしらわれている。
左: 襖を開けると庭が一望できる廊下に出られる。右: 玄関入り口に飾られているお花。右奥の壁紙には、庭に生えたダイオウマツの葉を用いた和紙が使用されている。
部屋の奥には、高橋悠介によるカプセルコレクション「Shadows」が飾られ、和とモダンなファッションが融合した味わい深い空間が広がる。このコレクションは、デザイナーの高橋がシラコノイエを訪れた際に日本家屋がもつ美しさに感銘を受け、自然光から生まれる繊細な陰影と輪郭をインスピレーション源として作成した。黒と灰を混ぜた「竹炭」、白と白銀を混ぜた「白磁」の2色展開で5月15日(水)からCFCLの直営店舗とオンラインストアにて発売される。
2階にある小スペースは、女中が住み込みで働いていた時の部屋。ここにも展示が。
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廊下を進んでいくと、畳の空間、リビングテーブル、キッチン、小上がりを備えたオープンな居間空間が広がる。
写真奥に見えるのは「北の庭」。中央にある畳空間でゆったりと自然を愛でることができる。右手奥にはキッチン。手前には約8人掛けの大きな木材テーブルが。
オープンで広々とした土間。裏口は外の庭に繋がっている。写真左奥には釜戸もある。
居間空間に広がる落ち着いたグレーカラーの壁は、隈研吾スタッフや北海道や沖縄からワークショップに参加した方など、総勢約150人が手掛けた。老朽化した古民家をリニューアルしたいがやり方がわからない人や、日本の建物に興味のある外国人もいたと言う。
大田が隈に修繕を依頼する際、「この場所を江戸時代から受け継いできた日本人の精神性が残っているようなお家に蘇らせたい」とリクエスト。隈はそれに対し、「いまの日本に必要な課題は、過去と未来をどうやって繋いでいくか。それを皆で取り組まないと日本は立ち行かなくなる。この家はその際の良いモデルケースになる。古民家の改装は、建築家やデザイナーだけでなく、生活者みんなで取り組まないと日本の未来は良くならない」と思い、話を引き受けたそうだ。はじめはボロボロの状態だったが、皆で手作りして良い状態に改修した。この内装を維持していくことを目指す。
建築案内の後は、白子町で有名な白子玉ねぎのローストや蛤のお吸い物をはじめ、食材のおいしさを最大限に活かした料理の数々をいただいた。庭で採れた筍の煮付けなど、地産地消のラインナップは食べると心も体も元気になることを実感。酵母入り日本酒やワインとペアリングすると、おいしさも数倍に。
お皿は、シラコノイエに遊びに来る人のために作られたオリジナルの白磁器。佐賀県有田の辻精磁社が作っている。
敷地内にある小屋では、写真家・蓮井幹生とのポートレートプロジェクト"SILHOUETTE" のスピンオフ企画『SILHOUETTE in Shirako』が展示されている。白子町に住む方々のモノクロポートレートと、その方にまつわる場所の風景写真が対峙するように展示されている。
左: 白子町に住む漁師のポートレート。右: 白子町の海岸が映る。
100年後、私たちが未来に残せるものは何か?残るものは何なのか?日本での人々の暮らしについて考える必要があると感じるプロジェクトだ。忙しない毎日の中で一度足を止めて、まずは身の回りの衣食住を大切にし、先祖から受け継いできた慣習や考え方を今後に引き継いでいきたいと思う藝術祭だった。白子藝術祭に限らず、また公開される機会があればぜひ訪れて。
仕事でも家庭面でもパートナーである、大田さんご夫婦。
長嶋りかこによるブックデザインの白子藝術祭公式図録も販売中。白子藝術祭の舞台となった 国登録有形文化財「シラコノイエ」を写真家、高野ユリカが撮り下ろした写真を掲載。隈研吾、高橋悠介、大田由香梨がそれぞれの視点で建築、ファッション、食の未来と暮らしを語る寄稿付き。ひとつひとつ、白子町の住民が棕櫚縄で束ねた、心込められた一冊だ。
『白子藝術祭』の詳細はこちら
※衣食住の展示ツアー・食事付きの一般チケットは現在売り切れ