医師が推奨する、「長寿のための食生活」とは?

Lifestyle 2024.06.02

心身ともに健やかになれば暮らしも充実する。専門医によれば、そんな好循環が実現するために食事が重要だそうだ。

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良い食生活は心身の健康に好影響を与える。 photography: gbh007 / Getty Images

「私たちは食べたものでできている」。それはアリストテレス以来の真理だが、今日では科学的にも証明されている。たとえばミツバチ。女王蜂はローヤルゼリーを食べるだけで繁殖力を増し、より大きく強くなり、どの蜂よりも長生きする。だからシリコンバレーのトランスヒューマニズム(超人間主義)の信奉者のように1日1回、スーパーフードだけを食べ続けていればいつまでも元気に暮らせるだろうと思う人もいる。あるいは漠然と、できるだけ長く健康で楽しく暮らしたいと考えているだけの人もいるだろう。個々人の食事は理屈やデータだけで決まるものではなく、体調、気分、それまでの人生、経済状況や他者との関わりのなかで決まる。アレクサンドラ・ダリュ博士は内分泌を専門に研究するアンチエイジング医だ。著作に『Les 100 idées reçues qui vous empêchent d'aller bien(原題訳:あなたの体調を悪くする100の固定観念)』(Leduc社刊)や、シェフのティエリー・マルクスとの共著『L'Assiette santé(原題訳:健康的な食事)』(Flammarion社刊)がある。博士は、細かいことを気にするよりも楽しく食事した方がいいと考えている。そして博士もシェフも口を揃えるのは、ちゃんと食べることは難しくなく、料理の達人になる必要も、台所で2時間も過ごす必要もないということだ。

ダリュ博士は10年以上前からエピジェネティクス(後世遺伝学)を研究してきた。「エピジェネティクスはまだ発展途上の科学で、白黒はっきりしていないことも多いのです。遺伝子やエピジーンは、私たちの行動やライフスタイルに関連したシグナルを常に受け取り、それに応じて活動を調整し、特定の遺伝子を活性化あるいは不活性化させます。この現象は一過性の場合も長期にわたる場合もあり、子孫に受け継がれることもあります」と博士は語る。フランス国立衛生医学研究所(Inserm)では専門の研究部門があり、エピジェネティック治療薬の開発が進められている。ダリュ博士は、「エピジェネティクスをうまく使えば病気にならずに100歳でも生きられるかも、などと期待すべきではありません。従来からの予防法や定期検診が不要になる日は来ないでしょう。ですが、健康と信じる食べ物以外を受けつけなくなるオルトレキシア摂食障害に陥ることなく、長寿のために気をつけるべきことはあります」と言う。

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レインボーカラーの食卓

とは言え、これさえ食べればいいというようなミラクルフードは存在しない。しかしながら世界5大長寿地域、いわゆる「ブルーゾーン」の研究結果から果物や野菜、豆類、旬のハーブが豊富な地中海式食生活が、酸化ストレスへの抵抗力を高めることがわかっている。酸化ストレスは炎症や老化の要因であり、加齢に伴う変性疾患(変形性関節症、骨粗しょう症、がん、心血管疾患、自己免疫疾患、うつ病、アルツハイマー病など)を加速させる。健康を保つには砂糖、塩分、加工食品の摂取を控え、良質の脂肪、そしてたくさんの色の野菜や果物をできるだけ多く摂ってレインボーカラーの食卓にすべきだ。こうした野菜や果物に植物保護成分が豊富に含まれている。「ただし食事以外の時間に果物を食べてはいけません。フルーツジュースもダメです。それがオーガニックフルーツのしぼりたてであっても、ジュースは血糖値が急上昇させるおそれがあるため、食事と一緒に摂りましょう」とダリュ博士は釘を刺した。長寿になるエピジェネティック食品というものが存在するかどうかはともかく、抹茶、赤い果実、ブルーベリー、ターメリック、ニンニクとタマネギ、クルミ、ブロッコリー、赤レンズ豆、オリーブオイル等が体に良いことはよく言われている。なお、最近の女性はよく、食事に「気をつけている」と言う。ダリュ博士はその表現を好まない。それよりも「食事は週単位で考えるべきです。毎日食べたものを2週間、すべて書き出して日曜日にチェックしてみましょう。抗酸化物質を摂取したかどうか、バランスが取れているかが一目瞭然です」とのこと。また、これらの栄養素の効果を最大化するためには腸内細菌の働きも重要だ。

食事の楽しみを学び直す

各種ダイエット法が罪悪感を植えつけがちなのに比べ、マインドフルネスは、食事で体重コントロールしていく際の貴重な助けとなる。現在では科学的にも効果が証明されている。自分を信じ、自分の感覚を頼りに食べるという原理は単純だが、実践は意外と難しい。そう感じているひとのためにフランスでは幾つかのタラソテラピー・センターで、ボディケアメニューにマインドフルネスアプローチを組みあわせたコースが登場している。たとえばブルターニュ地方のタラソ・コンカルノー・スパマリン・リゾートでは食事付きの「Manger en pleine conscience(マインドフル・イーティング)」プログラムがあり、食事やメディテーションと並行して自尊心やボディイメージ、自分の感覚を見つめなおす。大西洋沿岸のアリアンス・ポルニック・リゾートタラソ&スパの「Silhouette et conscience(シルエットと意識)」プログラムは、管理栄養士が監修する目的別ランチに、自分と向きあうグループ・アートセラピー・ワークショップが組まれている。癒されながら自分の食事を見直してはどうだろう。

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ファスティングの効果は?

無糖の飲み物以外は何も口にせずに14時間から16時間過ごすファスティング(断続的断食)が人気だ。ファスティングの効果については現在、何百もの研究があり、誰もが自分に都合良く解釈している。断食に入って13時間経つと体には「ホルミシス」と呼ばれる一連の防御と修復のメカニズムが起きる。夕食を抜く人もいれば朝食を抜く人もいるが、社会生活上、夕食を抜くのが難しい場合もあるだろう。「ウェルネスとは自分を知ることです。朝食を食べなくても体調が良ければ無理に食べる必要はありません。ただし子どもや妊婦、高齢者の場合は朝食を大切にすべきです」とダリュ博士。いずれにせよ夕食を軽く早めに済ませることで睡眠中は消化よりも体の修復にエネルギーを向けるべきというのはもう常識化しているようだ。「クレタ島式ダイエット(地中海式ダイエット)で夕食を早めに、空腹を満たすだけの量を食べるならばファスティングをする意味はあまりありません」と博士は指摘する。さらに「許された時間」に食事や間食でたくさん食べてしまうのではこれまたファスティングの意味がない。いずれにせよ長寿にプラスなのは食事のみにあらず。社会生活を送ることや楽しむことも長寿につながる。だから肩の力を抜いて長寿に良い食生活を楽しもう。

text : Marion Louis et Caroline Henry (madame.lefigaro.fr)

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