我が愛しの、ジェーン・バーキン 長女ケイト・バリーが写した、母ジェーン・バーキンのヌード。

Lifestyle 2024.06.30

フォトグラファーとして本格デビューする前にフィガロジャポンで撮影していた母の写真を発見。当時の紙面を再掲載する。また、1995年当時フィガロジャポンパリ支局長で、このページを担当した村上香住子が、ジェーンケイトの思い出を綴る。

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フィガロジャポン1995年8月5日号

Kate Barry
1967年生まれ。87年に息子ローマンを出産。96年よりフォトグラファーとしてキャリアをスタートし、雑誌や広告で活躍。母のアルバム『ランデ・ヴー』のジャケット写真なども撮影。2000年、東京・渋谷で個展を開く。13年12月11日、自宅アパルトマンから転落し亡くなる。

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ふたりして娘を失ったような悲しみ。

村上香住子
作家・ジャーナリスト

ケイトが私たちの前からいなくなった翌年、2014年1月の月命日の11日に、私はケイトの墓参りのため渡仏していた。モンパルナス墓地に眠るというケイトの正確な場所を知るためにジェーンに何度か電話していたが、なかなかつかまらない。

「そこを動かないで」

やっと携帯に出たジェーンにいきなりそう言われた。

「あなたがいまいる場所に私が行くから待っていて」

「カフェ・ドゥ・マゴにいるの。テラスでなく、中に」

「15分で行くから」

どうやらサンジェルマン界隈にいたらしく、15分もしないうちにやってきた。ケイトの死後、初めてジェーンに会うので、いろいろな想いが胸に錯綜する。相変わらず無造作な髪にジーンズ姿だが、入退院を繰り返していたせいか少しやつれた感じで、泣いているのか笑っているのかわからない、あのおなじみの表情で入ってくる。そんなジェーンを見たとたん、ふいに押し寄せてきた感情に自分でも戸惑った。

「あなたも病気で大変だったのに」

そこまで言うと、声が震えてきて、それ以上続けることができない。

「私のことはいいの」

きっぱりと潔く、いつもの頼もしいジェーンの声だった。ケイトが大好きだったセルジュのすぐ近くに墓所が見つかったので、きっと喜んでくれているだろうと言う。それを聞いているうちに、ふいに涙が後から後からあふれてきて、止まらなくなった。ジェーンは黙ってそれを見ていたが、

「さあさあ、蛇口を止めてね」

やんわりとそう言われても、どうしても止まらない。たしかに水道の水のように流れてくるので、その表現はあまりにも的確だったし、我ながら情けなく、おかしく、つい笑いだしてしまう。

ケイトは亡くなる数日前、恋人ウリィとの関係について、離別というより少し距離をおく、と母親に話していたようだ。事件当日もウリィと夕食の約束をしていて、彼が娘を連れてケイトの新しい家に行ってみると、事件直後の現場に出くわしたそうだ。その場面を想像すると、背筋が寒くなる。ケイトはその時間にウリィが来ることを知っていた、という事実に。

ジェーンは、シャトレ劇場のコンサートにケイトが来たのが、彼女に会った最後だという。楽屋に顔を見せた時も、引っ越しの荷物を片付けるので忙しい、と言っていただけで、普段と変わった様子はなかったそうだ。

カフェでしばらく話し込んだ後、翌日墓参りをしてからジェーンの自宅に行く約束をして、サンジェルマン大通りで別れた。ケイトの事故後、心労から救急車で緊急入院していたジェーンの遠ざかっていく後ろ姿は、どことなく弱々しく、ゆらゆら左右に揺れながら、人混みの中に消えていった。

やはりケイトは母親にも何の予兆も見せずに、パリの夕暮れ時に、深い闇の奥に身を投げたのだ。

Kasumiko Murakami
フランス文学翻訳後、1985年に渡仏。94年からフィガロジャポンパリ支局長を務める。2005年に帰国。上記は白水社より初夏発売予定の『ジェーン・バーキンと娘たち(仮)』より一部抜粋。

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2018年4月にBOOKMARCで開催された『ケイト・バリー写真展 ACTRICES』の図録より。2000年に撮影されたジェーン(上左)、表紙は最愛の妹シャルロット(上右)。

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「Autoportrait」(2001年)©Kate Barry

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「Autoportrait」(2001年)©Kate Barry

『My Own Space』
ケイト・バリー10周忌に合わせ回顧展を開催。セルフポートレート(上2点)に加え、母と妹、著名人のポートレート、ファッション、メランコリックな風景など80点が展示された。

●会期終了
Quai de la Photo
9, port de la Gare 75013 Paris
開)12:00~24:00(水~日)  休)月、火
入場無料
https://quaidelaphoto.fr

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▶︎ジェーン・バーキン、永遠のファッションアイコンの魅力を紐解く。

*「フィガロジャポン」2024年3月号より抜粋

photography: John Chan

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