親の老いを受け入れるための、5つの心理学的ヒント。

Lifestyle 2024.07.27

判断力が低下し、ひとりでできないことが増え、病気がちになる......親が老いたことを目の当たりにすると、子どもとしてはいくつになってもショックだし、辛く思う。心穏やかに過ごすためにはどうしたらいいのだろう。フランス版「マダムフィガロ」の記事をご紹介。

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親の老いをどう受け止めればいいのか、専門家がアドバイス。photography:Yuliya Fattakhova / Getty Images/iStockphoto

親は老いていく。それを頭で理解することと、実際に目の当たりにすることは別問題だ。いくつになろうとも、痛々しい現実から目を背けたくなり、心穏やかではいられない。

「一定の年齢になった子どもは、親が老いて弱くなったことにある日突然気付き、がく然とします。親がそれまで元気だったらなおさらです」と臨床心理士のブノワ・ヴェルドンは言う。彼は『Le vieillissement psychique(原題訳:精神的老化)』(Que sais-je刊)の著者でもある。親の老いという現実を突きつけられた子どもの反応はさまざまだ。それまでの親子関係に左右されると言っていい。「親との楽しい思い出がある人もいれば、喧嘩した記憶しかない人もいます。親から将来の助言や励ましを受けた人もいれば、もう親に煩わされずに生きたいと思っている人もいるでしょう。こうした相反する感情が老親への態度に影響します」

親の老いによって子どもにどんな感情が生じるのだろうか。親の変化をどう受け入れて関係を築いていくべきなのだろうか。

親とて全能ではないことを受け入れる。

親が病気になり、子どもが親の面倒を見なくてはならない状況になった場合、親に対する肯定的、あるいは否定的感情が増幅される可能性がある。認知症などの認知機能障害を伴う場合はなおさらだ。「親の記憶と判断力が変容し、周囲との関係、子どもとの関係が変わっていきます。子どもはなすすべもなく、親の人格が変化していくのを見守るしかありません」と臨床心理士のブノワはもどかしい子どもの心境を代弁する。

親の健康状態への懸念を感じた瞬間から、あるいは親が老いて弱くなったことに気付いた瞬間から、不安感を抱く人がいる。「その人たちは、親がいなくなったらどうしようという子どもの頃の恐れや不安をずっと引きずっているのです。親はいつまでもいるという錯覚が、その感情をこれまで覆い隠してきました」と臨床心理士のブノワは言う。自分の父や母を特別視することで、そのことを考えないようにしてきたのだ。不安な気持ちに対処するには、いまの自分が親に何を求めているのかをあらためて考えてみよう。自分にとって親はどんな存在なのか。老いた親の姿に自分はなぜ失望し、受け入れられないのか。「両親を理想化して全能の存在と思う気持ちは、少しずつ手放しましょう。さもないと失望するばかりです」というのが臨床心理士のアドバイスだ。心の拠りどころを親以外に見つけられれば不安な気持ちも薄れるだろう。

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死への恐怖を克服する。

同調効果も無視できない。親は子どもにとって人生の先輩であり、この先何が起きるかを教えてくれる存在だ。「子どもが老いることに不安を感じるのは、それがあまり楽しくなさそうだと感じるからです。老いた親を目の当たりにして、自分もこうなるのかと改めて思ってしまうのです」

父母がまだ元気でしっかりしており、家族や周囲との付き合いがうまくいっていたとしても、身体はだんだん衰えていく。同世代の友人や兄弟姉妹が亡くなっていく。「いつかは親の番だ、父や母の葬儀をしなくてはならない日が来る。それは明日かもしれないと思うと怖くなるのです」と臨床心理士のブノワは子どもの心理を分析する。そして親が亡くなれば、次はもう待ったなしで自分たちの番だ。「こうした思考パターンに陥りがちです。心の準備ができない人もいます。自らの死は考えたくないものです」。もしも不安にさいなまれて、あまりにも苦しい時はセラピストに相談するのもいいだろう。悩みが大きくなりすぎたら、メンタルヘルスの専門家のサポートが必要かもしれない。 

罪悪感を持たない。

「肉親の世話をしている人のほとんどが罪悪感を持っています。何も悪いことはしていないのに」と言うのは医師で『Ma famille, mon job et moi, Les conseils d'un médecin à ceux qui prennent soin d'un proche(原題訳:家族、仕事と私、肉親を世話している人への医師からのアドバイス)』(Robert Laffont刊)の著者であるエレーヌ・ロシノ博士だ。そこには人の目が気になる心理が働く。親の老いを日々実感し、親が老人ホームに入ったりすると後ろめたい気持ちが湧きあがる。"親御さんと残された時間を大切に過ごしてね"なんて言われると、善意からの言葉だとわかっていても、罪悪感が増幅される。「親の面倒をちゃんと見てあげていない、残された時間を大切にしていないと感じてしまうのです。でも自分を責めても意味がありません。そんな気持ちは捨てて、親の世話と自分のことに専念しましょう」 

まず罪悪感があることを自覚し、なぜそう感じるのか自問してみよう。自分の思考パターンがわかれば、対処の仕方もわかってくるはずだ。罪悪感を感じる理由は人によって異なり、いまの状況に起因している場合もあれば過去に根差していることもある。

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今後どう暮らしたいか、親に聞く。

親と率直に話せる関係であれば、老いをどう感じているのか、残りの人生をどう過ごしたいのか、話し合うことが大切だとふたりの専門家はアドバイスする。「自立して暮らせなくなった時に何を重視するのか、話し合うのもいいでしょう」と臨床心理士のブノワは言う。親がその話題を嫌がらないのなら、もっと踏み込んだ質問をしてもいい。子どもとの関係はどう考えているのか、介助が必要になったらどうするのか、葬式はどうしたいと考えているのか、葬式で流してほしい音楽はあるか等々。考えるのも辛いことだが、そうしたことに備える機会であると同時に、自分の両親と濃密な時間を過ごし、心配していることを伝え、愛情を確認する機会となるだろう。

このような会話を通じて親は、子どもたちをもっと頼ってもいいのだということに気付くかもしれない。そのことに気付かず、子どもの負担となることを恐れている親もいる。そうなるとお互い不安でしかない。「亡くなった時のことばかりでなく、生きている間のことも話し合えるといいですね。もっと頼ってくれてもいいこと、問題が生じたら一緒に考えていきたいことを伝えましょう。きょうだいがいる場合は、それぞれの子どもが親と話し合ってどう考えているのか、どこまで手伝えるのかを伝えなくてはなりません」と医師のエレーヌはつけ加える。

親を見下さない。

障害を持つ親を介護する人のなかには、「親の親になっちゃった」と茶化す人もいる。「でもそれは正しくありません。この場合、大人が大人を世話しているのであって、親になったわけではありません。きちんと区別して、余計な責任を背負わないことです」と医師のエレーヌは言う。両親を子ども扱いするのも良くない。「たとえ年をとっていても、障害があっても、彼らは大人です」と臨床心理士のブノワは言う。「認知症が進んでいたり大きな精神疾患がある場合はともかく、親は自律した存在であり、意思決定をする権利があります」

親が精神的にも肉体的にも、できるだけ長く健康を保ち、自律した存在でいるためには年寄り扱いをしないほうがいい。そのことは医師のエレーヌも同意する。「親は、なんらかの制約があっても大人として行動し、暮らしていける存在です。弱い存在だと子どもが考えはじめたら、その考えが伝染して親も、自分が実際よりも弱い存在だと思うようになるのです」。老いると考えがつい、死に向かいがちだが、発想を転換して親も子も、人生のこの時期をいかによく生きられるかと考えることが重要だ。運動をすること、健康的に暮らすこと、社会との繋がりを保つことが、より良く年を重ね、長生きするのに役立つ。スポーツ、ウォーキング、料理、外出など、いろいろなことを親子で一緒に楽しむ機会を作ってみてはどうだろう。

text : Lena Couffin (madame.lefigaro.fr)

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