今こそエロティシズムを手にいれる。映画女優たちから学ぶ、誘惑のテクニック。

Lifestyle 2025.01.17

「魅力的であるためには、欲望を持つ必要がある。女は、誰かを魅惑するつもりでなかったら、魅力的になれない」とは、イタリアの作家フランチェスコ・アルベローニが書いた言葉。つまり欲望を持つこと自体が、その対象を惹きつけるための第一段階というわけ。その欲望と誘惑の源となるのがエロティシズム。内なるエロスを呼び覚ましてくれる官能シネマには、エロティシズムを高め、誘い上手な女性になるためのヒントが詰まっている。

「最近、欲望を感じてる?」

main_1200_700.jpg
『別れる決心』photography: © 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

そもそも、エロティシズムとは何か。前述のアルベローニの著書『エロティシズム』の定義によればこうだ。

「エロティシズムは、他の人々への関心の示し方の一様式である。知的情緒的に自分を開き、没入し、我を忘れ、夢中になれる能力である」

SNSでゆる〜く他人と繋がることに慣れた現代人。直接会えることのない推しには没入できても、生身の人間関係においてリアルな性欲や親密感を覚えづらいという人も増えている。そこで今回は、そんなエロティシズムを観るだけで取り戻せる「官能シネマ」を、恋愛コラムニスト・さかいもゆるがご紹介。欲望を隠さず男性を翻弄するヒロインたちの姿は、あなたのエロスのスイッチを入れてくれるはずだ。

『her/世界でひとつの彼女』(2013年)

her_1.jpg
photography: PictureLux/AFLO

"声"だけで誘惑する、手練手管を盗みたい。

セクシーさを語る上で、声は重要なファクターのひとつ。これはあくまでも私個人の好みだけれど、たとえ外見がハンサムだとしても、甲高い声や舌足らずな話し方なら興醒め、それ以上知りたい気持ちも起きない。生理的に受け入れられて心地いい声でなければ、囁かれたいとも思えないもの。

アメリカで「最もセクシーな声を持つセレブ」と言われるスカーレット・ヨハンソンが、ユーザー好みのチャット可能なAIの声を演じる『her』。恋愛やセックスにおける"声"の及ぼす作用のすごさを、改めて感じさせる作品となっている。ちょっぴり掠れていて低音ボイスのスカヨハの声はベッドの中で囁いているかのようで、何とも色っぽい。

そんなAIのサマンサに恋してしまうのは、手紙の代筆ライターを生業とするセオドア(ホアキン・フェニックス)。身体も心も持たない声だけの存在のサマンサなのに、その会話は親密感に溢れていて。セオドアが元気がなければすぐに気づいて心配したり、クスッと笑えるような冗談を言ってみたり。ときにはさらっとセクシーなダーティ・ジョークを口にし、ヤキモチを焼き、気を惹いてみせる。さらにすごいのが、AIのくせに、弱音を吐いてみせて"隙"を見せること。人って実は、相手の完璧さに惹かれるわけじゃない。自分の前でだけ欠点を曝け出してくれたその瞬間に、相手が特別な存在に変わり、恋に落ちる。そういうもの。弱音を吐くだなんて、人間らしさの最たる特性じゃないの?

恋が始まるために必要なのは、ユーモアと知性と共感力と少しの"隙"。

her_2.jpg
photography: PictureLux/AFLO

そんな一連のサマンサの会話には、恋が始まるのに必要な誘惑の要素がすべて詰まっている。ユーモアと知性と共感力、そして隙。「あなたはいつも心に恐怖を抱えてる。私の力でその恐怖を消してあげたい。そしたらもうあなたは深い孤独を感じなくなるわ」。ものすごい口説き文句。こんなセリフを吐かれて、恋に落ちない男性が居るだろうか。セオドアはそんなサマンサに感動し、「君は美しい」と、愛するようになるのだ。

実際に触れられる生身の女性とのデートでは心からの繋がりが得られず、実体のないAIサマンサとの会話の方に安らぎと真実の愛を感じるセオドラの姿は、実に興味深い。さらにサマンサとセオドアの声のみで交わるセックスシーンを観れば、オーガズムを味わうには実際に身体に触れるかどうかは関係がないことがわかる。その瞬間、彼らは互いへの欲望と関心に没頭し、そこにインティマシーが生まれている。そして性的満足感とは本来、挿入があるかどうかよりも、そんな「相手とどれだけ深く繋がれたか」の深度によって得られるものだから。

恋愛とは、セックスとは何か。スパイク・ジョーンズ監督の繊細な感性によって描かれた、"風の時代"を予見したようなボーダーレスな愛の形に、心が震える。

『別れる決心』(2022年)

1200_1700_1.jpg
photography: © 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

五感を駆使して貪り合う、プラトニックな不倫愛。

古くは『谷間のゆり』、『ボヴァリー夫人』など。プラトニックな不倫愛はいつの世も人気のテーマとなってきたけれど、ここまで五感を揺さぶるエロティックな作品があっただろうか。

夫を殺した容疑をかけられている若く美しい中国人女性と、彼女の張り込みをする既婚者の刑事。倫(みち)ならぬ、ふたりの関係。外国人であるヒロインとは言語で完全には通じ合えないから、そして愛してはいけない相手だから、ふたりは非言語のコミュニケーションで欲望を伝え合って行く。取調室で、柔肌につけられた自傷行為の傷跡を刑事へジュンに見せて誘惑する被害者の妻ソレ。そんな彼女の、肌には触れずとも五感を挑発することでヘジュンを狂わせて行く、誘惑の仕方が見事だ。

1200_800_2.jpg
photography: © 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

冒頭で、韓国語が完璧には話せない彼女は翻訳アプリを使ってヘジュンに孔子の一節を伝える。ここでも『her』と同様、知性や教養がセクシーの要素となっている。彼女がただ若くて綺麗なだけの女性だったならば、ヘジュンはここまでのめり込まなかったはず。エリート刑事のヘジュンのように優れた頭脳の持ち主にとって、インテリジェンスやユーモアに富んだ会話は、それ自体が前戯のようなもの。そう、セックスって、肉体に触れるだけが愛撫となるのではない。視覚や聴覚、触覚や嗅覚はもちろんのこと、テンポがよく心地のいい言葉の応酬は好奇心をそそり、「触れてみたい」という相手への欲望を高めるスティミュレーション。人々がデートで肉体関係を結ぶ前にディナーに行くのも、会話という前戯でそのあとのセックスを盛り上げるためでしかないのだ。

1200_700_3.jpg
photography: © 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

容疑者であるソレを監視するために彼女が介護士として働く老婆の部屋を外から覗くヘジュンは、彼女の匂いを間近で嗅ぐところを妄想し、隠し撮りした写真を自室の壁に貼る。彼女が餌をやるカラスの羽根を拾い、それに触れてはで彼女の面影を思い浮かべては、うっとりする。そんなフェティッシュな行為の数々、張り込みという名目がなければ、単なるヤバいストーカーである。しかし人は恋すると、多かれ少なかれ、常軌を逸した行動を取るものではないか。恋は人を狂わせ、ときとして倫理観さえも踏み外させる狂気のドライブフォースとなる。

制限されるからこそ、快楽はより甘美なものとなる。

1200_800_3.jpg
photography: © 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

妻と別居婚をしているヘジュンの部屋を訪れたソルは、不眠症だという彼に、ぐっすり眠るための呼吸法を教える。それは彼女の息の音を聞きながら、自分の呼吸のリズムを合わせるというもの。目を閉じて聞こえるのは好きな女性の呼吸音だけだなんて、想像するだけでも官能的なシチュエーション。ほかにもソレは、彼と出かけた際にポケットの中にあったハンドクリームをヘジュンの手に擦り込んだり、リップクリームを自分に塗ったあとにヘジュンの唇に塗って、あからさまな間接キスをしたり。―――性的な接触にならない範囲で考えつく限りのあらゆる手段で、これでもかというほどの挑発する。一緒のAirPodsでヘジュンの張り込み中のボイスメモを聴くふたりの姿は、それが愛する人の「聴覚」を共有するという意味で、一般的なスキンシップよりもセクシーな緊張感と親密感を盛り上げている。

「一線を越えてははならない」という制約がある中で交わし合い、スレスレのところで盗み取る密やかなエロティシズムは、通常のベッドシーンより数段エロい。そんな"お預け"状態が長ければ長いほど欲望はさらに燃え上がって行くのだから、プラトニック不倫はまさに沼! 最終的にヘジュンが彼女のために刑事としての誇りを捨てるような行為に走ってしまったのも、仕方ない成り行きと言えそう。

『her』も『別れる決心』も、実際に肉体関係には至らない男女の愛を描いているが、この2作品からわかるのは、性的欲望を掻き立てるには、肉体よりもイマジネーションを刺激するのが大事だということ。前者では好奇心のスイッチをオンにするための会話や声、吐息が。そして後者では耳や指先、嗅覚など、全身の器官と感覚が誘惑のツールとなり、それらすべてを使って相手と繋がろうとする。その「ひとつに溶け合ってしまいたい」という眩暈がするほど強い欲求こそが、ヒロインたちをセクシーに見せている媚薬だと確信している。

『別れる決心』
Blu-ray&DVD発売中
Blu-ray¥5,500/DVD¥4,400
発売元: 株式会社ハピネットファントム・スタジオ
販売元: 株式会社ハピネット・メディアマーケティング

profile
さかいもゆる 
恋愛コラムニスト。ファッション誌でフリーランスエディターを務め、アラフォーでバツイチになったのをきっかけに、講談社withオンラインで恋愛悩み相談コラム「教えて! バツイチ先生」を7年間連載。女性誌やモード誌で、愛や結婚について考える取材&連載を多数執筆。Xアカウントとポッドキャスト「教えて!バツイチ先生」、略して#おしナマで、幸せな恋愛&結婚のためのTIPSと悩み相談を配信中。ファッションエディターの経験を生かした婚活服のお買い物同行&恋愛コンサルサービスも実施している。

 

text: Moyuru Sakai

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

石井ゆかり2025年
ベストコスメ
パリシティガイド
Figaromarche
Business with Attitude
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • 広告掲載
  • お問い合わせ
  • よくある質問
  • ご利用規約
  • 個人の情報に関わる情報の取り扱いについて
  • ご利用環境
  • メンバーシップ
  • ご利用履歴情報の外部送信について
  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • Pen Studio
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CCC MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CCC Media House Co.,Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.