週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパーエイジャーが実践する「長寿体質」の習慣
Lifestyle 2025.05.22
<理論的には運動は老化や病気につながりやすく体に悪い。それでも、体に良い運動は健康寿命と寿命を延ばす>
長寿遺伝子発見者による、最新研究と衝撃の提言書『SuperAgers スーパーエイジャー 老化は治療できる』(CCCメディアハウス)の第8章「時計を止める」より一部編集・抜粋。重要なのは寿命(ライフスパン)ではなく、健康寿命(ヘルススパン)...。
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老化を防ぐのにいちばん良い方法は、間違いなく運動である。これは男性でも女性でも、また人生のどの時期でも効き目がある。運動は心臓血管の健康に良いだけでなく、体重を抑え、2型糖尿病のリスクを下げる。さらに脳卒中、認知症、がんさえ予防する可能性がある。
これまでの証拠によれば、わたしたちは一生のあいだ動けるようにできているはずだが、60〜80歳のある時点で老化の影響が全身に及び、体力や筋力が落ちはじめる。心臓血管の能力も年齢とともに落ちるので、年を取るほど、とくに筋力トレーニングや有酸素運動が重要になってくる。
コツは、筋力を増して心臓血管系を強くする活動や運動をいろいろと試してみて、いちばん気に入ったものを続けることだ。「使わなければダメになる」ということわざはまさに本当で、しかも体の健康を保つだけではない。有酸素運動は認知機能にも驚くほど効果があることがわかっている。
年を取るにつれ、ストレッチで柔軟性を保ったり、ヨガや太極拳のようにバランスをきたえる運動をすることが大切だ。
わたしの妹で、世界中にスタジオを持つスーパートレーナーのオスナットは、柔軟性は一生のあいだ大事だが、年を取るとなおさらだと、わたしに言いきかせた。そのアドバイスに従ったおかげで、わたしは機能障害を防げたのだろう。
柔軟性とバランス感覚は、けがの予防にもなる。わたしは15分間のストレッチを少なくとも週に1回、できればもっと多く行っている。
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運動を始めるのに遅すぎることはないが、運動をする習慣がまだない場合は、ゆっくりと始めなければならない。やろうとしている運動について、まずは主治医に相談し、60%の力で始めてみて、そこからゆっくりと増やしていこう。
どれぐらい運動したらいいかについては、まだわかっていない。
カロリー制限の場合、ある程度カロリーを制限すると寿命が延びるが、カロリーをすべて制限すると死んでしまう。それと同じように、目標に達するのに最適な範囲を見つける必要がある。ある人にとって最適な運動の種類や量は、他の人にとっては有害かもしれない。人はそれぞれ違うからだ。
高齢者にはたいてい、少なくとも25分間の運動を週に3〜5回するよう勧めている。それが絶対正しいという証拠はないし、間違っているという証拠もない。高齢者一般への妥当な提案というだけだ。個々に提案するときは、運動の回数を増やすようにとか、時間を長くするようにと言うこともある。
詳細は明らかではないが、運動が健康寿命に不可欠であり、運動によって80歳過ぎまで元気でいられる可能性が高まることがわかっている。若者にとっても高齢者にとっても、運動はどんな食事療法よりも効果がある。
65万人以上の人々を約10年にわたって追跡した研究の報告によると、週に75分の速歩きのような適度な運動によって、寿命がほぼ2年延びるという。また、週に平均2時間半から5時間の運動をする人は寿命が3年半長く、1日1時間運動する人は4年半長かった。
とはいえ、これは観察研究もしくは関連研究なので注意してほしい。ひょっとすると、運動した被験者の老化が遅かったのは、運動ができたからかもしれない。また、健康的な食事やサプリメント療法のおかげで長生きした人がいたかもしれない。
このように、わたしは運動が大事だと思っているものの、科学者としては、この研究報告における寿命の差が間違いなく運動の結果であるとは言えない。それでも、毎日運動しているのはたしかだ。そして妹のネッタの家を訪れる日は、彼女のおいしい料理をがまんできないので、いつも以上に運動するようにしている。
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アメリカ国立衛生研究所(NIH)が出資した研究でも、高齢の女性(平均72歳)で、1日約4400歩歩く人の死亡率は、約2700歩歩く人より非常に低いという結果が出た。そして4400歩以上歩く人の死亡率はさらに下がり、7500歩前後で横ばいになった。
1日1万歩が健康でいるための魔法の数字だという通説があるが、それを裏づける科学的証拠はあまりないと言わざるをえない。たとえ若者や中年の人にとっては正しい数字だとわかったとしても、1万歩では多すぎる高齢者がいるかもしれない。
ところで、1マイル(約1.6キロ)を何歩で歩けるかはその人の歩幅により、その長さは年齢とともに減っていく。
でも計算のために、歩幅が60センチより少し長ければ、2000歩余りで1マイル歩けるだろう。もし毎日欠かさず運動しているなら、あと1マイル歩くようにするだけで寿命と健康寿命を延ばすことができる。
運動の興味深い点は、理論的には、体に悪いということだ。運動は酸化ストレスを誘導し、酸化ストレスは老化や病気につながりやすく、筋肉組織の破壊を増やすし炎症も起こす。それでも、運動は何歳になっても体に良い。いったい、どうなっているのだろう?
ニール・バルジライ (Nir Barzilai)
1955年生まれ。アルバート・アインシュタイン医科大学教授。同大学老化研究所設立者。ポール・F・グレン老化生物学研究センター、およびアメリカ国立衛生研究所(NIH)ネイサン・ショック・センター加齢基礎生物学部門のディレクターも務めている。専門は内分泌学。100歳を超える長寿家系を調べ、ヒトの長寿遺伝子を世界で初めて発見した。長寿研究の世界的権威として、全米老年問題研究連盟(AFAR)「アーヴィング・S・ライト賞」など数々の賞を受賞している。本書が初の一般書となる。
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1955年生まれ。アルバート・アインシュタイン医科大学教授。同大学老化研究所設立者。ポール・F・グレン老化生物学研究センター、およびアメリカ国立衛生研究所(NIH)ネイサン・ショック・センター加齢基礎生物学部門のディレクターも務めている。専門は内分泌学。100歳を超える長寿家系を調べ、ヒトの長寿遺伝子を世界で初めて発見した。長寿研究の世界的権威として、全米老年問題研究連盟(AFAR)「アーヴィング・S・ライト賞」など数々の賞を受賞している。本書が初の一般書となる。