地球のいまを知るなら、海に注目! 海を知ることは、環境の未来を考えること。
Lifestyle 2025.07.22
「しんかい6500」は人が乗って最大6500mの深度まで潜航可能な潜水船。日本近海はもとより、太平洋、インド洋、大西洋など広範な海域で調査を実施してきた。世界でも深海に潜れる有人潜水船は限られており、「しんかい6500」は国際的にも重要な役割を担っている。photography: 木村亮
気候変動や、海洋プラスチックをはじめとする人の活動による生物多様性への影響など、環境をめぐる課題は年々深刻さを増している。そうした地球規模の変化は、「海」で見られるものも多い。その海に向き合い、地球の現在を読み解こうとしているのが、海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)だ。国の研究機関であるJAMSTECの活動は、私たちが「環境とどう向き合うか」を考えるヒントを与えてくれる。
海は、地球の変化を映し出す鏡
深海で撮影されたプラスチックごみに付着するイソギンチャクの一種。冷たく、光も届かない深海では、一度深海に沈んだプラスチックごみは分解されず長期間そのままの形で残り続ける。photography: JAMSTEC
海は、単なるレジャーや食の源であるだけではなく、地球規模の気象や気候にバランスをもたらす存在でもある。地球表面の7割を占める海は、大気と熱や水分を絶えずやり取りしており、海の変化そのものが地球環境の変化のサインとしても機能している。たとえば、黒潮や親潮といった大規模な海流は、地球の熱エネルギーを運ぶ巨大なコンベアのような役割を果たしている。その流れがわずかに変化するだけで、陸地の気温や降水パターンに影響を与えるのだ。地球温暖化に代表される気候変動の原因や進行度合を把握するうえで、海の観測は不可欠であり、まさに海は"地球の変化を映し出す鏡"といえる。
JAMSTECは、研究船やさまざまな観測機器を用いて、海水の温度、塩分、流れなどの詳細なデータを長期的に記録・分析し、気候変動の兆候をとらえる研究を続けている。気候を読み解くうえで、海の観測は欠かせない。
北極――地球温暖化の最前線
左:北極海に漂う氷上のシロクマ。地球温暖化の影響は、すでに北極の野生動物たちにもおよんでいる。右:海洋地球研究船「みらい」の北極域での調査航海の様子。各種研究設備が搭載されており、広範囲かつ長期の航海が可能。2026年には後継船として砕氷機能を持つ北極域研究船「みらいⅡ」が就航予定だ。photography: JAMSTEC
なかでも北極は、気候変動の影響がいち早く現れる場所として注目されている。氷の減少は、地球全体の気象バランスに大きく関与し、海面上昇などにも影響する。
JAMSTECは北極域の観測を長年にわたり続けており、国際的な共同研究にも参加している。2026年には、日本初となる砕氷機能を持つ本格的な北極域研究船「みらいⅡ」が就航予定で、これまで夏に限られていた北極の観測がさらに長く・広いものに強化される見通しだ。環境問題が国境を越えるいま、日本の知見が果たす役割はますます大きくなっている。
海に眠る、"見えない汚染"と向き合う
海洋プラスチック問題は、いまや誰もが耳にする地球規模の課題だ。海岸や海面に漂うごみだけでなく、海中や深海に沈んだ見えないごみの存在も無視できない。現在、海中のプラスチックは少なくとも3,000万トンもあると考えられている。だが、海表面の調査結果から見積もられたのは数百トンほど。
では、残りの膨大なプラスチックは、いったいどこに消えたのか。
JAMSTECの研究者は「深海に沈んだのではないか」と考え、有人潜水調査船「しんかい6500」で調査を行った。すると、海底にもたくさんのレジ袋などのプラスチックごみが見つかったのだ。
太平洋の洋上で採取されたマイクロプラスチック。大きさが5mm以下のプラスチック片をマイクロプラスチックと呼ぶ。現在、世界の海表面には170兆個を超えるマイクロプラスチックが漂っており、生態系への影響が懸念されている。photography: JAMSTEC
目に見える大きなものだけではない。プラスチックは長い時間をかけて砕かれ、マイクロプラスチックとなって海を漂い続ける。そして、深海に到着したプラスチックは、回収も分解もできず、増え続けることになる。最近では、これらが魚介類を通じて人間の体内に取り込まれる可能性や、空気中の微粒子に混じって日常生活にもおよんでいるという指摘もある。
たとえば、化学繊維を含む衣類の洗濯による排水や、日々の暮らしで使うアイテムが、知らず知らずのうちに海に影響をおよぼしている可能性もあるのだ。JAMSTECは、これまで見過ごされてきた深海域のプラスチック汚染を調査し、その実態を明らかにしようとしている。科学の眼で"見えない汚染"に光を当てることが、いま求められている。
サステイナブルな未来を考えるために、まず"海"を知る
気候変動や海洋ごみといった課題に対し、「何か自分にできることはないか」と考える人が増えている。そんなとき、まず海というフィールドに目を向けることが、大きな一歩となるかもしれない。
2025年7月15日発売のPen特別編集号『君はまだ、海を知らない』(CEメディアハウス)では、JAMSTECの最前線の研究と、その背後にある科学者たちの思いを豊富なビジュアルとともに紹介している。深海や地震、環境問題など幅広いテーマに真摯に向き合うその姿勢から、地球の未来と自分たちの暮らしがどうつながっているのか、知ることができるはずだ。

Pen特別編集号
『海洋研究の最高峰 JAMSTECに潜入~君はまだ、海を知らない』
¥1,320(税込)
※オンラインでの購入はこちらから。
登壇者は、JAMSTEC超先端研究開発部門長の高井研先生。我々の祖先は、海底から生まれたという「深海熱水説」が有力になっているという最新トピックをはじめ、「深海」という未知のフィールドに挑むJAMSTECの活動や海洋研究の魅力をお伝えします。
【日時】
2025年7月31日(木)19:00~20:30
【場所】
代官山T-SITE 代官山 蔦屋書店 3号館2階 SHARE LOUNGE
(東京都渋谷区猿楽町16-15 東急東横線「代官山駅」より徒歩5分)
※オンライン(ZOOM)でもご参加いただけます。
【その他詳細情報】
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/magazine/48491-1435590710.html