江戸の食文化と料理、再発見。#04 土用の丑の日は、鰻の日!
Gourmet 2020.07.21
現代日本の食文化の基本が形作られたといわれるのが江戸時代。季節ごとの食材や行事と結びついた江戸の食文化や料理について知れば、食事の時間がもっと楽しく、幸せなひとときになる。連載「今宵もグルマンド」をはじめ、多くのグルメ記事を執筆するフードライターの森脇慶子が、奥深い江戸の食の世界をナビゲート。今回は、日本人が愛してやまない鰻にフォーカス。
“土用の丑の日”の“土用”って?
今年、令和2年夏の“土用の丑の日”は7月21日と8月2日。
そう、ご存じ、鰻の受難日である。
ところで、時折耳にする“土用”っていったい何のこと?
そう首をかしげる方も、きっと多いことだろう。
この土用、実は中国の「五行思想」に由来する雑節のひとつで、立春、立夏、立秋、立冬の直前約18日間を指す言葉。季節の変わり目を意味しているそうだ。
それゆえ、“土用”は何も夏に限ったことではなく、春夏秋冬、いずれの季節にも巡ってくる。にもかかわらず、夏の土用だけがこれほどメジャーになった理由は?といえば、鰻が一役買っていると言っても過言ではない。
“土用の丑の日”と聞けば鰻を思い浮かべるほど、鰻は日本で愛されている。写真は八重洲の鰻専門店「鰻 はし本」の鰻弁当「ろ」¥4,698。「い」¥3,618、「は」¥6,210も用意。「鰻 はし本」については後述。
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江戸時代の鰻の宣伝戦略。
「本日土用丑の日」。
この有名なコピーが鰻を夏の風物詩に担ぎ上げた。
発案者は、かの平賀源内先生。
江戸時代中期、徳川吉宗の時代に生きた蘭学者で、知り合いの鰻屋から夏に鰻が売れないと泣きつかれ、件の宣伝文句を紙にしたため貼り出したところ大ブレイク。その後、土用の丑の日に鰻を食べる習慣が定着した……とのエピソードは、よく知られているところだろう。
また、平賀先生と同年代の文人、蜀山人こと太田南畝が広めたとの一説もある。文化2年創業の老舗「明神下 神田川」の主人に頼まれて、丑の日に鰻を食べると病気にならない、といった内容の狂歌を詠んだのが始まりだというものだ。
どちらにしても鰻が夏バテによいことは、すでに万葉の昔から知られていたようで、万葉歌人大伴家持も次のような一句を残している。
「石麻呂に 吾れもの申す 夏痩せによしといふものぞ 鰻取りめせ」
とはいえ、当時の鰻の食べ方は、ぶつ切りにした鰻をそのまま串に刺して焼き、味噌などを付けて食べていたとか。その形が蒲の穂に似ているところから「蒲焼き」の名が生まれたといわれている。
鰻を裂き、現在のような甘辛のタレを付けて焼くスタイルになったのは、江戸時代も中期になってから。1750年前後のことだそうだから、まさに源内先生が時代の寵児として注視を浴びはじめていた頃。いわば、当時のトレンドフードだった(と思われる)鰻の蒲焼きを、時代のスーパースターが売り出したとなれば、新しもの好きの江戸っ子のこと、我も我もとこぞって飛びついた……と考えるのは早計だろうか?
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鰻をご飯にのせる鰻丼が誕生。
やがて天明から寛政(18世紀末期頃)の時期になり、蒲焼きは一大ブームを巻き起こし、屋台だけでなく、店を構える鰻屋も増えていったようだ。
先駆けとなった場所は深川近辺。まさに江戸の真ん前で、隅田川から江戸湾にかけての一帯がまさに江戸前。現代では、“江戸前”といえば鮨をイメージするが、この時代の江戸前は、深川、神田川、大川(隅田川)でとれた天然鰻を指し、いわば“江戸前”とは、鰻の代名詞だったわけだ。
「江戸前の風を団扇で叩き出し」という川柳も残っているほどだ。
ちなみに鰻丼の誕生は、文化年間(1804年〜1818年)。発祥の由来については諸説あるが、なかでも有名なのは大久保今助考案説。
人形町の芝居小屋「中村屋」のスポンサーだったこの大久保さん、鰻屋に出前を頼んだ際、蒲焼きが冷めないようにと丼飯の間に挟んで運ばせたのが始まり、とういうものだ。江戸も末期になると、鰻の蒲焼きは、すっかり江戸を代表する食べ物として定着。
徳川幕府最後の将軍、慶喜も鰻の蒲焼きが好物だったようで、慶応4年(1868年)、鳥羽伏見の戦いに大敗し、江戸に逃げ帰った慶喜将軍、部下に命じて蒲焼きを買いに行かせたとの逸話が伝えられている。
ところで鰻の値段だが、蒲焼きが一皿200文。鰻飯が100〜200文、屋台では1串16文がだいたいの相場。米一升の値段が120文程度だったそうだから、江戸時代から鰻は高価な食べ物だったわけだ。
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鰻資源に真摯に向き合う、老舗鰻専門店。
鰻 はし本(八重洲)
昭和22年創業。現在は橋本正平氏が4代目を継ぐ老舗、八重洲「鰻 はし本」。伝統のスタイルを守りつつ、トレーサビリティとサステイナブルな考えに基づく鰻への姿勢は、ある意味革新的ともいえるだろう。
鹿児島県の「横山さんの鰻」をはじめ生産者の顔が見える鰻だけを用い、タレにも独自のスタンスで臨むその鰻は、炭火の薫香も香ばしく、鰻本来の滋味とタレが品よく絡む逸品。その味を家庭でも楽しめるようにと、テイクアウトはもとよりお取り寄せも開始。封を開けた時に漂う香りに食欲が刺激されること請け合いだ。ギフトにも喜ばれそう。
お取り寄せはパッケージにもこだわり、箱には創業者の橋本芳信氏による「鰻 これ くふうて やくのむな(鰻を食べて薬を飲むな)」という、医食同源の理念が印刷されている。
お取り寄せの「うなぎ蒲焼」¥4,536(左)と「うなぎ白焼」¥4,536(右)。どちらも湯煎してうつわに盛り付けるだけで極上の味わい。タレと山椒が付く。さらにおいしく味わうためのクッキングシート、食べ方や店の鰻資源についての考え方も記した「はし本新聞」も同梱される。
「博多地鶏焼」¥1,728のお取り寄せは、近日中にBASEのみにてスタート予定。詳細は決まり次第公式サイトやSNSに掲載。
Unagi Hashimoto
東京都中央区八重洲1‑5‑10
tel:03-3271-8888
営)11時〜13時30分L.O.、17時〜20時30分L.O.(月〜金) 11時〜14時L.O.、17時〜20時30分L.O.(土)
※完売次第終了
休)日
www.unahashi.com
*テイクアウトの蒲焼き・白焼き・鰻弁当も用意。
「い」蒲焼または白焼串¥3,564、お弁当¥3,618
「ろ」蒲焼または白焼串¥4,644、お弁当¥4,698
「は」お弁当のみ¥6,210
*食べログモールにて「うなぎ蒲焼」と「うなぎ白焼」のお取り寄せを実施。近日中にBASEでも「うなぎ蒲焼」「うなぎ白焼」「博多地鶏焼」の販売をスタート予定。
※この記事に記載している価格は、軽減税率8%の税込価格です。
photos : HIROYUKI ONO, texte : KEIKO MORIWAKI