ドン ペリニヨンの元醸造最高責任者による日本酒とは?
Gourmet 2020.11.15
フィガロジャポン12月号では、日本酒を特集!
これに連動してmadameFIGARO.jpでは、いま最も注目されている日本酒・IWA 5を、造り手のリシャール・ジョフロワのインタビューを交えてご紹介。世界最高峰のシャンパーニュ、ドン ペリニヨンを造ってきたリシャールによる、初めての日本酒を大解剖。
公式ホームページより購入可能。IWA 5 720ml ¥13,000/白岩 ©JONAS MARGUET
富山県立山町にてIWAを設立したリシャール・ジョフロワ。©NAO TSUDA
――そもそも、なぜ日本酒造りを始めたのでしょうか。
28年にわたりシェフ・ド・カーヴとしてシャンパーニュを造っていた間に、何度も日本を訪れました。その中で日本酒に出合い、奥深さにすっかり魅了されてしまいました。何よりも感銘を受けたのが、その多様性です。
たとえば福島の大七酒造。控えめでありながら、生酛造りゆえの複雑さがあり、洗練されていました。飲みやすさも日本酒の魅力のひとつで、それはどこか、シャンパーニュとも通じるところがあると思ったのです。
世界に発信できる、なおかつ理想とする味を描いた時、シャンパーニュの基本であるアッサンブラージュ(いくつかの原酒をブレンドすること)の技法が生きるのではと考え、日本酒造りの道へ進みました。
ただいま建設中の、隈研吾設計による酒蔵(イメージ)。
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――理想とする味とは?
やはり飲みやすさですね。喉を通る時の気持ちよさと、さらに、ひと口飲むことによってまた飲みたくなるような味。そのためには、複雑さはもちろん、バランスも大事な要素です。バランスと複雑さ、調和と軽さ、これが何よりも大切なのです。
――理想の味を実現するために、どのようなアッサンブラージュを行いましたか?
味の骨格になる酒米は、山田錦です。そしてテクスチャーを出すのが雄町、味に広がりを持たせるのが五百万石。酵母は5種類。生酛を使うことで、奥行きも生まれました。
ただ、何を使うかというより、組み合わせが重要なのです。味のイメージやレシピは当初考えていたものと基本的に変わりませんが、造っていく中でどんどんと洗練されていったことは確かです。
いくつもの原酒をアッサンブラージュして造られる。
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――どんなシーンで、どんな食べ物と合わせるのが好ましいですか?
富山で造った酒なので、白エビのような繊細なものから、熊などのジビエまで、さまざまな食べ物に合わせられます。もちろん、アジア料理全般、ヨーロッパの料理にも合わせられます。
パリやロンドン、ミラノのトップシェフやソムリエにも試飲してもらいましたが、非常に反応がよかったです。ヨーロッパのファインダイニングで、IWA 5がリストに載る日も近いのでは、と期待しています。
いまはまだ、日本酒を飲む機会や場面が限られていますが、今後は日本酒の可能性を広げるべく、乾杯のシーンだったり、アペロだったり、ぜひいろんなシーンでIWA 5を試してほしいですね。
©NAO TSUDA
――世界最高峰の酒を造ってきたリシャールさんにとって、日本酒造りのおもしろさ、そして日本酒の可能性とは?
シャンパーニュでも日本酒でも、麹だったり、マイクロバイオロジーの世界とは切っても切り離せません。そういった化学的なことも大事ですが、隈研吾さんの紹介のもと、IWAに協力してくださった桝田さん(桝田酒造店の桝田隆一郎社長)や、杜氏の力など、パーソナルなところがやっぱり大事なんです。本当に、多くのことを学ばせていただきました。
前職で長年、美とハーモニーを追求してきたけれど、日本酒との出合いによってそれが新しいレベルに到達させてもらえた気がします。日本、そして日本酒には心から感謝しています。
日本酒こそが、世界の酒の中でも最も複雑な“酒”です。“美しく複雑なハーモニー”を、より一層追求していきたいですね。
1990年、ドン ペリニヨンの第5代目醸造最高責任者として、最高峰のシャンパーニュを発信。2018年に引退し、富山県にて酒造りをスタート。自身が手がけたIWA 5を今年、初めてリリースした。