秘密のシチリアワイン紀行 「フラッパート」と「自然派農法」が生み出す、シチリアワインの奇跡の味とは?

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こんにちは、フォトグラファーの吉田パンダです。眼前に広がる紺碧の海はシチリア・タオルミーナ、その美しさは言わずモガナ、またいつかこの場所に戻ってきたイーナ(←苦しい)というわけで、シチリアきってのリゾート地、タオルミーナに来ています。「コロナ明け」と言われて久しい今日この頃ですが、止まっていた歯車が少しずつ動き出すかのように、連鎖的にフランス以外に出かける撮影が増えてきました。そんな折、ワインにおける自分の師匠であり、朋友でもあるライターU氏から、「元気? 4年ぶりにワインでシチリアに行く話があるんだけど、パンダちゃんもどう?」とご連絡をいただき、ふたつ返事で同行することに。いや行きますよ、飲みます、撮りますよ! そこで、フィガロWeb担当のKさんに連絡をして、この場を借りて前・後編に渡り、シチリアワインの魅力をおこがましくも門外漢の私が皆さんに伝えることと相成りました←大丈夫なのか?

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とは言ってもワインの専門家でもないので、細かいことはあまり聞かないでください←いきなりの宣言出ちゃったよ。ワイナリーを巡りながら、グラスを傾けながらシチリアを旅する楽しさを共有できれば幸いです。

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さて、イタリア最南端に位置する地中海最大の島、その広さは四国の1.4倍にもなる「小さな大陸」、シチリア。ワインの生産地でいえば、ボルドーやブルゴーニュ、トスカーナよりもだいぶ南にあたります。フランスやスペインよりも地理的にアフリカが近く、魂に深く明暗を刻みつけるような容赦のない陽光が降り注ぐ大地。そんな場所で造られるワインとはどんなものでしょうか。

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いきなりの結論ですが、「シチリアワインの魅力とは何なのか」ということを何人かの生産者の方に直接聞いてみました。皆が口を揃えて答えるのは「ここにしかないワインがあるから」というもの。つまり、「ここにしかない葡萄の品種がある。アフリカから吹く風がその葉を揺らし、色彩豊かな地中海の光がその実を育むワインなんだ」と。

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さらにその「ここにしかない」葡萄がシチリアの地に根付いた歴史を考えれば、「ワインを飲むことはシチリアの歴史、文化を飲むことになる」、「グラスの中に積み重なった時間を飲んでいる」のだと言います。

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つまり、ワインはシチリアそのものだと。

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それを逆に考えると、「シチリアはワインそのものだ」と言えることになります←え、言えるか?

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遠くの青空を行く飛行機も、

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サボテンの花も、

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遺跡に積み重なった時間もワインだと。19世紀フランスの化学者、パスツールも「1本のワインの中には、全ての本に書かれているよりも多くの哲学が詰まっている」と仰っています。いやー、だいぶ酔っ払ってますね、先生。

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前置きが長くなりました。かくも、シチリアそのものとも言える多様な魅力にあふれるシチリアワインですが、産地によって大きくいくつかのエリアに分けられます。今回はその中からヴィットーリア地域に絞って、いくつかのワイナリーをご紹介します。

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まずひとつ目のワイナリーはナチュラルワイン界でその名を知らない人はいない、若くして生ける伝説となった「アリアンナ・オッキピンティ」です。

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土壌と仕立てについて説明をするアリアンナ。有名な話ですがいまから20年ほど前、彼女がまだ醸造学校の学生だった頃、イタリアのガストロノミー界で象徴的な哲学者でありジャーナリストのヴェロネッリに、現代の工業化されたワイン造りを憂う手紙を書きました。情熱にあふれ、詩的な表現でワインの神聖さ、自然なプロセスに従う大切さを訴えるその手紙にヴェロネッリは心を動かされ、その内容はさまざまな誌面で紹介されることになります。

ちなみにその手紙の内容をずっと探していたのですが、最近発見しました。ご興味のある方は以下のリンクをご参照ください。
https://www.italianwineshop.it/Produttori/produttore.asp?Produttore=349&Sezione=Oli&ordineo=prs

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そして可憐な(?)女学生の嘆きを、業界のイタリアンなおじさまたちが放っておくわけがありません。アリアンナのワインはファーストヴィンテージから話題となり、その後現在にいたるまで、彼女は手紙に書いていたとおり『自然の均衡を尊重した』ワイン造りを続けています。アリアンナの行動と彼女が生み出すワインはシチリアワインの次元をひとつ上に変えてしまったのみならず、後進の醸造家にも大きな影響を与えていて、文字通り世界を変えてしまいました。

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「ライムストーン(石灰岩)が鍵なのよ」と畑にある石灰岩を手に微笑むアリアンナ。

ワイン造りで彼女が最初に手がけたのが、シチリアの固有品種のひとつであるフラッパートです。数年前、自分は手紙の件も知らないままオッキピンティのフラッパートをシチリアで飲んで、その美味しさというかワインの佇まいに衝撃を受けて、シチリアワインとオッキピンティのファンになりました。

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というわけで、まず飲んでほしいのがフラッパート100%ワインです。写真の3本のワインは全て同じフラッパートですが、それぞれ区画が違います。同じ葡萄でもこんなに違うんだということを、同時に飲むと実感できる3本セットはいかがでしょうか←誰なの。いわばフラッパート三姉妹。ひとり選ぶのは難しいんですが、、自分はFLちゃんを推します(アイドルかよ)! 飲んだ印象では上からBB、FL、PT(畑の頭文字です)という三姉妹で、美人だけどどこか陰もあって色っぽい長女BB、おとなしくて控えめなところが心くすぐる三女PT、そしてクラスにひとりはいる正統派美人、笑顔で世界を輝かせる次女FL、といった趣です。自分にとってはシチリアワイン=フラッパートなので、皆さんもとりあえず覚えてください「フラッパート」。特にブルゴーニュ好きの方に、ぜひ飲んでほしいワインです。

Arianna Occhipinti
www.agricolaocchipinti.it/it

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続いて訪れたのが、上記の伝説ワイン醸造者アリアンナ・オッキピンティをワインの世界に引き込んだ、これまた伝説の叔父さん、ジュスト・オッキピンティが1980年に友人二人と共に始めたワイナリーCOSです。当時パレルモ大学の学生3人の「小さなプロジェクト」として始まったワイン造りは、自然とワインの結びつきを意識する中で化学的に合成された農薬などを一切使用せず、天体の運行に従って行うビオディナミ農法と出会い、いまや世界でも最大規模のアンフォラ(素焼き壺)醸造所としてシチリアを代表する作り手になっています。20230710-sicilia-18.jpg

ちなみにアンフォラとは古代ギリシャ・ローマ時代からオリーブオイルやワインの貯蔵・醸造に使われていた陶製の壺であり、近年、伝統的な手法の再評価と自然派ワインの人気の高まりから、その存在が再び注目を浴びています。

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醸造施設内に描かれた壁画がユニークです。「母なる大地」。

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いまになっても、創業当時の情熱を失っていないジュスト。1980年のワイナリー立ち上げ以来、葡萄畑では化学的なものを一切使用していません。

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薄暗い照明の中、今後の世界の趨勢を決める秘密会議がシチリア南東部の一室で始まろうとしてい......るわけではなく、天井の高い試飲ルームです。

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白→赤へと試飲は続きます。口に含んで吐き出すにしても、身体で味わうべく、ほんのちょっとずつ自分は飲んでいるのですが、えー......だんだん酔っ払って参りまして、早く夕食をいただかないと......←いい加減にしなさい。

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どのワインも自然体ながらエレガンス、癒しともいえる深みがあって素晴らしいのですが、終わりなき試飲の中で一本だけを選ぶなら、シチリアで唯一のDOCG(格付けです)認定をされているチェラスオーロ・ディ・ヴィットリア・クラシッコでしょうか。フラッパートの芳醇な香りと若々しさに、ネロ・ダーヴォラのリッチ感をブレンドした良いとこ取りのワイン。食事にもぴったりの一本でした。

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お腹が空きすぎて、台所を覗きに来ました。夕食を担当してくれたマンマのおふたり「もうちょっと待ってなさい!」。

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はい、待ちました! いただきます。どうしてこんなに美味しいんだろうと毎回思う、シチリアの焼きリコッタチーズを始め、ピサラディエールのような玉ねぎピザに、ズッキーニのフライ、茄子とチーズ、トマトバジル。ワインが進みます(試飲で十分飲んだけど)。

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野生のフェンネルのパスタ。パン粉の食感が絶妙で、箸ならぬフォークが進みます。

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このパスタにぴったりな泡がこちら。COS Metodo Classico Extra Brut2019、ビオディナミ栽培、手摘みのフラッパート100%をアンフォラで一次発酵後、瓶内で二次発酵を行い澱とともに56ヶ月間熟成。どおりで美味しいフラッパート。フラッパートに始まり、フラッパートに終わる一日でした。シチリアワイン紀行、次回に続きます。

取材協力: Assovini Sicilia

写真家。長年住んだパリを離れ、現在フランスはノルマンディー地方にて、犬猫ハリネズミと暮らしている。庭づくりは挫折中。木漏れ日とワインが好きで夢想家、趣味はピアノ。著書に『いぬパリ』(CCCメディアハウス刊)がある。instagramは@taisukeyoshida

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